第51話 悩み事

 亮くんの元気が、最近とてもない。

 

 「なんでだと思う?」

 「……悩み事でもあるんじゃない?」

 

 海くんの回答に私は盛大なため息をついた。

 今、私は海くんと二人で植物園で作業をしている。

 

 「亮くんが悩み事……なんだろう。でも成績もいいんでしょ?スポーツはどうなのか知らないけれど」

 「器用でさ、でも昔からスポーツはそこそこだったかなぁ。万能ってほどでもないかも。けど、スポーツやってると女子に騒がれてて、迷惑そうでやめたよ」


 ――それは今でも変わらないようだけど。

 

 海くんはそういいながら、ホースの水を撒いている。

 

「そんなこといっても、海くんもモテるでしょ?」


 なにせこの三兄弟は誰もかれもがイケメンだ。

 

 凪くんは女ったらしで、亮くんは女子に冷たいけど、それがいいとばかりにやっぱりモテて。

 海くんは女性が苦手といっているけれども、その顔立ちで一目惚れする子は多そうだ。

 

「でも本命が振り向いてくれなかったら意味ないよ」

 「いるんだ?本命」


 私の言葉に、海くんは手元のホースを落としそうになってすぐにキャッチする。

 

「今のは忘れて!」

「はいはい」


 そうだよねぇ、触れられたくない話題だよね。

 私は優しいので、本命がどんな女の子なのかは聞かずに置こうかな。

 たぶんだけどクラスメイトかなあ、なんて思いを馳せる。


 「だ、誰だって思ってるの?気づいてる?」

 

 耳まで赤くなっている海くんが可愛らしく思え、顔がニヤけてしまう。


 「ってことは、私の知ってる子?」

 「!」

 

 誤魔化すように、そして海くんは私の方へとホースを向ける。


 「これ以上、その話題を続けると……この水を思いっきりかけるよ?」

 

 脅しにみえるが、そうなると余計にからかいたくなってしまう。

 我慢して、海くんに笑いかけた。

 

 「誰か教えて欲しいなぁって、ちょっと思ったけど。止めとくね」

 「絶対いうわけないだろ!もし本命がいることがバレたら、亮兄になんていわれるか――」

 「亮くんが?」

 「っと、そうそう。愛理ちゃん、でも亮兄が協力してくれないと捜索が進まないね?」

 「そうなんだよねえ。そうこういってるうちに、テストもきちゃうから、さらに探せなくなっちゃうかな。学業優先、っていわれてるし」


 相当話をズラされたけれども、ここは乗っておいてあげよう。なるほど、相手が誰かを相当隠したいんだな。

 

 「ズルズルと探すのが伸びちゃってる感じはするんだ」


 このまま、探す時間が失われてしまうのではないだろうかと感じる。


 「それで時間だけが、余っちゃってるの」

 「それなら、できればなんだけど、凪兄に会ってやってくれない?」

 「どうして?」

 「凪兄が部屋からでてこないんだ。あの山中の一件でデータを奪われてから。自分のせいでみんなが、って責任を感じちゃってるみたい」


 海君にそういわれ、私は凪くんの部屋の前に赴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る