第2話 始まりの街「リニジィオタウン」

俺たちが飛ばされた異世界は西洋風のにぎやかな街で、街の人々はみんな楽しそうに過ごしていた。

「あ、あの…」

「なんだよ。一緒に行こうってんならお断りだ…」

そう言いかけたとき、彼女の長い髪の隙間から顔が見えた。

可愛い。テレビなどに出ている女優などと比べられる程度には可愛い。殺されるときやさっきの場所では自分のことに精一杯だったし、しかも自分を殺した奴の顔なんて見たくもなかったから気にしていなかったが、こんなにも可愛かったとは。

「あの、名前は?」

「あ、私は中村沙希といいます。よろしくお願いします。」

「よろしくって俺についてくるのか?」

嫌がりそうに言いながらも、これだけ可愛いなら別に一緒に来てもらってもいいかな、と思っていた。

「い、嫌でしたか?もしよければ一緒にいてくれると心強いのですが…」

「いいけど、まず色々聞かなきゃならない」

「何でしょう?」

何でしょう?じゃねぇよ。この中村ってやつはさっき俺を殺したことも忘れたのか?

「俺を殺した理由はほんとに自殺の巻き込みか?」

「はい。本当に私の自殺の巻き込みです。なので、確かに一緒にいてなんて図々しいのわかっています。でも、あの時は気がおかしくて…」

「わかった。もう過去のことは振り返ってもしょうがない。とりあえずこの世界ではまだ何が起こるかもわからないから、一緒に行動しよう。」

「あ、ありがとうございます!」

彼女の顔が笑顔になった。やっぱり笑った顔も可愛いなと思っていると、俺と中村の頭の上に四角い半透明のパネルのようなものが出現した。

そこには自分の名前や年齢、そして…

「ステータス?なんだそれ…」

ステータスという項目があった。しかしそれは頭のよさとか運動神経とかそういうものではなく、いわゆる転生系漫画に出てくるような、魔法的なものなんだお思う。

「俺のは、「フェロネロ」...?中村は?」

「私の方には「レッジェロ」と書かれています」

名前だけでは能力の見当がつかない。しかも、使い方もよくわかっていない。あと、レベルも書いてあったが二人とも当然Lv:1だった。

「まあ、とりあえず街の人たちに色々聞いてみるか」

「そうですね。それからいろいろと考えましょう」

俺たちは少し街のなかを歩き回ってみて、武器屋のようなものを営んでいる、中年の小太りのおじさんに質問してみた。

「ここってなんていう名前の街ですか?」

「君たち観光客かい?ここは「リニジィオ」という名前の街さ。」

「それじゃあ、あなたも死んでからここに来たんですか?」

「…?なんの話だい?この街に生まれてここにいるんだから死んでなんかないよ」

なるほど。この街で生まれる僕たちと生まれた次元の違う人間もここには混ざっているのか。それだとこの人に聞いてもあまりよくわからないな。

「ありがとうございました。それでは…」

「ちょっと待ってよお兄ちゃん。君手に紋章があるよね?」

本当だ。気づかぬ間に手の甲にネイビーの色の王族のような紋章がついている。

「それがあるってことは、勇者さんたちだね?」

「え?そうなんですか?」

「知らなかったの?そんなわけないと思うんだけど…」

確かにここに来る前に何かを倒す的なことを言ってたような気がする。あいつめ、説明が適当すぎる。

「それじゃあ、君たちの持っている武器強化しとこうか?勇者さんには割引してあげるよ」

「それが、まだ何も持ってなくて…」

「えぇ。そんなことある?まあそれなら武器を好きなの選んでいくといいよ。この中からだったら一つタダであげるから」

そこには、青や赤の宝石できれいに装飾された、鋭利な刃を持つ武器たちがたくさん並んでいた。この世界の住民は慣れているんだろが、男子の心を鷲掴みにするような見た目をしている。

俺は少しの間悩んだ末、黒い鉄製の大きめの剣を指さして

「これをもらえますか?」

「おお、いい選択だ。君の能力にぴったりだよ。」

「僕の能力って何なんですか?」

「君の能力?「フェッロネッロ」でしょ?」

「その「フェッロネッロ」っていったいどんな能力なんですか?」

「記憶でも飛んだのかってくらい覚えてないんだね。その能力は自分の近くに鉄の柱を生成する能力だよ。」

「まあ一般的には「黒鉄」って呼ばれたりするかな。」

この時はまだ知らなかった。この「フェッロネッロ」いや、「黒鉄」の能力の偉大さに。そしてその恐怖に。

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黒鉄の闇 @tokoyami_morita

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