黒鉄の闇
@tokoyami_morita
第1話 転生
突然だが俺は今謎の女に尾行されている、気がする。
いや、恐らくされてはいるのだろう。しかし目的がわからない。実際に何かをしてくるわけではないしとりあえず様子を見てみることにし、大学へ足を速めた。
今日は俺が高校生時代、いやまだ入学式を終えていないから高校生だが、受験期に死に物狂いで勉強してようやく受かることのできた地元の国公立の大学の入学式だ。そんな人生の晴れ舞台の日に朝から尾行されて嫌な気分だが、気分は高揚していたためあまり気にしないでおこうと思った。
そうこうしている内に大学に到着した。受験期はあまり気にしていなかったが、こんなにもきれいだったのかと目を輝かせていると、背後からコツコツと足音が早まって何かが近づいてきているのがわかった。後ろを振り返るとさっきの女がこちらに走ってきている。さすがに驚きその場を離れようとしたがもう遅い、女が背中に隠し持ていた刃物のようなもので腹をぐさりとさされた。
あ、俺死んだんだ。そう思った。せっかくここまで頑張ったのになぁと今までのことを振り返る。決していいことばかりの人生ではなかったが、まだ生きて人生を謳歌したかった。そんな思いを抱えながら、俺はもう痛覚もなくなった腹の傷を眺めながら瞼を閉じた。
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「あれ?俺死んでない」
目を開けると、そこには何もない真っ白な空間と面接官が座っているような机といすが一つずつある場所にいた。
「…んっ、ここは?」
後ろから声がした。振り返ると、そこにはさっき俺をさした女が座り込んでいた。さすがに状況が読めず、お互いに数分黙り込んであたりを眺めていた。すると、急に椅子に影のようなものが見え始め、次第に形になってゆき一人の人間のようなものになった。
「お、君たちかい?死んだの」
現れるや否やその人間のようなものは話し出した。
「え?俺たちは死んでるんですか?」
「うん、君もその子も刺殺でしょ?」
なるほど。つまりは、俺はあの女に刺され今は死んでいる。そして、あの女も俺をさした後にその場で自分をさしたのだろう。しかし何故そんなことをしたんだ?
「おい、なんでお前は俺を殺したんだ?」
「え、あ…」
「えっと、ちょっと辛いことがあって自殺をしようとしたんですが、一人で死ぬのは怖くて…あなたも一緒に死ねば死ねるなと思ったんです」
…は?何を言っているんだこいつは。つまりは全く関係ない俺を自殺に巻き込んだということだよな?ちょっとさすがに意味が分からない。
「はい、そこ話さない。今から大事なこと言うからどっちか選んでね」
「はい…?大事なことって何ですか?」
「今君たちは死んでるんだけど、ここは生の世界とあの世をつなぐ間の場所で、僕がここの役員なんだけど、人間たちが言うには天国?か異世界か選んでくれない?」
また意味わからないことをいう人が増えた。まだ受験の時の方がすんなり理解できること多かったぞ。
「すいません、天国と地獄じゃないんですか?」
「え?あぁ、違うよ。地獄じゃなくて異世界」
「じゃあその異世界って?」
「私も気になります。異世界ってなにをするんですか?」
今まで黙ってたあの女が急に話し始めた。
「異世界っていうのはね、その世界に転生して色々してやばいやつを倒す、みたいな感じかな?」
なんだその適当な感じは。今から俺たちは天国か異世界で生きるかを決めなきゃなんだぞ?と不満を抱えながらもしばらく悩んで導き出した答えを口にした。
「俺は異世界に行きます。天国なんて言ってもどうせ暇だと思うんで。」
「そ、それじゃ私も異世界に行ってみたいです…」
またあの女だ。まさか異世界にまで追いかけてきて俺を殺す気なのだろうか。
「わかった。それじゃ二人とも転送しちゃうから、後悔はないね?」
その瞬間、青白い光が俺とあの女の体を包み込み、まぶしさのあまり目を閉じた。
そして目を開いた時には、もうそこは西洋風の街並みが広がっていた。
「ここが、異世界なのか?」
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