第41話 亮編 対立

 クラスメイトからの質問攻めに疲れ切った俺は、特別教室に退避していた。

 ただ婚約者がいると伝えただけで、あんなに騒がれるとは思わなかった。

 前の学校では婚約者がいる人間は珍しくなかったし。

 

 たいした事じゃないと思っていたけれど、からかわれる、という愛理の懸念が少しだけわかった気がする。

 迂闊だったかとため息を思わず漏らすと、背後から嫌な気配とその原因の声が聞こえた。


 「あんなこといっちゃって良かったの?」


 あのワザとらしい笑顔を振りまく山中だ。


 「お前から俺に話しかけてくるとは思わなかった」

 「ライバルのことを知りたくてね」

 「お前がライバルだと思ったことはないけどな」

 「嘘はよくないよ」

 

 教室の窓辺の俺たちに向かって、数人の女子が手を振ってくる。

 その女子たちに対して、山中はニコニコと愛想を振りまきながら、軽く手を振り返した。

 

 「矢継くんも、もっと笑ってあげればいいのに。ファンが増えるよ」

 

 ……そういうのは、さっき断ってただろ。増やしてどうするんだ。

 

 「そんなに女子に冷たいから、顔だけイケメンっていわれちゃうんだよ」

 

 「それで用件は」

 「くだんの君の婚約者って佐々木さんだよね?」


 そうだ、といいかけ愛理の困った顔が脳裏に浮かぶ。

 その回答を避け、俺はそのまま口を開かず山中に向き合った。

 なぜそれを知っているのかと、そもそも答えを聞いてどうするつもりだろうか。

 

 

 「これまでクラス内では、栗原桜さんが一番人気だったんだ。快活な美人。けど、最近……佐々木さんも、って男子内では話がでてるんだよ。実際、栗原さんがずっと一緒だったし、目立たなかった。けど君が隣にきてから、君が関わってから――少し彼女は変化した。かわいい、ってね」

 

 その言葉に、グッと奥歯を思わず噛みしめる。

 自分しか見ていなかったと思っていたのに、他の誰かがって……?

 

 「いうほど可愛いか?普通じゃないか、別に」


 悔しくも少しだけ声がうわずった。

 俺の心の中を読んだように山中はふっと目を細める。

 

 「……嘘は良くないよ。彼女、最近……大人びてとても綺麗になった。少なくとも僕はそう思う」

 

 「それで、何がいいたいんだよ」

 「君の出方を伺おうと思って。このままだとライバル、増えちゃうね?どうするの?」


 わかってはいるが、いわれると妙に腹が立つ。


 「俺にそんなことを聞いてどうするんだ?」

 「君が彼女をどこまで好きなのかを知りたかっただけだよ。なんとなくはわかった」

 「別に好きじゃない。そういうお前は好きってことかよ」


 「また嘘はよくないね。そんな言葉をきいたら彼女、泣いちゃうかもよ。念のためいうけど――僕はそれなりに好き、ではあるけど君ほどじゃない」

 

 笑みを浮かべてはいるものの、やたらと挑発的な視線。


 そして俺の名前と山中の名前を呼ぶ甲高い声が耳に届く。

 山中は、窓の外の少し先にいた、かしましい女子たちに再び手を振った。

 

 「だからこそ、面白いんだ。君の婚約者の立場が揺らいだら、どうなるかなって?」

 

 そう言い残して山中は去っていった。

 

 揺らいだら?

 揺らぐことなんてあるか?

 

 ――そんなことは、あり得ないハズなのに。

 

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