第46話 画策と交渉人

 「じいちゃん、全員連れてきたぞ」

 亮くんたちに連れられ、矢継のおじいちゃんの部屋へとなだれ込む。


 「よくきたな。手短に伝えるが、不味いことになった。山中グループの画策でな……矢継グループが狙われておる」

 「どういうことだよ」

 「うむ、海が育てていた新種の”アリアス”という花があったじゃろ。あれは特定の難病を治す特効薬がある。じゃがな、それを山中グループに情報を奪われたようじゃ。そして薬の処方箋までもな」


 「なんでそんな……そもそも、あの花はここにしかないのに?どうやって?」

 

 海くんの顔に困惑が広がる。

 

 「スパイじゃな、女子おなごのな」

 「どんな?」

 「もしかして、俺の――?」

 

 凪くんの言葉に、矢継のおじいちゃんは睨み頷いた。


 「ああ、お前がうつつを抜かしておったあの綺麗な女子おなごじゃ。恐らく前回の屋敷内の監視カメラで怪しい行動をしておったわ。あの女子が花を盗み、種までも盗み、処方箋までこの部屋から盗んでいったんじゃろう。証拠としては映像では確定できず、不十分な映像じゃったがな。むしろ、一人じゃなく、女子は複数で盗んだのかもしれん」

 

 花を盗み?

 そう、そうだ。

 前回来た時に――確かに、彼女は花をちぎり、髪につけて――。

 そして、海くんはあの時確かにいっていた。


 

 

 「なあ、山中グループだろ?……愛理、もしかして、あいつだよな?」


 亮くんはそういい、私を見る。

 クラスメイトの山中くんを私は思い出した。

 なにより、あの美人さんは山中くんと一緒にいたし……なにより、別れ間際にファイル室からも出てきていた。

 確定ではないけれど、怪しくはある。

 

 「それで、不味いことにってどういうことだよ」

 「あの花の特効薬も、あの花も……こちらが盗んだ、として逆に容疑がかけられそうなんじゃ」

 「そんな!」


 そんなことは、あり得ない。起こっていいはずがない。

 海くんが、矢継のおじいちゃんに対し、問いかけた。


 「でもどうして?処方箋のデータまで、どうやったんだろう……?」

 「花を元にクローン再現されたのかもしれんな。そこまではわからんが、そうなるとうちのグループの不祥事となり得る。過去のデータまで――すべて、もってかれておるわ」

 

 それを聞き、亮くんが口を開く。

 

 「皮切りに他のグループ会社にも影響があるってことだよな。でも、その情報はどこから仕入れてきたんだよ?」

 

 「……タレコミ情報をもらってな。調査中に、ワシ宛てにさっき山中グループの子息から手紙がきておったわ。『薬の内容の件で、詳細を話したい。交渉には応じるが、交渉相手として佐々木愛理を指定する。それ以外、代理人がくれば、話し合いの余地はないと判断する。佐々木愛理には、指定場所に一人できてもらう』、とある」

 

 「「「なんで!?」」」

 

 その場にいる、男子全員が声をあげた。

 私も、意味がわからない。

 

 「なんで、愛理ちゃん?」

 「あり得ない、絶対にダメだ。行くな」

 「うむ、ワシも同感じゃ」


 凪くんだけが青い顔のまま絶句し、私を凝視していた。

 

 「でも、山中くんとのただの話し合い、ですよね?とにかく交渉しないと、矢継グループの不祥事になっちゃうかもしれないんですよね?それなら……わ、私……山中くんに今から会ってきます」


 そして、ひどく真剣な面持ちで、亮くんは私に向き直った。

 

 「だからって行かせるわけないだろ。何があるかわからないし」

 「でも、このままじゃ、亮くんたちが困っちゃうでしょう。少し、代理で私が山中くんと話をするだけだよ」

 「お嬢ちゃんと亮は、山中グループについて、何か知っておるのか?」

 

 そう矢継のおじいちゃんに問われ、前にあった山中くんとのやり取りをかいつまんで話した。

 

 「山中グループの、息子さんか。養子……とな」

 

 「矢継グループを恨んでるなら、亮くんたちでは確かに交渉相手になりませんよね。代理人もダメだっていってますし。でも、指定されてる私なら、クラスメイトだし、なんとか山中くんを説得できるんじゃないでしょうか……」

 

 「愛理……お前、何かあったらどうするんだ?前回の件を忘れたのかよ」

 

 「でも、亮くん」

 

 私だって、役に立ちたい。

 

 「お願い、私、頑張るから……一度だけ、話をさせて欲しいの」


 亮くんのために――、きちんと交渉を、話をできるように頑張るから。

 

 「お願いよ、話をさせて」

 

 ずっと私は視線を亮くんに向ける。

 そのまま困惑の表情を浮かべ、亮くんは諦めたようにため息をつく。


 「……わかった。でも、無理をしないでくれ」

 

 返されたその言葉に、私は頷いた。

 心の奥底では納得いってないといった表情で。

 けれど、ひとまず機会がもらえただけでも感謝をしなきゃ。


 これで、きっと亮くんを私なりに助けられるかもしれないから。


 「本当であれば、ワシがいきたいところじゃろうが、この文面では恐らく矢継家の者が誰か一人でも赴けば、交渉が早々に打ち切られる可能性もある。あちらが話し合いを望むのであれば、説得や交渉の余地はあるということじゃ。お嬢ちゃんに頼るしかないのは苦しいが――ワシからも無理は、せんでほしい」

 

 そして、ポケットに盗聴器とGPSをつけて、山中くんの指定されたーー家に赴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る