3話

 身体が熱い。

 酔いが回ってるのを感じる。

 けど不思議と泥酔はしていない。

 酩酊だ。


 それから暫く、俺は昔はとてもモテていたこと、部下から慕われており会社で活躍してることなどを女神ちゃんに話した。

 気分がよくなりボトルも入れた。


 すると、右隣に座った女神ちゃんとの距離が少し近くなっていることに気付く。

 距離感を詰めるチャンスだ。

 ソファの右隣に少し詰めることにした。

 2人の太ももが触れ合う。

 そのまま女神ちゃんの腰に手を回した。


 「……」

 女神ちゃんは拒絶する反応を見せなかった。

 これはいけそうだ。

 もうちょっと攻めた質問をしても許されるだろう。


 「女神ちゃんて彼氏いるの?」

 「えぇ〜いないですよ〜」

 「そうなの!?若くて綺麗なのにもったいないよ」

 「あはは、よく言われますぅ」

 「性生活とか大丈夫?結構たまってるんじゃない?」

 「……やだー!そんなことないですよ!」

 お、この手の話もいけるかな。


 「俺結構上手いって言われてるのよ!この前風俗行ったんだけど、嬢に今までで3番目に良いって言われてさ!仕事辞めても男優で食ってけるかもな!ガハハ!」

 「……はははは」

 うまく笑わせてやったぜ。

 さらに畳み掛けようか。


 「女神ちゃんって可愛いよね。俺があと10年若かったら狙ってたよ!」

 「ありがとうございます」

 「それにそんなピタッとしたワンピース着ちゃってさ、俺は紳士だから大丈夫だけど、他の男の前でそんなの着てると危ないよ」

 「……ははは」

 「脚もこんなに出しちゃってさー、見えちゃうんじゃない?」

 「……」

 俺は女神ちゃんの太ももの上に手を載せた。

 恥ずかしかったのか女神ちゃんは笑顔だが無言のままだ。

 しまった……少しやりすぎたかもしれない。

 

 「よーしじゃあボトルもう1本入れちゃお!」

 「ありがとうございまーす」

 女神ちゃんのご機嫌を取るために、追加でボトルを入れて飲ませてしまおう。

 このままいけばワンチャンも狙えるはず。


 「ささ!女神ちゃんも飲んで!」

 「ありがとうございますぅ。でも私、あんまり強くないので程々にしたくって……」

 「今日くらいいいじゃん!ボトルも入れてるんだし。これからもこの仕事するなら今のうちにお酒に慣れておかないと」

 俺は空いていた女神ちゃんのグラスにボトルかなみなみと焼酎を注ぐ。

 女神ちゃんは少し嫌そうな顔をしていたが、これは彼女のための試練だ。

 

 「ほらほら!グイ〜っとやっちゃって!」

 「あー……じゃあ一杯だけなら」

 そう言ってグラスを飲み干す女神ちゃん。

 意外といける口ではないか。


 「お!いいじゃん!じゃあもう一杯!」

 「え……」

 俺は再び女神ちゃんのグラスを酒で満たす。

 それを飲み干す女神ちゃん。


 「いいよー!良く頑張った!」

 「……ありがとうございます」

 労いの言葉をかける俺は紳士だ。

 ふと、女神ちゃんの背中に生えている羽がピクピク震えているのに気付き、ここはキャバクラではないことを思い出す。

 異世界転生とか、酔っ払った今となってはどうでも良いのだが、インターバルを挟もうと話題を変える事にした。 

 

 「そう言えばさ、俺って何で異世界に転生する事になったの?やっぱりこれまで実績から選んだ感じ?」

 「あ〜……そんな感じですね」

 やはりそうか。

 有名大学を出て大企業で順当にキャリアを積み、社会的な地位がある。

 年収も同年代に比べれば高い方だ。

 それに服装や髪型に気をつけて清潔感にも気をつけている。

 若い男には出せない大人の魅力もある。

 だから女神ちゃんのメガネにかなったのだろう。

 

 「俺くらいの実力者になったら当然なんだろうけどさ。そう言えば、今まで600人以上異世界に送ってるって言ってたけど、みんな大した実績を挙げられてない感じ?」

 「あー……中には成功した人もいますけどぉ、色々やった後にダメになった人もいるみたいですねぇ」

 「やっぱりね。凄い能力を持ってるのに生かしきれないなんて人選ミスだと思うな。それに殆ど若い奴だったんでしょ?やっぱりある程度社会的な実績があって分別のある大人じゃないとダメでしょう。人選も女神ちゃんが決めてるの?」

 「私の時もありますし、違う時もありますねぇ」

 「へぇ、俺を選んだ女神ちゃんは見る目あると思うよ。でも他の人はダメでしょう。俺からしたら下の下だね」

 「そうで……ふあぁああぁぁ」


 言葉の途中、女神ちゃんがあくびをした。


 目上の人の話の途中にあくびをするなど許されることではない。

 失礼な態度を取るこの女に腹が立ってしまった。

 しかし俺は紳士だ。

 ここは彼女の未来のため、怒るのではなく心を鬼にして叱ろう。


 「は?目上の人の話中にあくびするとかおかしくない?」

 俺は声を荒げて続ける。


 「俺結構忙しいのよ。けどお前のためを思って時間使ってやってんの」

 「何?俺の話つまらないってこと!?」

 「そんなの普通の会社で通用すると思ってんの?俺は優しいからこの程度ですんでるけど、やばい上司だったら怒鳴られちゃうよ」


 「……」

 ふと目をやると女神は俯いたまま動かない。

 反省して泣いているのだろう。


 「わかったならいいんだよ。俺は女神ちゃんの味方だからさ。あ、仕事終わったらお店の外で飲もうよ。24時間やってるシースーもあるし。それに恵比寿のおしゃれなお店は結構詳しいからさ。そうだ、TikTokのアカウント教えてくれない?DMするよ」


 「きっしょ」

 え……?と思ったその瞬間だった。


 首から赤い液体を勢いよく吹き出す自分の身体が視界に入る。


 隣には黒く禍々しい鉄の塊の様な強大な大剣を振りかざした格好の女神ちゃん。

 口は三日月の様に鋭く裂け、目は開き血走っている。

 そして凶悪な笑み。


 おそらく俺の首は宙を舞っているのだろう。

 そう認識したところで、冷たい声が聞こえた。

 何度も何度も聞いた、嫌いな言葉。


 「私、SNSやってないんで」


 若い子がそんなわけあるかよ。


 俺の意識は途切れた。

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