第10話 おっさん、ピッチングマシーンで高速たわし

「まあまあ! なんですのそれ!」


 お姫様が目をキラキラと輝かせて興奮している。


 俺が召喚したのはピッチングマシーンだった。バッティングセンターにあるやつ。

 近現代のチート兵器……ではない。


 が、ワガママは言ってられない。


 たわしよりは全然いいだろう。

 とにかくボールを入れて、ゴブリンたちに当てるしかない。


 ―――って


「おい……ボールがないぞ」

『……召喚制限なしデス』

「それは良かった。で、ボールはどこだ?」

『……最新のエアー式デス』



 エアー式、空気を圧縮して打ち出すタイプのやつか。なんかの動画で見た気がする。

 だが最新式だろうが、ボールがないピッチングマシーンでどうしろってんだ。


 これはもうハズレなのではないのか。


 いや……まて、考えろ。


 そうか! あるじゃないかボールの代わりが。



 ―――たわしだ!



 俺は大量に召喚したたわしをセットして―――


「よし、発射!」


 ―――ビシっ!という音と共に、ゴブリン一体に命中するたわし。


「グゲェ!」


 ゴブリンは動きを止めて痛そうにするが、再び戦闘態勢をとる。


 くっ……やはりこれで致命傷は無理か。


「まあ~たわしの武器なのですね」


 ルーナが不思議そうにピッチングマシーンを見つめる。

 違うんだけど、今はそんなことを言っている場合でもない。


 前方でリンカさんが剣を振るっているが、さすがに数が多い。

 俺も早く戦力として参加しないと。


「今ので、速度はどのぐらいだ?」

『球速150キロデスネ』


 たしかに速いことは速いんだけど。


「もっと上げれない?」

『はいマスター、安全装置を解除すれば、球速300キロはデマス』


 なるほど、それは未知の領域だな。


 よっしゃ、それいこう!

 安全装置を解除して。再度発射!


 ―――ビュウウッッ!



 はやっ!



 高速たわしは一瞬でゴブリンに命中。


「グギャァアア!」


 倒せてはいないが、これはかなりのダメージを与えたぞ。


「よし、連発だ! たわしならいくらでもあるぞ!」

『了解デス。マスター』



 召喚、召喚、召喚、たわし、たわし、たわし、発射、発射、発射!


 ゴブリンが倒れて動かなくなる。

 おお! 数発で倒せた! これはいける!


 それに倦怠感もないし、体も全然動く。


「ショウタさま、魔力は大丈夫ですの?」


「ああ、ルーナ。全然大丈夫だ。これも君の特訓のおかげだな」


「ンフフ~~ショウタさまは最強ですから、当然ですわ♪

 ―――さあ、この勢いのまま一階層を突破しますわよ!」



 リンカの剣、ルーナのレイピア、そしておっさんのタワシで第一階層を突破した。



「あれ? ピッチングマシーン消えないけど?」


『マスター、今回の召喚物はアタリですが、召喚制限である有効時間なしの無制限使用が可能デス』


 制限なし? あ、そういえばさっきスキルが言ってたな。


 そんなアタリもあるのか……


 だがちょっと待てよ。これ第二階層へ持ってくのか?

 俺はピッチングマシーンを背負ってみる。


 うぬぅうう! 重すぎる!


 これは流石に無理だな……仕方ない、置いてくか。


 すると、ルーナがパタパタと寄って来た。



「ショウタさま~~ここ♡」



 自身の胸の谷間を指さすルーナ。



 いや無理やろ! さすがに入らんぞ! 



 ルーナの膨らみが大きいといっても、いくらなんでも!!


「ご安心をショウタさま。実はここにマジックポーチを入れてますの」


 へ? 


「マッジクポーチって、小さな袋に色々収納できちゃうやつ?」


「そうですわ、王城の宝物庫で見つけましたの~~」


 マジかよ……それで色々出てきてたのか……ルーナの谷間から。


 てことでピッチングマシーンを抱えて、ルーナの谷間に入れる。

 途中からグニャりと小さくなり、谷間に吸い込まれていくピッチングマシーン。



 いや、凄いな……色んな意味で。




 ◇◇◇




「ここが二階層か」

「そうですわ。ダンジョンは全部で四階層までありますの。今日中に二階層まで攻略したいですわ。ショウタさま、体調は大丈夫ですの?」

「俺は大丈夫だ。リンカさんは? ケガなどしていないか?」


「問題ないわ」


 うむ、必要最低限しかしゃべらないか。

 まあすぐに警戒を解いてくれるわけだもないし、焦らずゆっくりいこう。


 俺はそれ以上声をかけるのはやめにした。


 二階層に入ってしばらく歩くと、前方になにかが見えて来た。


 箱だ。

 床に箱が2~3個ある。


「おお! あ、あれは……!!」


 すごく既視感のある箱!


 ゲームやアニメでよく見る箱!



 た、宝箱じゃないか!



「る、ルーナ! 宝箱だろ! これ!」


 うぉおおお!! 宝箱だ! ヤバイ、実物はじめて見た! 

 高まるテンションを抑えきれずに、近づくと―――



 ―――ガブっ!



 その箱は噛みついてきた。


「それ、ミミックですわ」


 早く言ってくれよ……あぶねぇ、すんでのところで避けたけど。あやうくガブリいかれるとこだった。



 ミミック。宝箱モンスターの定番。


 空いた箱自体が口になっており、長い舌を出してブンブン振り回してくる。


「うお!」


 しかも意外に素早い。

 箱の状態でピョンピョン飛び跳ねるので、動きも読みにくい。



「剣技――――――閃光瞬花せんこうしゅんか!」



 リンカが勇猛果敢に飛びだした。

 そして凄まじい速度で、ミミックを捉えるリンカ。


 剣技とは剣の勇者が使用できる固有スキルのようだ。


 が……


 ガキッ! という音と共に彼女の剣は弾かれた。

 ミミックも弾き飛ばされダンジョンの壁に激突して、ぐったり動かなくなる。


「くっ……斬れない……」


「ショウタさま! 想像以上に硬いですわ!」


 ルーナも応戦しているが、レイピアでは突き抜けないようだ。


 俺もピッチングマシーンで応戦する。

 リンカの剣技でも斬れないのだから……たわしじゃ……


 やはり当然のごとく弾かれた。


 だが、偶然にもたわしがミミックの口に入ると、苦しいのか動きが止まる。


「おお! なんか効いてるぞ!」


 俺はすかさず連続で高速たわしをミミックの口に叩き込む。


「連続たわしだ! どうだ?」


 ミミックは窒息したのか、ピクピクして動かなくなった。


「よし、たわしでも戦える!」


 俺はミミックに向けてたわしを連発しまくる。

 リンカも斬れないにせよ、剣を叩きつけて応戦していた。


「にしても……」


 なんかミミック増えてない!?


 よくみると奥の方から、やたらとピョンピョン跳ねてくるじゃないか。


「ショウタさま……おかしいですわ」

「ミミックが多すぎるってことか?」

「ええ。ミミックは基本的に自ら動かない魔物のはずですわ」

「なのに動いている?」

「ええ、この多さはダンジョンの奥にいるミミックまで、こちらに来ているからだと思いますわ」


 なんだろう。奥にヤバいのでもいるってのか?

 これ、なんかのフラグじゃないだろうな。


「とにかくここを突破しないことには、なにもわかりませんわ。

 あと―――リンカさん! 前に出すぎですわ!」


 ルーナの声が響いたと同時に、ガキンッと鈍い音がした。


「くっ……」


 リンカの剣が折れた音だ。

 何度も硬いミミックに、強力なスキルをぶつけすぎたからか。 


 ミミックが彼女の周りに集まって来る。


 折れた剣を捨てて、体術で応戦するリンカ。

 随分と鍛えたのだろう。素早い身のこなしでミミックの長い舌の打撃を躱していく。


 が、やはり剣がない事で大きなダメージは与えられないのか、徐々に押されだす剣の勇者。



「ショウタさま、このままではリンカさんが孤立してしまいますわ」


 ルーナの言う通りだな。

 防御戦になりつつある今、一塊になった方が戦いやすい。


 不規則なミミックの動きも、ひとつの場所にしか来ないのなら読みやすいし。


「ルーナ、高速タワシで援護たのむ!」

「はいですわ!」


 ピチングマシーンをルーナに任せて、リンカのところへ駆け抜ける。



「―――大丈夫か!」


「ちょ、なに来てんの!危ないわよ!あなたに勇者の力はないでしょ!」


「ああ、だけどこのままじゃ君が危ないだろう。それにリンカさんだって、剣を失っている。ここはルーナのところへ戻って連携したほうがいい」


「あ、あたしは特別な力をもらって……」


 会話を遮るようにミミックが数体襲い掛かって来る。

 さらに前方の戦闘に気を取られているリンカの背後に迫る舌。


 ―――ヤバイ! 


 俺は咄嗟に彼女と舌の間に割って入る―――



 ――――――ドゴッ!



 強烈な一撃が俺の下腹部にクリーンヒットした。


 俺の体が一瞬宙に浮き、のち地面に叩きつけられた。


「え? ちょっ……なにやってるの!」


 リンカが倒れる俺の傍に来てくれた。


 俺の異世界人生ここまでか……


 最後はツンツン女子高生に看取られて……って!?


 ……あれ? 俺の体は特にケガも無く、血も吐いていいない。「グハァ……!」ってなるぐらい殴られたのに。

 たしかに痛いことは痛いな……だが



「――――――覚醒君のほうが、よっぽど痛かったぞ!」



 おお、凄い。あの地獄は無駄じゃなかった!


「ムフフ~~特訓のせいかですわ~~ショウタさまは普通の痛みでは感じない体になったのですわ~♪」


 ルーナが後から興奮の声を上げる。

 ルーナの言う通り、おっさんは確実に成長しているな。痛みに強くなった!

 言い方が微妙だから、目の前のリンカさんが若干引いてるが。



 しかし、ミミックの進撃はまだ終わらない。奥から新手がぴょんぴょん現れて、俺たちは苦戦を強いられていた。

 未だにルーナと俺たちは、離されたままだ。

 後方からピッチングマシーンで援護射撃をしてくれているが、それだけじゃ間に合わない。


 クソ! こうなったら、直接たわしをぶち込んでやる!



「―――【三流召喚魔法】!」



 あれ? 


 なんか、たわしじゃないの出た。


「剣か……?」


 いや違う……これは……



『マスター、打刀(タングステンカーバイド超硬合金製:召喚時間制限なし)デス』



 いや、カッコ書き多すぎだろ……


 ―――日本刀でいいよ。






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