第43話 不穏な密会
「え、じゃあ、じゃあ愛理ちゃんが矢継くんの……婚約者なの!?」
桜ちゃんは、大きな声で叫んだ。
人気がない場所で良かった、こんなのを誰かに聞かれたら事件だと思う。
「っていっても、婚約者ってのは仮なの。一時的なもので、解消される……はず。たぶん」
「そんなぁ、もったいない!でも、一体どうして」
「ちょっとした祖父母の件で、いろいろあって。とにかく、亮くんの自宅にお世話になってるの。私が探し物を見つければ亮くんと婚約を解消できるんだけど」
桜ちゃんはとっても嬉しそうに頬に手をつけ、こちらを見る。
「それって、それって……探し物を見つければ、なの?じゃあ、見つけなきゃいいじゃない」
「え?」
「そうでしょ?探さなきゃ、見つからない。つまり、あの亮くんと結婚でしょ?うわあ、最高じゃない。私なら最初から絶対に探さないなあ」
なるほど桜ちゃんは、そう思ったのか。
でも実際そもそも探さない、というその、考えはなかった。
考えてみれば、それもそうだ。
桜ちゃんは亮くんが私を庇ってくれたことを知らないから――その背景を知らないから、そう思うのかも。
事情を知れば、きっと亮くんとの婚約は、何が何でも必死で解消しなきゃという気持ちになろうだろう。
私は、仮だから。
また胸が、とたんに締めつけられたように苦しくなる。
とりあえず、これ以上詳しく話すと長くなりそうなのでそこは誤魔化すことにした。
「って、私も彼氏できちゃったから、そういうワケにもいかないか」
「ええ!?」
聞けば知らない間に、桜ちゃんは一つ年上の先輩から告白され、付き合うことになったそうだ。
実は前から気になっていた人なのだと告げられ、心から私は祝福する。
「私は、愛理と矢継くんって……なんだかんだ二人とも、お似合いだと思うよ?」
「え?どこが!?」
「うーん、なんか矢継くん、いつも愛理の事見てるよね?っていうか、もっと矢継くんとのこと、実際どうなの?あんなクールイケメン君が二人きりだととびっきり甘い言葉をかけてきたりするの?気になるんだけど……ちょっと聞かせてよ」
その桜ちゃんの質問に、私は頭を抱える事態となった。
そう、そうだ。
彼女は恋バナが大好きだったのだ、けれど聞かせるもなにも、語ることはほとんどない。
「えーと……たぶん、想像と違うと思う」
というより、甘い言葉の一言ですらかけられた記憶すらない。
怪我をしたときに大丈夫か?と聞かれたくらいだ。
でもそんなの、ただのクラスメイトでもその程度の声をかけるレベルであって――……
桜ちゃんが思っているほど、私たちの関係は驚くほど甘いものではなかった。
少しだけ、心が痛む。
そんなことを、これまでのことを、あれこれ語っていると、向こう側の校舎の一室に誰かがいることに気づいた。
よくよく目を凝らしてみてみると、あれは――……。
山中くんと――あの美人さんは、前に植物園で会った凪くんの彼女に似ている。
そうだとして、なんで、二人が一緒にいるのだろう?
こちらには気づいていないようだ。
すごく違和感を覚える。
二人は神妙な面持ちで話をしているようだけれども。
そして、遠目から山中くんは何かの紙を一枚、美人さんに渡した。
どういうことだろうか、 いやな予感がする。
「――ねえ、桜ちゃん。山中くん、ってどこかの社長の息子さんじゃなかったっけ?」
桜ちゃんは、尋ねた私を意外そうに見た。
「うん、あの山中圭介くんだよね?山中グループの社長の息子さんだよ。あまり知られていないけど……最近、急成長してきた医療関連の会社だったかなぁ」
「医療関係……そっか」
凪くんに、伝えた方がいいのだろうか。
でもどうやって?
ただ一緒にいるだけで、こんな些細なことは別に話す必要はないのかもしれないし……。
ぼんやりと、私は遠目に二人を見ながら、そんなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます