第19話 おっさん、仮面レッドになる

「さあ~~ショウタさま~世直しパトロールに行きますわよ~!」


「はい?」


 王城内のルーナの自室に元気な声がひびいた。


 何を言ってるんだろうか?このお姫様。

 ルーナはその巨大な膨らみをブルンと揺らして、予言書(ラノベ)を取り出した。


「予言書によると、悪事を働く者を成敗するイベントがありますわ」

「まあ、そういうイベントがないとストーリーが進まないからな。でも基本は偶然発生するとか、事件に巻き込まれるとかじゃないのか?」


「ンフフ~その通りですわ~ですがショウタさまは追放されずに王城にいますわ!」


 そうだな。ルーナに首根っこ掴まれて、引きずられたからな。


「これではイベントが発生しませんの。だからこちらから行くのですわ~」


 なるほど、それでパトロールか。


「主人公のショウタさまが動けば、魔族がらみのイベントが発生するかもしれませんわ」


 なるほど、それで俺も行くのか。


 って……なるほどじゃないだろ!


「いやいや、そんな都合よくいかないだろ?」


「大丈夫ですわ~~だってショウタさまは常にイベントの中心にいるのですから」


 まったく大丈夫な感じはしないが……

 まあ訓練ばかりやっていても仕方ない、というのも一理あるといえばある。それにたまには外に行きたいしな。


「しかしさすがに姫が勝手に出歩いてちゃ、マズいんじゃないか?」

「ショウタさま、姫さまは王族の中でも特別に自由を与えられています」


「アンナの言う通りですわ~わたくしの事は気になさらず」


 たしかに、よくよく考えてみたらルーナは、まえのダンジョンでも護衛すらつけずに出歩いてたか。

 普段の行動も自由極まりない。本当にこのお姫さまは自由王女なんだな。


 よし、パトロールしようってのはわかった。


 んで……


「それは何かな?」


 俺はルーナの手に握られている仮面を指さした。

 これずっと気になっているのよ。


「仮面ですわ!」


 うん、そりゃ見れば分かるよ。


「正義の味方は仮面をつけますから♪」


 ああぁ……そういう……


 しっかり読んでないけど、たしかルーナの持っている予言書(ラノベ)は、主人公が追放された後に正体を隠すエピソードがあったな。それの影響か……


「はい、ショウタさま♪」


 満面の笑みでルーナに渡された仮面。


 赤かよ……主人公枠と知ってのことか。


 ルーナはピンクか。まあヒロイン枠だし髪色もピンクだからな。

 んでメイドのアンナさんは青と。まあクールキャラってことか。


 とにかくつけてみるか。意外にぴったりとフィットするぞ。


 ルーナのやることはいつもぶっ飛んでるけど、彼女なりに考えがあってのことだと思う。


 王国はここ2年間、魔王軍との戦いで疲弊している。

 陸地でつながっていないとはいえ、海を隔てた向こう側の大陸はすでに魔王領なのだ。

 そして王国の海岸線は常に魔王軍の侵攻にさらされており、現状辛うじて上陸を防いでいるらしい。


【結界】も王都周辺まで張るのが限界らしく、王国全土や長い海岸線まではカバーできない。

 だから王国軍の主力は海岸線沿いに配置されている。


 つまり国内にまで目を向ける余裕はない。


 だからルーナは、パトロールとか言いだしたのではないだろうか。


 ルーナの行動は予言書(ラノベ)を元にした発想かもしれんが、それだけではない気がする。

 一緒にいる時間が増えれば増えるほど、そう感じるようになってきた。


 姫1人におっさん1人。


 やれることは限られているが、行動することは大事だな。


 と、まあ真面目な思考を巡らせてみたのだが……


「ルーナさん……この仮面、息がしづらいです……ぶふぅ」


「我慢ですわ! 正義の味方は文句言いませんの!」


 いや、文句というか普通に酸欠になりそうなんだが。

 仮面とは思えんほど顔面に密着してる。


「これ、口の部分は穴をあけよう」


「ムゥ……仕方ないですわね。出来れば全面密着させたかったのですが」


 いや、それだと死んじゃうから。


 しばらくして、改良された仮面を装着する俺たち。


「おお、これなら息ができるな」


「ンフフ~~これで問題は無くなりましたわね~~にしてもショウタさまは仮面も似合いますわ~~♪」


 ええ? そうなん?


「そ、そうかな……アンナさんはどう思います?」



「………………お似合いです」



 いや、凄まじく間がありましたよね!?


 良く考えたら、おっさんが仮面つけてるんだぞ……下手したら捕まるじゃん。


「では、パトロールに出発ですわ~~♪」


「ちょっと待って。アンナさんも連れてくの?」


「もちろんですわ~~アンナはそこそこ腕が立ちますのよ」


 マジか……生活周りの事は当然ながら完璧だし、さらに戦闘もできるメイドさんかよ。


「あ、そうですわ。パトロール中は偽名を使いますわ。正体がバレないように。

 レッド(ショウタさま)、ピンク(ルーナ)、ブルー(アンナ)ですわ」



 そして勢いよくドアを開けるルーナ。


 まてまて、取り敢えず仮面取ってから出ようよ……これ密着してけっこう……んん?


 ドアの前にはシオリちゃんが立っていた。ノックする直前だったのだろうか。



「へぇ?なんですかあなたたち!? 

 って――――――ひゃぁああ!!」



 素早くシオリちゃんを部屋に連れ込むルーナ。


「あら、正体を知られてしまった以上……ただで帰すわけにはいきませんわね~~フフフ♪」


 いや、正体は奇跡的にバレてない気がするけど……

 しかしそんことは関係なしに、懐からなにかを取り出したルーナ。


 ―――ガツッ!!


「ふあっ~~やぁああんん!!」


「ふぅ~~これであなたも仲間ですわ」


「え?え?えぇえええ!」


 何が起こっているのか理解が追い付かずに、激しくテンパるシオリちゃん。



「―――ふわぁああんん! なにこれぇええ!?」



 ここにグリーン(シオリ)が誕生した。


 いや、何やってんだよ、これ。




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