第29話 現地に行ってない私が書けたわけ
ああ、暇だ。
だから最初にまたお詫びから始めます。
呂蒙の話を書きたい、と申しておりましたが、別に書きたい題材が見つかりましたので、そちらを書いております。テキストドキュメントに、少しずつ。最近はインターネット上から応募できる文学賞があると聞いて、調べたのです。すると、応募要項に、テキスト形式で送付せよ、と記載されているものもありました。なんだ、Wordで作成しなくても済むのか、とわかりまして、テキストドキュメントで作成することにしたのです。
うわ、背後霊陸遜に後ろ頭をひっぱたかれた。
なんで予告も無しに叩くの? 意味わかんない。
「貴様! 誰なのだ、その、別に書きたい題材とは?」
それは秘密です。
「そなた、なぜそのように、あまのじゃくなのだ?」
からまないで? どうしたの? 機嫌悪いよ? わかった、陸遜も暇なんでしょ。
「ああ、悔しいが、暇だ」
背後霊、他の誰かと交代してもいいよ。息子さんと一杯、やってきたら? あなたが亡くなった時、まだお若かったでしょ、息子さん。会いたがっていると思うよ。
「確かに。もっと私が生きておれば相談にも乗ってやれたと、悔やむ日もある。ところで、私がいないあいだ、他に誰がそなたの背後霊になるというのだ」
候補はいっぱいいるもん。曹魏の皆さんとか。たとえば徐晃とか。
「陸伯言どの、交代いたそう。この徐公明が、しばし、亜咲の背後霊を、あいつとめる」
「かたじけない。ではいったん、失礼いたす」
いつでも好きな時に戻ってきていいよ。戻ってこなくてもいいよ。
「なんだと? 背後霊と作家コンビ解消か?」
解消したくないの?
「ううむ。もはや私とそなたはセットになっておるゆえ」
確かに私たち、セットとして認識されているものね。じゃあ、戻ってきてくれる?
「承知いたした。では徐公明どの、しばしお任せいたす」
「おお、ご子息とごゆっくりお過ごしくだされ」
はい、こんにちは、徐晃。いつもお世話になっております。
「こちらこそ世話になっている。して、今回は、何の壁打ちを書こうというのか」
なら、現地に行ってない私がいかにして現地を調べたか、について語ろうかな。
歴史を調べる手段は、文献を読むだけではありません。もっとも重要な手段は、現地に行くことです。現物を見ることです。しかし現物は博物館などに展示されており、手で触れることができない場合が多いです。
私は三国志ものを多く書いています。中国に行ったこともあります。しかし、孫呉の領地だったところにしか行っておりません。具体的には上海と汕頭です。
では、どうするか。私はインターネットの旅行記を閲覧しました。たいてい現地の写真が掲載されています。それらを見て想像しました。
また、現在連載中の『晋よ曹魏の上に立て』では、蜀周辺の地形を確認する必要がありました。そこでインターネットの地図サービスを活用しました。実際の写真も表示させることができますから、それを見て地形を想像しました。地形は案外重要です。騎馬隊を展開させる時、また、歩兵を動かす時、それに適した地形であったかどうかが、文献資料だけでは見えてこないことも多いからです。
皆様もすでにご承知と思いますが、中国は広いです。黄河も長江も、広いうえに長いです。日本で目にする河川とはけたが違います。実際には、人や馬の行き来も、私たちが考える以上にゆっくりだったと思います。情報の伝わり具合も、騎手が飲まず食わず排泄も我慢し、なおかつ寝ずに馬を全速力で駆けさせたとしても、事が起こった翌日になど届かなかったでしょう。途中で馬が骨折したり、体力が消耗したりすれば、馬を替える必要も出てきます。
その他に活用した媒体は、映画です。特に中国史ものは参考になりました。馬蹄が立てる音や土煙、軍旗が居並ぶ様子、城壁や家々、大通りの左右に立ち並ぶ屋台、そして人々の衣服や髪形、宮殿の広間の格子窓、それらを目にしたことで浮かんだ挿話もありました。
中国史にもとづく小説を書く場合に限ってお話ししましたが、日本史や西洋史を題材とした小説を書く場合、また異世界ファンタジーを書く際にも活用できると思います。
「いやあ、亜咲、今、戻ったぞ!」
「おお、伯言どの、ずいぶんと早かったではないか」
「息子は外出しておったゆえ。公明どの、あいすまぬ」
「では拙者も失礼いたす。待たせている相手がおるゆえ」
ありがとう、徐晃。おかえり、陸遜。
「それでは今回の壁打ちはこれにて終了いたす。背後霊陸遜がお送り申し上げた」
いや、あなた、途中、いなかったでしょ。
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