第2話 おっさん、お姫さまに陰キャ主人公ともてはやされる

「ルーナ・ロイ・ヒルステアですわ~~気軽にルーナとお呼びください、ショウタさま~!」


 俺は目の前のテンション高めの姫さまによって、王城の一室に連行されていた。



 少しカールのかかった桃色の髪に、お嬢様的な縦ロール。王族らしいティアラがきらりと光っている。

 その整った小顔に高い鼻、そして透き通るようなブルーの瞳。

 スリムで華奢な体型だが、2つ膨らみの大きさが半端なく、大きく空いたドレスの胸元からその存在感を存分に発揮している。女子高生勇者のシオリちゃんといい勝負だ。


 彼女はこの王国の第三王女らしい。年は女子高生勇者たちと同じ16歳だそうだ。


「わかりました……ルーナと呼ばせてもらう……ます」


「はい、そうしてください。敬語も不要ですわ~~ところでショウタさま」


「え? なんです、ルーナ?」


「ショウタさまは陰キャですの?」


「ええぇ……」


 初対面のおっさんにどんな質問だよ……


「ま、まあ、陰キャだな」


 まあここでウソをついても仕方ないので、素直に頷く。


 学生時代はさして目立たないポジションだったし。身を置いたのも8番手9番手グループで、陽キャグループのように、あの子と付き合っただのといったリア充会話は一切発生しないグループだ。

 会社に入ってからもそれは同じ。

 休日はアニメみるかラノベ読むかに明け暮れる。俺の大事な時間だからな。


 で、それがどうしたというのだ。

 俺は特に不満無いし。


「まあ! やっぱり当たりですわ~~!!」


 当たり? どういうこと?


「ンフフ~ショウタさま!」

「は、はい……」


「あなたはまごうことなき陰キャ主人公ですわ~~!」


 はい?


 なんのこっちゃ?


「ルーナさま」


 俺が困惑していると、後ろに立っていたメイドさんが声をあげた。

 この人、ほぼ表情に動きがないからなに考えてるのかわからんな。

 そのメイドさんがさらに話を続ける。


「ショウタさまが戸惑っておられますよ。ちゃんとご説明をなさってください」



「そうですわねアンナ。フフ、わたくしったら予言が現実に起こって少し興奮してしまいましたわ」


 予言? なんだそれ?


 俺が理解に追いつかない顔をしていると、ルーナがフフフ~と得意げな顔をした。


「予言書にすべて書いておりますの」


 そう言ったルーナはおもむろに自身の胸に手を突っ込む。

 2つの膨らみをブルンブルン揺らして。


「お、おい! なにやって……」


「これが召喚された予言書ですわ♡」



 ちょっと待て!



 そこ、書物を入れる場所なの!?


 物理的にそこにおさまるのか!?


 予言書に集中したいのに、雑念が俺の脳内でグルグルと回る。


 にしてもルーナが取り出した予言書に、すっごい既視感があるぞ。


 ……って!



 ―――それラノベやないかい!!



「この預言書は、勇者様召喚を繰り返し試していた際に手に入れたものですわ」


 なんども失敗を繰り返していた時に、偶然に手に入れたというわけか。


「ルーナ、それちょっとかしてくれ」

「はいどうぞ、ショウタさま♡」



 う……これは!?



 なんかちょっとあったかい……


 そりゃそうか、姫の膨らみに挟まれてたんだから。


 さっきまで姫のあそこに入ってたんか……これ。

 少し視線が膨らみにいったのを、ルーナは逃さなかった。


「まあ、ショウタさまったら、いやらしい目しちゃって~~なにを考えてますの。

 ―――ああぁ! まさかわたくしをこの場で! いやん♡」


 いやそこまで終わってねぇよ俺。お姫様の言う通り陰キャだし。


 勝手に妄想して一人盛り上がる姫は放置して、パラパラとページをめくる俺。


 ふむふむ。

 どうやらこの世界に召喚された時点で、このラノベもこの国の言葉に翻訳されているようだ。俺がこの国の言葉が自然とわかるように。


 ザックリとしたラノベの内容はこうだ。


 複数人の勇者召喚に陰キャ主人公が巻き込まれる。

 陰キャ主人公はモブであることが判明して、酷い扱いを受けて王城から追放。

 だが、王女お助けイベントや修行イベントが発生し、徐々に真の力が覚醒する。

 そっからはチート能力による主人公無双の幕開け。


 まあだいたいこんな感じか。


 だからルーナは俺を連れて来たのか。


 俺はけっこうラノベを読んできた。

 読んでる時はその主人公になったつもりで夢の世界にいける。

 こんな主人公ムーブができれば最高だな、とかは思ったりしていた。


 だが……


 これは予言書でもなんでもないんだ。


 だだの市販されているラノベ。


 そして、ここは異世界だが現実世界でもある。


「なあルーナ、この本は……」


「わかりましたでしょ! やっぱりショウタさまが世界を救うのですわ! そしてわたくしはショウタさまを導くパートナー!!」


 その青い瞳の奥をキラキラと輝かせて、俺の手をもつルーナ。

 俺を導くとは、このラノベだと王女が主人公と密接な関係を持つキャラだからだろう。


「いや……だからルーナ」


「でもショウタさまの【三流召喚士】というスキル。わたくしも聞いたことがありせんわね。どこかで見落としているのかもしれませんわ」


 そう言うとおもむろに本棚へ向かうルーナ。


 今気づいたが……


 この部屋、本棚まみれだ。

 全然お姫さまの部屋って感じじゃない。


 数冊手に取ってみたが、すべての本に付箋がびっしりと貼ってある。


 本を探すルーナの表情は真剣そのものだ。

 もちろんどこまで予言書を信じているのか、その真意はわからない。


 だけど……


 ただふざけているだけの子じゃない気がする。

 それに強引だったけど、この子は俺が追放されるのを止めてくれた。



 状況はどうあれ……せっかく異世界にきたんだ。



「わかったよ。ルーナ」



「あら? ようやく主人公であることをご理解しましたの?」


 それは知らん。だが。


「俺が出来ることならやってやる。だけど過度な期待はするなよ」


「大丈夫ですわ。ショウタさまは世界を救いますから~フフ」


 ふわりと桃色の髪を揺らして微笑むルーナ。

 超絶美少女からこんなこと言われたら、陰キャおっさんでもやる気になっていまうじゃないか。



「ショウタさま、私からも姫様をよろしくお願いいたします」

「ええ、アンナさんも大変ですね」

「そんなことは……かつての姫さ……いえ。なんでもありません。ショウタさまのご想像通り大変なのでお覚悟をなさってください」


 なんだろうか。アンナさんちょっと複雑な表情が見えたような、すぐに能面に戻ったけど。


 がそんなちょっとした疑問は速攻で吹っ飛んだ。


 なぜなら、凄まじい振動と爆発音で部屋が揺れたからだ。

 王城内で何かが起こった。



「―――うおっ! なんだよこの揺れと音!」

「中央広場ですわね! ショウタさま、行きますわよ!」



 俺たちが、城内中庭の中央広場に着くと。


「ギャハハハ~~てめぇらが召喚された勇者どもかぁあ!」


 なんか魔物?っぽいのが高校生組の前に立ちふさがっている。



「おい、ルーナ。あれって……」

「あの角に翼……魔族ですわね」


 マジかよ……いきなり攻め込まれてんじゃん……



「おい、ルーナ。これマズイ状況なんじゃ……」


「ちょっと展開が早いですが、大丈夫ですわ!」


 え? なにが?


「ショウタさま、はい!」


 へ?


「だから、はいですわ!」


 なんすか? ルーナさん?



「これは、ショウタさまがワンパンで魔族ブチのめすパターンですわ~~~♡

 ―――――はい! はやく!」



 いや……できるかい!!






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