第20話 さあ~~世直しパトロール開始ですわ~~♪

「さあ~~みなさん仮面を!」


 移動中の馬車内でお姫様の元気な声が響く。

 俺たちは世直しパトロールなるものを実行するため、外へ繰り出していた。


 メンツとしては、

 レッド(ショウタ)、ピンク(ルーナ)、ブルー(アンナ)、グリーン(シオリ)の合計4名だ。


 そして王都の郊外まで出たところで、ルーナから仮面装着の指示が出る。


「なあ、ルーナ。これ付けたら余計に目立つんじゃないか?」


「いいえ、ショウタさま。いつ悪者が現れるかもわかりません。ここからは気合をいれますわよ」


 ちなみに俺たちは、なんの情報も無く動いているわけでは無かった。

 ルーナが事前にある程度の情報を集めていた。


 彼女の集めた情報によると、王都郊外の街道で盗賊団による被害が増えているらしい。しかもなぜか果物を載せた馬車が狙われるらしい。


 なので今回は被害の多かった街道を中心に、パトロールというわけである。

 人気のない街道を走る馬車。まわりに護衛もつけていないので、盗賊団からすればカモに見える。つまり、おびき出すのに丁度良いってわけだ。


「しかし盗賊団かぁ。」

「そうですわね。王国騎士団は魔王軍の対応に追われてますので、どうしても手薄になってしまいますの」


 あれだ、国が乱れると治安が低下して野盗が増えるというやつか。


 そしてパトロール開始から数分後。


 シオリちゃんが、なんかフガフガしはじめた。



「うぅ……る、ルーナ様。こ、これ息が辛いですぅ」


 それな。


 この仮面、無駄に気密性が高い。


「あら、グリーン(シオリ)の仮面に穴を開けるの、忘れてましたわ」


「ルーナ様ぁ!?それ死んじゃいますよぉお!」


 ピンク仮面のルーナが、シオリちゃんの涙目の抗議をなだめて仮面を手直しする。


 ルーナはダンジョンの時と同じく、貴族の騎士みたいな恰好をしていた。

 ピッタリしたコルセット風のトップスに、フリルやリボンの装飾がついており、下はスカートとブーツ。そして、腰には前回同様レイピアをぶら下げている。

 アニメに出てきそうな優雅な姫騎士スタイルって感じか。


 シオリちゃんは、高校生の制服を改良したみたいな感じの服装。ビシッとしたジャケットにスカート、そしてブーツだ。衣服には防御力をあげる魔法が付与されているらしい。

 手には、癒しの勇者だからなのか聖杖が握られている。


 そして、メイドのアンナさんは……いつものメイド服だ。


 一見バラバラに見えるこの3人の服装には、共通点がある。


 全員スカートが短い。


 動きやすいのかもしれんけど、そこに疑問を持たないのであろうか。

 見られてもいい見せパンでも履いてるのかもな。


「予言書(ラノベ)ではチラつかせている描写が多々散見されますわ!」


 聞いてもいないのに、ルーナが元気よく俺の疑問に答えた。

 そこは予言に忠実でなくてもいいのだが……。


 でも心の奥で「ありがとう」とだけ言っておいた。


 そんなおっさん的な妄想をしていると、急に馬車がガタンと停止する。


「ひめ……じゃない……ピンク(ルーナ)さま。前方に馬車が止まっています」


 御者台のアンナさんが、状況を俺たちに伝える。


「なんだろう? 盗賊団が出たのかな?」


「とにかく行きますわよ。警戒を怠らぬよう」



 ルーナの声と共に馬車を降りた俺たちは、周囲を警戒しながら止まっている馬車へ向かった。何人か馬車の外でグッタリとしている。


「な……なんだ、あんたら」


 グッタリとした男が力なく呟く。


「なにがありましたの?」

「盗賊団だ……荷を全部やられた……俺らは隙をついてなんとか逃げ出せたが……このざまだ」


 逃亡の際に負傷したというわけか。


「とにかく治療ですわね。グリーン(シオリ)、出番ですわよ!」


「ふぁ、ふぁい! ルーじゃないピンク(ルーナ)さま!」


 シオリちゃんが、タタタと負傷者の元に向かい手をかざす。



「―――癒しの息吹ハイヒール!」



 緑色の光が倒れている男を包み込み、傷口がふさがり血色が良くなっていく。


「おお……こ、こりゃすごい。珍妙な仮面をつけているがあんた神官さまか?こんな回復魔法受けたことがないぞ」

「え、えっと……ぐ、グリーン(シオリ)です!」


 回答に困ったのか、力技で押し切るシオリちゃん。

 彼女からすると自身の事よりも治療回復を進めたいのだろう。


 シオリちゃんは次々と倒れている人を回復させていく。


 シオリちゃんが活躍している間、俺とルーナはリーダーらしき人に詳しい事情をきく。彼らは商人らしく、主力商品の果物を載せて隣国から王都へ向かう途中だったらしい。


「【結界】の検問所を超えてからしばらくして、盗賊らしき一団に襲われました。我々はなんとか逃げ出せたのですが、仲間は捕まってしまったようです」


 3台の馬車のうち逃げ出せたのは、この1台だけとのことだ。


 そして出て来た果物というワード。

 ルーナの事前情報にもあったとおり、果物を狙う盗賊団で間違いないようだ。


「ってことは街道を進めば、盗賊団がいる可能性は高いってことだな」


 俺の言葉にルーナが頷く。


「事情はわかりましたわ。あとはわたくしたちで盗賊団を探しますわ。あなた方は馬車で王都へ向かいなさい。それほど遠くはありませんわ」


「ですが、もう馬が……」


 無理に走らせすぎたのか、馬たちは小刻みに震え息遣いは荒い。


「フフ、グリーン(シオリ)お願いしますわ」


「は~~い! お馬さんも~~癒しの息吹ハイヒール!!」


 どんどん血色が良くなっていき、ヒヒ~ンと元気な声を上げる馬たち。


「これで、問題ありませんわね」


 すげぇ……

 さすが癒しの勇者だけある。


「グリーンさん! ありがとうございました~~」

「レッドさん、ピンクさん、仲間のことよろしくお願いします」


 なんか偽名が普通に受け入れられていた。

 こちらの異世界風な名前なんかな。違和感ない感じで名前呼んでるし。



 馬車に乗り込んだ俺たちは、商人たちを襲った盗賊団がいるであろう街道の先へ急いだ。


「どうした?シオリちゃん」


 向かいに座る女子高生が、口元に小さな笑みを浮かべていたので思わず聞いてしまった。


「へへ……ショウタさん。私、王城の人以外に回復魔法使ったの初めてなんです。私の力でもみんなの役に立てるってことが実感できて。……ちょっと嬉しかったりしてます」


「そうか、それは良かったな。シオリちゃん大活躍だったからな」

「えへへ……ショウタさんに褒められちゃった」


 そう言うと少し頬を赤くして微笑むシオリちゃん。

 なんだこのかわいい生き物は。もう、おっさんでよければいくらでも褒めちゃうぞ。



「みなさん、おしゃべりはそこまでのようですわ」


 と、そこで横からルーナの鋭い声が入る。


 御者台のアンナさんがこちらを向く。盗賊団を見つけたようだ。

 ある程度の距離をとって馬車が止まり、静かに下車する俺たち。


 少し先の街道から、複数の野太い笑い声が聞こえる。

 さらに前に進むと街道の脇で、騒いでいる集団が見えた。


「あいつらが盗賊団か」

「ふわぁあ、いっぱいいるよ……ショウタさん」


 人数はこちらからの目視だけでも10人以上はいる。


 宴会の最中で、戦利品の酒を片手に上機嫌な様子だ。

 酔いが深いのか、まだ向こうはこちらに気付いていないようだ。



「よし、ここは慎重に……ってルーナ!?」



 やだ、お姫さま勢いよく飛び出して行くじゃないの。


「さあぁああ~~~行きますわよぉお―――トゥ!」


 トゥって……クソっ行くしかない!!


 俺たちも全員「トぅ!」と言いながら盗賊団の懐に飛び込んでいくのであった。






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