第7話 さあ~~特訓!特訓!特訓ですわ~~♪

「さあ~~はじめますわよ~~」


 俺たちは王城内の訓練場に来ていた。


「ルーナ、嬉しそうだな」

「はいショウタ様。予言書(ラノベ)の通りにショウタ様が現れたからでしょう」


 横にいるメイドのアンナさんが口を開く。


「そっか……」

「姫様はあのようなお方ですが、懸命なのです」


 たしかに行動は一部アレなところはあるけど、ルーナはルーナの信じるものに猛進している感じだ。

 魔王の脅威が迫る中、ルーナなりの王族としての務めを果たそうとしてるのかもしれない。


 それに、彼女の情熱自体には嫌な感じはしない。


 嫌な予感はよくするけど……


「まずは、ショウタさまの基礎能力をみせて頂きますわ」

「基礎力って言うと、走力とか腕力とかってことかな?」


「そうですわ。召喚された者は、基本的に高い身体能力を持っているはずですの」


 なるほど、ハヤト君やシオリちゃんもデフォルメで身体強化はなされていたようだしな。

 特にハヤト君は素早い動きや剣を振る力など、召喚時点でかなり常人離れしていた。


 彼は訓練と実戦を積めば、どんどん強くなりそうだ。


 まあ人は人。俺は俺だ。


「さあさあ~ショウタさま~~ワクワク、ドキドキ♪」


 ものすごい目がキラキラしてんな、お姫様。


 ってことで。


 とりあえず走ってみた。


 結果―――


 普通だった。


「あら? ショウタさま、本気でやっていただいて大丈夫ですわ。わたくしとアンナに隠す必要はないですわよ」



 いや、おもくそ本気でやったんですけど……



「さあ、遠慮は不要ですわ!見せてくださいませ! わたくしのヒーロー!

 ―――ワクワクですわ~~♪」


 お姫様からよりいっそうワクワクの声が聞こえてくる。

 過度な期待はやめて欲しい。


 それから走ったり、投げたり、持ちあげたり、ルーナの言われるがままに色々した。


 結果―――


 全部、普通だった。


「「………」」



 とたんに静かにならないでくれ……2人とも。



 ルーナとか、あんだけはしゃいでいたくせに。

 そして彼女は難しい顔をして、予言書(ラノベ)をペラペラとめくり始めた。


「わかりましたわ!」


 急に大声をあげるルーナ。


 どしたの?


「ショウタさまが想像以上に普通すぎて少しビックリしましたが、わたくしの予言書(ラノベ)理解が足りていなかったようですわ」


「えっと……どういうことだ?」


「主人公は、召喚による身体能力初期バフはつかないんでしたわ! これっぽちも!」


 ま、まあそうかもしれんし。現にそうなんだけど。

 なんか面と向かって言われると悲しいものがある。


「しかし問題ありませんわ! 予言書でも主人公は初めから身体能力カンストしてませんから。つまり~~成長の伸びしろがてんこ盛りなんですわ~~♪」


「お……おう」


 現地お姫さまから、カンストという単語が出てくるあたり。何とも言えん気分になる。


 まあラノベ主人公といっても、初期段階から能力カンストタイプと、徐々に覚醒タイプなど種類は色々あるだろう。

 たまたまルーナの手にした予言書(ラノベ)は、徐々に力をつけていく展開なんだろう。


 さて、ちょっと確認したいことがある。


「なあ、ルーナ。俺のスキルは【三流召喚士】なんだが、召喚スキルの使用に身体能力の強化は必要不可欠か?」


「もちろんですわ! ショウタさまは【三流召喚士】という強力なスキルをお持ちですわ。ですが……召喚スキルを使用するには魔力が必要ですし、ある程度の体力、精神力は必要ですわ」


 たしかにルーナの言う通りだな。召喚ガチャで当たりを引いたとしても、相応の魔力が無ければ当たりを召喚できない。

 ルーナのスキル【愛の鞭】を使用してもらう事で魔力の補完はできるが、前回はかなり無理をさせてしまったから、乱発させるわけにもいかない。


 それにどんなに強力なチート兵器を召喚したとしても、術者の俺がヘボすぎてやれてしまっては元も子もないし。


 やはり俺自身の魔力や体力を上げることは必須だな。


「ルーナ、鍛えれば魔力はあがるものなんだろうか?」


「ええ、言いましたでしょ。ショウタさまは伸びしろの塊だと。鍛えれば鍛えるほど最強になりますわ!」


 まあ美少女にここまで言われれば悪い気はしない。


 ルーナが特訓するなんて言い出した時には、かなり嫌な予感がしたが。

 彼女なりに一生懸命考えてくれている。


「ってことで~~覚醒プログラム開始ですわ~~♪」


 ブルンと胸を揺らすルーナ。自信満々の笑みを漏らして上機嫌だ。



 うわぁ……やっぱり嫌な予感してきた。



 なにが始まるんだろう……


 数分後。


「じゃ~~~ん! はい、拍手ですわ~~♪」


 パチパチ……


 メイドのアンナさんが超無表情で手を叩く。


「えと……これなんすか? ルーナさん?」


 俺の間の前にぬぼーっと人形が立っている。背丈は俺とさほど変わらない。


「覚醒君ですわ~~♪」

「え? カクセイクン?」


「ンフフ~~ショウタさまの訓練用ゴーレムですわ。このような事もあろうかと、事前に用意していおいたのですわ」


 ルーナの説明によると、この覚醒君ことゴーレムは魔力を動力として動くらしい。


 にしてもゴーレムかぁ。


 俺のイメージとは違うけど、これが動くってなるとちょっとワクワクしてきたぞ。


「ンフフ、起動ですわ~~~♪」


 ルーナの声とともにカタカタと音を鳴らす人形。


 おお、すごい! 


 動きだし……



「――――――ゴフッ!!」



 気付いたら、俺は数十メートル後ろに吹っ飛ばされていた。


 体中が痛い……なんだこの衝撃?


「……な、なにが……!?」


 人形を見ると、腕が振り抜かれている。



 え? いまの人形のパンチ? 



「さあ~~どんどんいっちゃいなさい!ですわ!」


 ルーナのひと声と共に、とんでもない速度で距離を詰めてくる覚醒君。



 ヤバイ! 次喰らったら絶対にアカンことになる!


 そう簡単にやられてたまるか!



「―――【三流召喚魔法】!」



 覚醒君の顔部分に布がフワっとかぶさる。


 パンツかよぉおおお!


「――――――ガフッ!!」


 本日2度目の吹っ飛ばされ。


 意識が遠のいていく……いやこれはマジでヤバイ……

 呼吸もうまくできない……


 と思ったらなんか口に突っ込まれてる!?


 アンナさんだ。

 なにかを強制的にグビグビ飲まされている。なに?なにやってんの?


「ショウタさま、姫様特製のポーションです。怖がる必要はありません」


 いや、その無表情な顔が怖いんです。


 が……おお?


 痛みが和らいでいくぞ。それに体が……



 ――――――動く!



「ンフフ~~さすがショウタさま。いくら特製ポーションと言えどもすぐに復活だなんて、やはり只者ではありませんわ」


 が、再び覚醒君に挑むも敢え無く敗退。

 召喚物はパンツ数枚だった。


 そしてアンナさんにポーション突っ込まれて、強制的に復活する。


 そんなやり取りが何度となく続いて……



「どうですか? 強くなりましたの?」


 そんなカップラーメンみたいにすぐは出来ねぇ! 


 ちゃんと見てたのか? 俺、基本的にボコられるしかしてないぞ!


「おかしいですわね。予言書(ラノベ)だと死にかけから復活すると、強くなるはずですのに……」


 おい……ちょっと待て。


「ルーナ、たぶん俺はそのタイプとは違うと思うぞ」


 俺の元スペックはただのおっさんだからな。それにスキルからもガチ格闘するキャラではないだろう。ここはじっくり成長する過程を楽しんでだな……


「むしろ現状では負荷が低すぎるのでしょうか? もっとダメージを負った方が良い?」



 イヤイヤ、十分すぎるほど死にかけてるよ!



「ま、待ってくれ、ルーナ」


「ってことならば……アンナ、もう一体出しますわよ~~♪」


 ―――この子、聞いちゃいないよぉおお!!



 ていうか、もう一体だと!?



「ショウタ様、ポーションは大量に準備しているのでご安心を」


 アンナさん……そんな無表情で大量のビンを見せられても、まったく安心できないんです。


「さあ~~特訓再開ですわ~~♪」



 ヤダこの子。もう2体目出してる~~



 その後、俺は……

 召喚魔法を使いまくる(おもにパンツ召喚)→人形にしばかれる→特製ポーションで強制的に復活する。


 という地獄ループが延々と続いた。


 結局その日は、もう何回死にかけたかわからんぐらい死にかけた。


「ふぅ~やっと……おわった……」


 召喚しまくったが、結局アタリは出なかった。

 ガチャ召喚だから仕方ないと言えばそれまでだが、これ最初にアタリだしてもう一生でないとかじゃないだろうな……


「ンフフ~~ショウタさまお疲れさまですわ。成果はでたようですわね」

「え? 何言ってんだルーナ?」


 訓練場に散らばる白い布を指さして、ニヤリと微笑むルーナ。



 あれ? なんか召喚したパンツ増えてない?



 こ、これは!!


 パンツが増えたということは、それだけ召喚できるモノが増えた、つまり魔力が増えたという事だ。

 この短期間でだ。


「やっぱりですわ~~ショウタさまは誰にも負けない成長速度をお持ちですのよ♡」


 そっか……


 俺は成長の余地があるんだな……


 そう思った俺は嬉しくなり、目の前にいる桃色の髪を揺らす少女に視線を向ける。


 不思議な子だな。


「良く頑張りました、さすがわたくしの見込んだ方ですわ」

「いや……自分でもビックリだよ」


「ショウタさま、もっと自信をもってください。先日の魔族襲撃も負傷者は出ましたが、死者はいません。これもショウタさまのおかげですのよ」


 その青い瞳をまっすぐに俺に向けて微笑むルーナ。


 その屈託のない微笑みは、いつものルーナとは違う雰囲気を出している。


「ルーナ……」


 不覚にもドキリとしてしまった。 


 ていうかルーナは普通に振る舞っていれば、ブルンブルンの超絶美少女なのだ。

 でも、かなり独特かつ奇異とも思える行動がそれを帳消しにしている。


 やはりこの子はよくわからんな。 


 2人のルーナが混在しているのか、ただの気まぐれな表情なのか。


 そんなルーナが再び口を開く。


「じゃあ明日はもう1体増やして~~覚醒君3体で特訓ですわ~~♪」



 やっぱこの子、おかしいわ。





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