第9話 さあ~ダンジョンに潜りますわ~~♪

 俺たちはルーナに連れられてダンジョンに来ている。

 ある程度地力がついてきた俺の更なるレベルアップの為とのことだ。


「王都のすぐ近くにダンジョンがあるなんて、危険じゃないのか?」

「そこは大丈夫ですわショウタさま。ダンジョンの魔物は魔王に操られておりませんし、ダンジョンの外に出てくることもありませんわ」


 そうなんだ。

 まあダンジョンって特殊な設定があるイメージだし、それがこの世界のルールなんだろう。


「それにここは比較的攻略しやすいダンジョンですから。

 ―――さあ! 一気に最下層まで行ってレベルを上げまくりますわよ!」


 ちなみにルーナはレベルという単語を連発しているが、この世界にレベルという概念はない。たぶん予言書(ラノベ)知識だろう。

 が、敵を倒せば紛れもなく経験値は上がるし、強くなるのは確かだ。



 ダンジョンに入ると、石畳の通路が奥へと続いている。通路と言ってもかなり広く、ひんやりした空気が奥から流れてきて少し緊張感を高める。


「けっこう綺麗なかんじなんだな……」

「ええ、ショウタさま。このダンジョンはほとんど石畳でできておりますの」


 なんか神殿みたいな感じだ。


「にしても、お姫様がこんなところに護衛も連れずに来ていいのか?」


 良く考えたら、ルーナの傍にいるのって基本メイドのアンナさんだけだからな。

 そのアンナさんも、王城でお留守番だ。

 ルーナって護衛連れているの見たことないんだよな。俺を追放から救って引きぬいたのもルーナの独断だろうし。なんだろう王族の中でも特別枠なのかな?

 他の姫さまとか見たことないから、なにが普通なのかはわからんけど。


「ンフフ、ショウタさまに勇者さまですよ。これ以上の護衛がいまして?」


 俺への期待が高いなぁ……嬉しくはあるけどな。



 それに勇者もいるし。か……。



 俺はチラリと横を歩く女子高生に視線を向ける。


 チラ見に気付いた彼女は、整った顔立ちをすこし歪めて「なんですか?」といった感じで睨んできた。


 あたりが強い……。


 リンカさんだ。


 なぜゆえに彼女がいるのかというと。



 ~ダンジョンに入る1時間前のこと~



 ルーナは、勇者3人にも声をかけていた。


「うぅ……凄く行きたいですけど、私はこのあと聖女さまと【結界】を張る訓練です……」

「僕もシオリと同じくで光魔法の防御を教わる予定で……」


 シオリちゃんの頬が膨れている。そしてやたら俺との距離が近い。


 2人の訓練は前回魔族の襲撃で損傷した、王都周辺の【結界】を強化する作業でもあるらしい。

 聖女が張る【結界】のお手伝いも兼ねているのだとか。


「そうか、それは【結界】の方を優先しないとな」

「むぅう……リンカちゃんが羨ましいですぅう」

「シオリ、近いから」


 シオリちゃんを引き離すリンカさん。

 当の本人はまったく羨ましそうな顔ではない。むしろ険しさが目立つ。

 そして(あんた警戒心なさすぎよ……おっさんなんだから気を付けて)なんて小声が俺にも聞こえて来た。


「実戦ってことなら、あたしは参加させてもらうわ。これの切れ味も試したいし」


 腰に下げている剣に手を当てて、参加表明する美少女剣士。



 ~ということで今に至る~


 つまり今ダンジョンにいるメンツは、俺、ルーナ、リンカさんの3人ってことだ。


 そして見ての通りリンカさんとの会話はほぼゼロだ。

 しゃべってるのは俺とルーナだけ。


 まあ、彼女の前ではほぼパンツしか出していないしな、俺。

 あやしい変態おっさんだと思われているだろうから……これを機に誤解を解きたいところだ。



「しかしダンジョンに潜る日が来るとはな」


 実際に俺自身がダンジョン探索するなんて。緊張もあるが、ちょっとワクワクするじゃないか。


「ショウタさまは特訓で魔力や基礎体力はかなり上がっています。ですから次は―――」


 ―――!?


 ルーナの声が終わる前に、前方からなにかが近づいてくる。

 魔物だ。アレはゴブリンぽい?


 うお、生ゴブリンだ。

 人型で少し背が低くて猫背。イメージ通りな感じだな。



「ゴブリンは低級モンスターですが油断なきよう! さあみなさんいきますわよ~~!」



 ルーナが腰につけたレイピアを抜く。

 が、それよりも速く人影が前に飛びだした。


 リンカさんだ。


 彼女はゴブリンまでの距離を一気に詰めると、剣を抜き放つ。


 次の瞬間、シュッという風切り音とともにゴブリンの頭部と胴体がスパッと切り離された。


「さすが、剣の勇者さまですわね」


「あ……ああ」



 すげぇ……速ぇええ。ぶっちゃけ良く分からんうちにゴブリンの頭が飛んでた。



 勇者バフもあるんだろうけど、この子も必死に訓練してたんだろう。

 そもそもの動きが洗練されているように見えるぞ。素人目だけど。


 シオリちゃんから教えてもらったが、彼女はどこぞの有名な剣道道場の一人娘らしい。

 型は幼少の頃からみっちりと鍛えてるんだろうな。


 それに魔物とはいえその命を奪うのだ。ましてやゴブリンは人型だ。精神力も相当なものだな。


 こりゃ俺の基礎能力とは段違いだ。


 もう勇者3人がきっちり育てば、魔王倒せるんじゃないのか?


 さらにガサガサと近寄ってくる複数の影。

「グゲェ」「グギャ」と気味の悪い音を発して。


 新手のゴブリンたちだ。


「さあ、魔物はたくさんいますわよ。ショウタさま!」


 ルーナがニッコリとGoサインを出す。


「たしかに勇者さまは凄いですわ……ですが、ショウタさまはそれ以上のお方ですから」


 やだ、そんなに持ち上げないで。


 だが……俺も地獄の特訓を乗り越えて来たんだ―――


 やるぞ!


「―――【三流召喚魔法】!」



 光輝く空間。召喚物が、その姿を徐々にあらわす。



 ……たわしでした。



 さすがガチャ召喚。


 期待を裏切らないハズレっぷりだ。


 周囲に目を配ると、

 相変わらずリンカさんは、前方で剣を縦横無尽に振るっている。

 ルーナも腰のレイピアを抜いて近づくゴブリンには、突きを与え。


 そして俺は。


「―――【三流召喚魔法】!」

「―――【三流召喚魔法】!」

「―――【三流召喚魔法】!」


 たわし、たわし、たわし。


 今日はタワシ率が高いぜ。


 って! ちょっと待て。たわしじゃ戦闘にならん!



 違うの引いてくれ!



「―――【三流召喚魔法】!」


 んん?


 どうした? 


『マスター中アタリデス』


 なにそれ!? 初耳のワードですけど!


 光輝く空間から出てきたのは―――



『ピッチングマシーン(召喚時間制限なし)』



 はい? ちょっと微妙なの出てきた。




―――――――――――――――――――


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