第6話 おっさん、お姫さまの収納場所をガン見してしまう

「ふんふんふ~ん♪」


「ご機嫌だなルーナ、なにを書いているんだ?」


「お父様への報告書ですわ~」


 なるほど、先日の魔族襲撃事件を王様に報告か。その場でザックリと口頭説明はしたが、全体をまとめての詳細な報告をするらしい。


 あの魔族ガルマは、勇者召喚を察知して奇襲をかけてきたようだ。

 どうやってそれを知ったのかは分からない。最悪を考えれば、王国内に内通者がいる可能性もある。


 王国は拡大しつつある魔王領に隣接している。陸地で国境を接する部分もあり、まさに世界の国々の中で最も魔王領に近い国だそうだ。

 王都近郊を含む首都地域は強力な【結界】によって守られている。が、ガルマが王城に強襲したことから、なんらかの方法で【結界】の一部を破壊・無力化等したと推測しているらしい。

 大軍で奇襲をかけなかったのは、おそらく【結界】を突破できるのが少数なのだろう。



 といった内容はすべて目の前のお姫様に教えてもらった。

 桃色の縦ロールを揺らしながら、ご機嫌に筆を走らせている。


「ショウタさまの活躍を余すことなく報告しますわ~♪」


 さすがお姫様。綺麗な字だな。


 なになに……


〈俺がパンツをたくさん召喚して、姫に鞭でしばかれて、見事に覚醒しました。

 この人は本物です。以上〉


「よし、今すぐ書き直してもらおうか」


「なぜですの?」



 なぜもへちまもあるか! こんな奴、ただの変態じゃないか!



「あ、そうですわ。わたくしったら肝心なことを……最後は太くて硬い筒をだして、もうそれはそれは凄かった。……っと、カキカキ」


 ダメだ……この子の表現が独特すぎる……


「ウフフ~~これでショウタさまの株が上がりまくりですわ~~♪」


 くっ……株というか下部に関する誤ったうわさが上がりまくるわ。


 こんな報告書は取り上げないと。


 俺が書類を回収しようとすると、ルーナは「いやん」とか少しふざけた声を出して応戦してくる。

 あと、ドレスの胸元が凄いことになってる。


 それはもうブルンブルンしてらっしゃる……


 しかし俺も退くわけにはいかない。おっさんの尊厳がかかっているのだ。


 俺とルーナが紙の取り合いをして騒いでいると、扉が開いて高校生勇者2人が入って来た。



「な、なんの騒ぎ!って……ええぇ。まさかお姫さまを力づくで襲うって……ウソでしょ」


 リンカさんだ。


 彼女はなにか勘違いをしているようで、とんでもない形相で俺を睨みつけてきた。


「い、いやこれは違うんだ」


 ハヤト君やシオリちゃんとはある程度人間関係が出来つつあるが、この目の前にいる凛とした少女とはほとんど会話がない。

 たぶん警戒されているような気がする。


 彼女は魔族との戦いには参加していない。王都郊外の鍛冶屋で、剣の作成依頼に行っていたらしい。

 慌てて王城に戻って来た時には戦闘は終了していた。そして俺の召喚したパンツだらけな現場に、顔をひきつらせていたそうだ。


 俺たちが召喚された時も、パンツしか出してないし。


 つまりこの子からすれば、俺はパンツしか出してないおっさんだ。

 もちろんシオリちゃんたちから事情は聞いているだろうけど。


「し、失礼します……ショウタさん」


 そこへ奥から聞こえる男子の声。


 おお、ハヤト君ではないか!


「リンカ、これはいつもの絡みだと思うよ。たぶん」


「いつものってハヤト……いつも男女で密着してるってことなの?」


 違うぞ! 自慢じゃないけど、おっさん32年間操を守り続けているからな!


「いや、だからハヤト君が言うようにだな。これは理由があって―――」

「鼻血出てるわよ」


 うお! マジかよ……


 出血させるとは、ルーナの膨らみの破壊力は凄まじいぜ。


「リンカ様。少し誤解があったようですが、姫様とショウタ様はラブラブチュッチュッのような関係ではないので、ご安心を」


「チュッチュッって……ま、まあ、あたしには関係ないことだけど」


 ハヤト君とメイドのアンナさんの援護射撃(ちょい微妙)もあってか、なんとか状況を理解してくれたらしい。


「シオリもショウタさんに会いたがってたんですけど、今から聖女様と【結界】の訓練があるらしくて」


 おお、【結界】とはすごいな。

 シオリちゃんは癒しの勇者なだけあって、聖女系の技も使えるようだ。


 ハヤト君とは、魔族と戦った時以来けっこう話すようになった。

 見た目イケメン男子高校生で、俺のようなおっさんとは距離を置くのかと思ったけど、違った。


 むしろ彼から話しかけてくるのだ。


 まあ、生死を乗り越えた仲ということもあるのだろう。俺も嬉しいので全然オッケーなんだが。


 てわけで、少しばかりハヤト君とシオリちゃんネタで談笑していると、刺さるような視線を感じた。


「ふ~ん、ハヤトやシオリと随分と仲が良いのね」


 めっちゃ睨まれてる……


 よし、話題を変えよう。

 なんか怖いし。


「と、ところで。ハヤト君たちはなにか用があって来たんだろ?」

「あ、そうだ。これをお二人に渡しにきたんです」


 ハヤト君から、デカめの宝石みたいなものを渡された。


「なんだこれ?」


「それは魔石ですわ」


 ルーナが俺の持つ石を見て教えてくれた。


 魔石……よく魔物を倒すと出てくるアレか。


「これは魔族ガルマの魔石ですわね」


 魔石をルーナに渡すと、少し触ったのちにそう答えた。


「はい、ルーナさま。回収されたものが僕らに渡されたんですけど。これは魔族を討伐したお二人が持つべきだと思って」

「まあ。それはありがたいですわ」


「ルーナ、魔石って何かの役にたつのか?」


 魔石を見て、目をキラキラさせる第三王女。


「ええ、もちろんですわ。魔石は魔力の塊ですの」

「かたまり……その石に魔力が入ってるてことか?」


「そうですわ。強い魔族や魔物であるほど、より強力な魔石を残すことがありますの」


 てことは魔族ガルマの魔石は、かなり貴重なものってことか。


「魔石はいざという時に、即席での魔力補充が可能ですわ。しかも魔力ポーションなどとは比べ物にならない回復力を持っていますわ」


「なるほど。それはかなり貴重なアイテムだな」


「ええ、ショウタさまのスキルは魔力を大量消費しますから。いざという時にとっておきますわ」


 そう言うと、当然のように胸の谷間へ魔石をしまい込むルーナ。



 おい……そこは四〇元ポケットなのか?



「フフ、なにやら殿方たちの視線を感じますわ」


 たち? 


 うしろを向くと、ハヤト君がリンカさんにつねられていた。


 なるほど、でもわかるぞハヤト君。


 見ちゃうよね。これ。

 これでガン無視しろとか言う方が、無理がある。


 微妙な空気になったが、2人は用件を終えると退室していった。

 ハヤト君はリンカさんに「……最低」とか言われながら。



 再び部屋には俺とルーナとアンナさんの3人に。


「さて、ショウタさま」


 ルーナは胸から例の預言書(ラノベ)を取り出しながら、俺に視線を向ける。

 マジでなんでも入ってるな……そこ(谷間)……


「予言書(ラノベ)によると、主人公は序盤で特殊な訓練をするようですわ」


 まあ、それはありがちな展開ではあるな。

 主人公が常軌を逸する訓練や体験をして、とてつもない力をつける。


 そして、実戦になると、周りとの格差がすさまじく「あれ? 俺なんかやっちゃいました?」と言いつつ無双するのだ。



「ムフフ~~~ですから~~」


 どしたんこの子……笑みが怖いよ……


「さっそく特訓開始ですわ~~ワクワク♪」



 なんだろう……嫌な予感しかしない。






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