第5話 おっさん、発射(フォイア)!!で片をつける

『――――――発射っフォイア!』



 88ミリ砲から響く空砲。

 巨大な音と共にまばゆい光が広場全体に拡散する。



「ギヤギィイイ!!んだよこれぇえ!」



 視界を潰された魔族ガルマの叫び声があがる。

 あらかじめ伏せていた俺たちと違って、やつには効果てきめんだったようだ。


 すでにハヤト君はルーナたちの元へ駆け出している。


 やっぱ勇者じゃねぇか。


 こんなさっき会ったばかりのおっさん作戦を信じて、彼は付き合ってくれた。



『よく即席でこんな作戦を思いつきマスネ』

「まあ、目つぶしはよくある展開だからな」


 前の世界ではラノベヒーローなんて、ただの空想でしかなかった。

 俺の脳内で完結する物語だ。


 でもここは異世界だけど、現実世界。


 そして俺はスキルを授かった。

 前の世界では空想だったことが、脳内で終わっていたことが、現実になった。


 もうおっさんになったけど……昔の憧れはまだ忘れちゃいない。

 やれることは全部やろうって、思っただけなんだ。


「それにせっかくもらったスキルなんだ。色々やってみたいじゃないか」

『マスター……ただの変態ではなかったのデスネ』


 相変わらず失礼だな……このスキル。

 そもそも変態ちゃうし!


 スキルと会話を交わしていると、ハヤト君が俊足で戻って来た。



「―――ショウタさん!」

「おお! やったなハヤト君!」


 彼の両脇には、2人の美少女。


 よし、男だぜ!!


 ハヤト君自身もイケメンだから、なんかこの3人はとても映えるな。


 さて、16歳の高校生君が頑張ったんだ。



 倍生きてるおっさんが―――気合入れないわけにはいかないよな―――



「ギィアアア!! クソがぁあああ! くだらねぇことしやがって!!」


 視界が戻りつつある魔族ガルマが、獲物を逃したとわかるや怒りの声を響かせる。



「こうなりゃ皆殺しだぁあ!

 暗黒火炎魔法ダークファイアーボールで消し済にしてや―――!?



『――――――発射っフォイア!』



「ギャァアア!!」



 ズズんという独特の音が響いた瞬間、黒い炎を放とうとしていた魔族ガルマの右腕が粉砕される。



「おい、魔族。もうおまえのターンなんかない!

 ――――――次弾装填! 攻撃!」


了解ヤー! ――――――発射っフォイア!!』



 ガルマの脇腹に砲弾が命中して、その硬い肉体をごっそり抉る。



「グハァ……クソぉおお……勇者でもないおっさんなんかに……」


 ガルマは大きな翼を広げて宙に浮かび上がった。


 ん! 突っ込んでっ来る気か?



「ショウタさま……魔族が逃げますわ!」


 ルーナの言う通り、ダルマは突撃してくるのではなく上空に舞い上がり逃亡を開始した。


「おぼえてろぉおお! おっさん!!」



 馬鹿め……


 おまえはこの砲が召喚された時の名称を聞いていなかったのか?



「とどくよな?」

『当然ですマスター、有効射程距離内デス』


 よし。


「再装填! 獲物を逃がすな!」


『―――了解ーヤヴォール!!―――2時の方角! 標準合わせぇええ!リヒトゥング ツヴァイ ウーア! シュタンダード アンパッセン!



「88ミリ高射砲! 砲撃開始だ!!」



『――――――発射っフォイア!!』



 空に爆発音とすさまじい黒煙がたちこめる。



「ギュアアアア~いてぇええ!バカなぁああ!こんな魔法があるわけねぇえええ! おまえ~~なんなんだよぉ~~おっさんのクセにぃいいいい!!」


 魔族ガルマが悲痛の声をあげる。



 88ミリは――――――本来対空砲なんだよ!


 ってことで~~~


「バンバンいくぞ! 次弾用意!」


了解ヤー! ―――再装填、急げ!ナハラーデン!


「砲撃!」


『――――――発射っフォイア!!』


「砲撃!」


『――――――発射っフォイア!!』


「砲撃!」


『――――――発射っフォイア!!』



 めったうちの88ミリ砲。


 王城の空は瞬く間に88ミリ独特の砲撃音と黒煙に包まれていった。


 しばらくして……


『上空に生命反応ナシ。マスター、

 ―――目標を完全に撃破! 任務完了!ファイント フォルシュテンドリッヒ ゼアシュテュルト!


「おお、そうか。よくやってくれた88ミリ!」



『フフ、今回のマスターは変わり種でとても興味深いデスネ。デハまたお会いシマショウ』


 大活躍した88ミリ砲は光とともに消えていく。


 ちょうど制限時間である1時間がすぎたのか。


 たしかに凄く偏ったスキルではあるけど……全然外れスキルなんかじゃない。



「ふわぁあ……しょ、ショウタさん凄い!」

「やった! ショウタさん!!」


 高校生2人組が駆けつけてくる。


「―――ひゃっ!」


 そしてシオリちゃんが俺の眼前で見事なほどにずざぁーっとコケた。


 転ぶ要素はあまり見当たらない。


 この子は本当に、おっちょこちょいなのかもしれないな。


「だ、大丈夫?」

「ふぇ……だ、大丈夫です」


 俺が手を取り、ゆっくり立ち上がった女子高生は顔を真っ赤にして俯いた。

 その小柄な体型にはにつかわない2つの膨らみが、転んだ衝撃をある程度拡散したようだ。


「いや、なにもないところコケるの。ほんと昔っからだよな……」

「あ、あぅ……言わないでよハヤト君……恥ずかしい……」


 なるほど、昔から良くコケていたらしい。


 が、そんな事よりも。


「2人もよく頑張ったな。高校生なのに凄いよ」


 いや、転移して速攻で本当に良くやったと思う。

 普通ならアワアワするだけで終わりだろう。



「ええ、ハヤトさんもシオリさんも素晴らしい活躍でしたわ」


 ルーナも2人に声をかける。


「そして……やっぱりショウタさまは救世主でしたわね。王城の危機を救ってくださり感謝しますわ」


 桃色のドレスをふわりと揺らして、笑みを漏らす第三王女。


「まあ、なんとかなったよ、ルーナ」

「やっぱりショウタさまは無能なんかじゃありませんわ。予言書通りに今後も……」


 その言葉が終わる前に、ぐらりと体を揺らしたルーナ。


「―――おっと」


 ふらついたルーナを咄嗟に受け止めた俺は、彼女が想像以上に消耗していることに気付く。


「大丈夫か? ルーナ」

「ええ……とんだ粗相をしましたわ。……っ」


 すぐに立ち上がろうとしたのだろうが、身体がついていかない様子。

 その細くて華奢な身体から乱れた呼吸音が聞こえてくる。


「フゥ……少しスキルを使いすぎたようですわ」


 たしかに【愛の鞭】をビシバシ連発してたもんな。


 無理してくれたんだな……


「ルーナのサポートがあったからこそ、活躍できたんだよ」


 その言葉を聞いた桃髪の美少女は、その小顔を横に振る。


「いいえ、ショウタさまは主人公なのですから、予言書通りに活躍して当然ですわ。ウフフ」


 主人公か……


 ルーナの言う予言書はただのラノベだ。


 彼女は本当にそんなのが予言書だと信じているのだろうか?


 ルーナは良く微笑む。でも、本心からの笑顔ではないんじゃないかと思えるような瞬間がたまにある。

 その綺麗な青い瞳はどこか遠くをみているような。


 付き合いも短い俺が、なにをわかるでもないが―――



 昔憧れていたラノベヒーロー。


 今、それになれるかもしれないんだ。



 おっさんだけど目指してやろうじゃないか。


 んでもって―――


 この桃髪の少女の本当の笑顔を引き出してやる。




―――――――――――――――――――


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