第7話 絶対クソ強底辺配信者許さないマン


「お兄、何してんの! ふざけないでよ!」


「俺はふざけているつもりはない。ふざけてるのは紗季だろ。そんなボロボロになってまで何やってんだ」


 長袖の服で隠しているつもりかも知れないが、体運びで体の至る所に負傷していることがわかった。

 ダンジョン探索で死ぬ直前の人と同じ状態だ。

 体が思い通り動くなるが、それでも動かせる程度。

 体が思い通りに動かない違和感に気づくと皆驚いた顔してモンスターに八つ裂きにされる。

 最早ダンジョンに入るような状態でもないのにそれでも入っている。

 どうして他人の欲望のために俺の家族がこんなに傷つかなければならないんだ。


「仕方ないじゃない。今のままじゃ全然足りないっていうんだもん。苦しいって言ってるのに見捨てられるわけないでしょ」


「そいつの代わりにお前が苦しむことになっても?」


「平気。むしろ好きな人から頼りにされてるんだから幸せだよ」


「一週間だけでもこんなに痩せ細って傷だらけになってるのに幸せには見えないよ」


「他人からどう見られるかなんて別にいいでしょ! 自分の考えを押し付けないでよ!」


「押し付けるに決まってるだろ。俺は今までお前のために生きてきたんだぞ。お前のために今まで何度死にかけても立ち上がってきた。お前だけは絶対に不幸にしたくないその一心で。それなのに、今までの人生の全てを捧げたお前がこんな酷い目に遭ってるのに割り切って見て見ぬフリなんてできるはずがないだろ」


「そ、そんなの頼んだ覚えないよ……」


「頼まれてなくてもやるさ。俺のエゴでやってることだからな。俺はお前に誰よりも幸せになってほしい。誰かからケチをつけられないくらいに」


 紗季は黙った。

 口喧嘩の最中で俺の本心が漏れて、それで引かれたかもしれないし、自分のことしか考えてない奴だから言っても無駄だと思ったかもしれない。

 俯いて表情はわからない。

 紗季には悪いが俺にはまだやることがある。

 ダンジョンの奥に進もうと思うと裾を引かれる。


「……お兄ちゃん……ごめんなさい」


 紗季が涙声でそう謝ってきた。

 罪悪感に襲われているのか泣きながら震えている。

 放っておいたら頽れそうで抱きしめた。

 折れそうに痩せ細っていて、服の上から傷口を覆っているガーゼの感触が伝わってくる。


「辛かったよな。苦しかったよな。一人で頑張ってたんだよな。一人にしてごめん。俺の…俺のせいでこんな」


 涙が込み上げてくる。

 だが涙は流れない。

 行動を阻害すること──死に繋がることはこの体が許容しない。

 制動がかかって引いて、涙で歪みかけた視界がクリアに戻っていく。

 原因の悲しみも平坦な感情に戻される。

 生きるために必要だった機能がただ一人だけの家族のために涙を流すことも邪魔する。

 畜生。

 共に気持ちを共有したくてもできない。

 できないならできることをするしかない。

 俺にできることは早く紗季を苦しめるあいつを二度と立ち上がれないように再起不能にすることだけだ。


    ───


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