第48話 真由

 「妹さんは、真由、って名前じゃない……?」

 

 山中くんは私のその言葉に茫然としていた。

 どうして、その名前を?といわんばかりの。


 用意された車で、矢継家に向かう。

 といっても、亮くんたちが住まう場所ではない。

 それより少し違う場所の、離れにあるコンクリート建ての研究施設。


 ガラス扉は閉まっていたので、ピンポンを鳴らす。

 やがて、研究施設の方が私を見ると、開けて中に入れてくれた。

 

 ゆっくりとその中の一つの部屋へとたどり着く。

 その少女は、私の隣に立っている山中くんをみると驚いたように目を見開いた。

 

 「愛理さん!……と、もう一人……?」

 

 どこかで、誰かと似ている気がしたわけだ。

 顔を見合わせ、もう名乗る必要すらなかった。

 

 「おにいちゃん……?」

 「真由……真由……!」


 山中くんは、妹さんにしがみつくように走り寄った。

 

 「生きて……」

 

 その後、言葉をつまらせたまま真由ちゃんも一緒に泣いている。

 ひとしきり、二人が泣き止んで落ち着いたころ、やがて抱き合っていた腕がようやく離れる。

 

 「良かった、お兄ちゃんがどうしてるのかとすごく心配だった。たくさん話したいことがあったけど、どうしてもできなかったの。これまで、ずっとここでお世話になっていたの」


 しばらく、積もる話があるだろうと私が真由ちゃんの部屋を出ようとすると、山中くんは私の腕を取った。


 「佐々木さん、お願いだ。あとで、話がしたい。とりあえず、今はこれを持っていてくれ」


 そういわれて、手のひらに押し付けられた何かを見ると――、SDカードだった。

 

 「もしかして、これ――」


 私の問いに応えるように、山中くんはしっかりと頷いた。

 

 「君たちから奪った医療のデータだ。探していた妹が、真由がいるなら、もうそれは僕には必要ない」

 

 手元のSDカードを眺め、私は落とさぬようにしっかりと握りしめた。

 

 「佐々木さん、ごめん。本当に、悪かったよ……」

 

 これまでずっと、怖かった山中くんが嘘のように思えてくる。

 とても、表情が優しくなった。

 それはきっと、長く探していた妹さんに会えたからだろう。

 

 「ううん、いいの。良かったね」


 心から安堵して、私はほっとして思わず笑う。

 そして、しばらく二人きりにするために私はその場を後にした。

 

 

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