第49話 クラスメイトとして

「データが戻ってきただって?」


 SDカードを差し出しながら、私は矢継家の全員に山中くんと話したことをかいつまんで話す。


 矢継のおじいちゃんに借金の件をかけあったこと。

 妹が行方不明だったこと。

 それをずっと探していたこと。

 そもそも、なぜ矢継のおじいちゃんは山中くんに妹さんの情報を渡さなかったのだろう。疑問がよぎる。私の心の中を読んだように、おじいちゃんは口を開いた。

 

 「色々あるが、要するにあの妹さんの病気も治療の件も含め、企業秘密じゃった。横領した犯人の娘だ何だと記者にとりあげられ、下手に心労が重なれば、ますます女の子の命に関わる。それに山中グループは、ワシらの特殊医療のデータを欲しがっておった。もしかしたら、あの息子とやらが盗む、なんてことも含めて画策しておったかもしれんの」


 「そうですか……」

 

 山中くんの事を詳しく聞く気にはなれない。

 私は、私のこともあるのだ。

 むしろ、矢継のおじいちゃんは、私や山中くんの妹さんまで、助けている。


 ――いったい、どうしてそこまでして、必死に人を助けるのだろう?

 

 「とにかく、無事でよかった」

 そういわれ、亮くんは私の隣に立って髪を撫でる。


 「う、うん。心配してくれて、ありがとう」


 少しだけぎこちなくなってしまう。

 距離の近さと、その触れる優しい手のひらに意識をもっていかないように、しないと。 優しさを勘違いしないように、しないと。

 

 私たちの別れはもう確定してる。叶うはずのない恋。

 だから、この目覚めてしまった恋は――絶対に、諦めなくちゃいけないんだから。


そして、データを盗んだ件は、山中くんの将来を踏まえて不問とするらしい。

 

 「恩にきるのであれば、将来的にお主が身の振り方を考えてくれればよい。今は、子供らしく学生時代を楽しむんじゃな」

 その言葉に、何度も山中くんはお礼をいい、頭を下げた。

 

 どこまでも人のいいおじいちゃんだとは思う。

 けれど、その様子をみて、私の真横にいた亮くんが再び「絶対あとでアイツを利用するつもりだろ、この道化ジジイが」といったのが気になるけれども。

 

 妹さんは治療が終わり次第、再び山中くんと会えることになった。

 これからも、山中くんは医療施設に何度か遊びにくるとのことだ。


 「佐々木さん、ありがとう。君がいなかったら、とても大きな過ちを犯すところだった」


 そういわれ、山中くんは私に片手を爽やかに差し出す。

 ずっと嘘っぽくて苦手だったけど、今回は本当に爽やかな好青年の笑顔に感じる。

 

「ううん、いいの」


 でも握手するほど、私は感謝されることをしたつもりもない。

 

 「佐々木さん」


 それでも、とばかりに手を差しだされ、どうしようかと躊躇していると真横の亮くんが割り込んで山中くんの手を握り返す。


 「じゃあ握手は俺が代理でいいだろ、なにせ婚約者なんでね」

 「君たち、仮だよね?」

 「今はな」

 

 やたらと双方棘があるものいいに、苦笑いを隠せない。

 山中くんは相も変わらず、興味深く面白いものを見たかのような表情を浮かべ、固く手を握り返す。

 

 「じゃあ、それでいいよ。また再びクラスメイトとして、二人ともよろしく頼むよ」

 「お互い、ただのクラスメイトとしてな」


 たたみかけるように亮くんはそういうと、手を離す。

 そして私の手を掴むと、「ここにはもう用はないだろ」と引っ張られた。


 次第に小さくなっていく山中くんに「また明日ね」と声をかけ、手を振る。

 

 そして、亮くんは私に向かって「あとで話があるから、部屋にきてほしい」と耳元でつぶやいた。 

 

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