第44話 不審な美人さん

 矢継の家は広い。

 確かに最初、海くんに一通りの案内してもらってよかったと――そう思える。


 私がぼんやりと通路を歩いていると、突然目の前のファイル室のドアが開いた。

 ドアの扉がガツンと思い切り、私に当たってーー痛みをこらえていると、凪くんの彼女――あの美人さんが、現れた。


 「いたた……」

 美人さんは私に気づくと、焦ったように私に近づいた。


「あ、あなた……!亮くんの婚約者ね、ごめんなさい、大丈夫かしら!」

「だ、大丈夫です……って、え?」


 鼻の痛みが少しだけ軽減したのち、私は我に返る。

 

 「……なんで知ってるんですか?私が亮くんの婚約者だって」


 美人さんは私の質問に対し、一瞬だけ硬直した。

 そう、以前会ったときは海くんと一緒にいた時だったし、海くんの彼女だと勘違いしてもおかしくない状況だった。

 でもその後、私たちは会っていないので亮くんの婚約者だと知っているのは不自然だ。


 じっと見ていると、私の後ろからやってきた凪くんが口を挟んだ。

 

 「その事は彼女に俺が教えたからね」

 

 そういう美人さんは凪くんの方を向き、こくこくと首を縦に勢いよく振った。

 「そう、そうなの。日記を探せば婚約を破棄することまで聞いたわ」

 「そう、ですか」


 なんだ、口が軽いんだな、凪くんは。

 といっても、恋人同士ならあまり隠し立てはせず、当たり前に話すことなのかもしれない。

 それなら、凪くんは山中くんと彼女が会っていた件も知ってる――?

 

 そう、私がふと考えている間に、二人とも私の前から忽然といなくなっていた。

 

 あまり関わりたくなさそうにしていたから、仕方がないんだろうけども、それにしても無言でとは、ちょっと寂しいものがある。


 それに、なんだろう。

 彼女……あの美人さん、なんだか様子が変じゃなかっただろうか。

 

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