第8話 おっさん、いろいろと重宝されていた

「ふぅ……今日の特訓終了か」


 覚醒君(訓練ゴーレム)の起動音が静かになり、ピタリと停止する。


 特訓開始から1週間がたった。


 今日も覚醒君たちにボコれて、死にかけまくって、復活しまくって、召喚しまくる。

 チート的な強さではないにせよ、基礎体力は徐々に上がっている。


 それと攻撃に対する過度な恐怖心が薄れてきた気がする。

 ないとダメだろうけど、基本ビビりなのでそこは解消されつつある。


 そしてなによりの成果が魔力である。


 たった1週間だが、魔力はかなり上がったようで召喚回数がだいぶ増えた。

 さらに、転移初日のような魔力使用後の倦怠感もなくなってきている。


 そしてお待ちかね、今日の召喚結果発表~~。


 パンツ、パンツ、パンツ、石ころ、パンツ、パンツ、たわし、パンツ―――



 ほぼパンツでした~~



 くっ……アタリあんのかよ……


 だが俺の【三流召喚士】はガチャ召喚という特性をもつ。

 だからハズレが連発するのは致し方ないこと。


 そこで俺は一つの結論に至る。


 とにかく召喚しまくる。だ。


 ガチャである以上は、引けば引くほどアタリが出る可能性は高くなる……はず。


 そのためにはアタリをひくまでの魔力、そしてあたりを引いてからの魔力、さらに連発詠唱に耐えうる肉体。これだ! と思ってルーナの特訓に取り組んでいる。


 いや、正直なところ不確定要素多すぎだろと思うところはあるけど。


 俺にだけ備わったユニークスキルなんだ。

 昔夢見た異世界で活躍できる鍵となる力だと信じる。


 グダグダ言わずに、今やれることをやろう。



 俺は拳を強く握りしめるのであった。



『マスター、悦に浸っているところお邪魔しますが、攻撃がキマス』


「―――ゴフッ!!」


 体に強烈な衝撃が走る。おなじみの覚醒君パンチだ。

 くっ……今日は「はい、終り~」とみせかけてからのおかわりか。



 いいだろう……とことんやってやろうじゃないか。




 ◇◇◇




 そしてさらに一か月がたち。

 今日もおなじみの訓練中である。


「いや~~さすがにもう慣れてきちゃったぞ」

『こんな鬼畜訓練を継続デキルトハ。やはりマスターは変態デスネ』


「フフ……小生意気なスキル君よ。俺の魔力量はかなり上がったぞ」

『たしかに、これは凄いデス。それ以外のステータスは並デスガ』


 くっ……一言多いぞ。



 スキルとそんなやり取りをしていると、かわいくも少し抜けた声が聞こえてきた。


「ショウタさ~~ん」


 お、シオリちゃんとリンカさんか。


 俺に向かって手を振る可愛い美少女。が……


 べっちゃと手前でコケた。

 この子登場のたんびにコケてないか?


「ショウタさ~~ん」


 やり直した……

 コケたのは無かったことにしたいらしい。


「訓練ですか~~?」


「ああ―――ゴフッ!!」

「ふぁ!! な、なにやってんですか!」


 なにって。


「特訓だよ―――ガフッ!!」


「一方的に殴られてません!?」


 ははぁ……シオリちゃんはこの特訓の凄さを理解できていないようだな。


 どれ……


「お~~い、ルーナ。シオリちゃん用の覚醒君を……」

「やりませんよ!?」


 そうか、そもそもシオリちゃんたちは基礎能力や魔力はそこそこデフォルメで備わっているんだったか。召喚された本命勇者たちだからな。


「でもこれはこれで、案外いいもんだから一回だけでも……」

「やりませんってば! なんで私もやりたい枠に入れるんですか!?」


 プンと頬を膨らませながらも、回復魔法をかけてくれるシオリちゃん。


 食わず嫌いはいかんぞと思いつつも、

 ああ……やっぱええ子や。


 この異世界で正ヒロイン枠と言われれば、シオリちゃんではなかろうか。


「そ、そんなことより……えと」


 なんだ? 急にモジモジしはじめたぞ。頬も若干赤い。


「ショウタさんに召喚してほしいものがあって……」


 おお! 俺が役立つ時がきた!


 任せてくれ!


「あ、あの……その、」


 シオリちゃんは、人差し指をツンツンさせながら絞り出すように声を出した。



「―――ぱ、パンツだしてください!!」



 はい? 



 おっさん、ちょっと特訓のしすぎで耳がおかしくなったらしい。



「えっと……シオリちゃん?」


「あ、あの……この世界のもいいんですけど……やっぱり肌に合うのは着慣れたやつでして……はぅ……」


 顔を真っ赤にして、俯くシオリちゃん。


 聞き間違いでは無かった。マジでパンツをご所望だった……


 てか大丈夫なのか?

 仮にもおっさんが出したパンツだぞ?


 普通は絶対イヤだと思うけど。


「まあまあショウタさま、モテモテですわね~。でもあの履き心地なら~乙女もイチコロですわ♡」


 てかルーナもはいてんのかよ……


「ショウタ様の下着は、どの高級店の品よりも素晴らしい出来かと」


 あんたまではいてんのかい……アンナさん。


「むぅうう……ルーナさまたちばっかり……ズルい……」


「フフ、シオリさんもはいているのでしょ? いかがですかショウパンツは?」


 おい、変なブランド名をつけないでくれ。


「ふぇ!? は、はい! 凄くいいでしゅ!」


 女子高生も履いてた……

 異世界転移初日で出したやつか??


「ううぅ……かんじゃった。でも……本当に良くって……」


 顔を真っ赤にして、俯くシオリちゃん。

 どうやら俺の出すパンツはかなり上質なものらしい。


 ならば――――――


 乙女たちの望みを叶えるのが、男ってもんだな。


 決して変態目線で言ってるのではない。

「グヘヘ~~俺の召喚したパンツを美少女たちに着用させるぜぇ~~」ってな邪な気持ちは一切ないからな。


 ごくりと固唾をのむシオリちゃん。

 リンカさんはさっきから俺をずっと無言で睨んでいる。

 怖いよ……この子。


 さて、乙女たちのご期待に応えるか。

 もう散々出しまくってきたパンツだ。出す自信はある。


 スキル発動!


「―――【三流召喚魔法】!」


 光の中から出現する物体。


「へぇ!? こ、これ……ショウタさん」

「まあ? これは」


 シオリちゃんとルーナから驚きの声が漏れる。


 召喚されたのは、


 2つのパッドに肩紐……



 いやこれ、ブラジャーやないかい!!



『マスターの変態ぶりは想像の斜め上をイキマスネ』


 うるさいぞ!


 っていうか、ヤバイ! 


 なに美少女たちの前でブラ出してんだよ。変態おっさん召喚士認定されてしまう!

 いや、パンツ出そうとしている時点でヤバいか。


 俺は恐る恐る美少女たちの様子を伺う。


 少しの静寂のあと、シオリちゃんが口をひらいた。


「わぁ! これもいいです! ショウタさん凄いです!」


 いいんかい……もうオッサン的にアウトしかないんだけど。

 でもシオリちゃんの喜びようが半端ない。


「まあ、これは上質な下着ですわね。さすがショウタさま」

「たしかに。これもまた素晴らしい一品です」


 ルーナとメイドのアンナさんまでも俺を褒めたたえる。

 なんか俺的には微妙だけど、役に立ったなら良しとするか。


「それに、たわしも王城内の料理人や侍女たちに密かに人気なのですわ」

「え? そうなのか、ルーナ?」

「王城内で使い切れない余剰分は、王都で配り始めてますの~~人気は上々ですわ」

「人気って……」


 そう言って、ルーナが胸から取り出したのは「ショウタわし」というタグがつけられた、たわしだった。


 いや……商品化しとるやないかい!


「下着は流石に良質すぎて、一般流通させると服飾店へのダメージが大きいので、高級ブランド化を計画しますわ。ショウパンツにショウブラですわね」


 ブランド化するんかい……この子は俺になにを求めているんだ?

 魔王討伐の目的を忘れないでほしい。


 色々と衝撃の事実が明らかになったが、俺は気を取り直して【三流召喚魔法】を詠唱する。

 今度はパンツが出た。


 ある程度の数が欲しいとのことなので、俺は召喚しまくってあげた。

 うむ、やはり安定のパンツ率である。

 もう、俺は下着召喚士になってしまうかと思うぐらいだ。



「これはお父様への報告書が必要ですわ!」


 急にいつものハイテンションになるルーナ。


「いや……いらんだろこんな報告」

「いえ、ショウタさまの素晴らしさは余すことなく報告しないといけないですわ!」


 早速胸元から紙を取り出して、書き始めるルーナ。


「ショウタさまは、パンツとブラで勇者たちをしっかりサポートしているっと、カキカキ」

「よし、いったん書くのをやめようか。お姫様」

「あ、そうでした。わたくしとアンナもサポートして頂いてますと……カキカキ」


 頼むからやめてくれ。

 これ以上意味不明な報告が続くと、俺は完全に変態認定されちゃうよ。


「むぅう……仲良さそう……いいなぁ。でも今日はありがとうございました! ほらリンカちゃんも」

「一応お礼はしておくわ。でも使うかどうかはわからないけど」


 シオリちゃんが笑顔で頭を下げる。

 頬を膨らませたり、笑顔になったり。感情の起伏が豊かだなシオリちゃんは。

 対してリンカさんは……基本的に冷ややかな視線を感じる。まあこれが普通の女子高生の反応だろう。


「そうでしたわ! 明日はいいところへ行きますの! 勇者さまたちもご都合が合えばいらしてくださいね♪」


 最後はルーナが意味深な発言をして、その日はおひらきとなった。




 ◇◇◇




 そして翌日。


「さあ、入りますわよ♪」

「ルーナさん? あの? ここどこ?」


「ダンジョンですわ! ショウタさま!」

「マジか……ダンジョンに入るのか」


「もちろんですわ~~レベル上げの定番といえばダンジョンですわ~~♪」



 ルーナが予言書(ラノベ)を見せながら、自信満々で胸をブルンと張った。






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