第40話 亮くんと告白と婚約者

 「好きです」

 

 と亮くんが告白を受けたのはいつもの事である。

 でも今回は、珍しく人目のある教室だった。

 勇気を振り絞ったその女の子は、栗色の髪の毛で人気アイドルのような可愛さがある。

 

 転校してきてから、亮くんに告白してくる女の子は多い。

 ただ、振られるのが怖くて、だいたい人目につかないところで告白されてるもんなあ。

 といっても、呼び出されても亮くんは基本的に応じないから、人気のないところに呼び出す時点で難しいだろうけど……。


「ごめん、付き合えない」

 簡潔に返す様も、いつもの事である。


「試しに付き合ってくれても……」

 

 なおも食い下がる女の子に、亮くんはきっぱりと拒絶するように首を振った。

 告白してきた女の子は、少しだけ目を潤ませている。

 

「試しにも付き合えない」

 「どうして?」

 「婚約者がいるから」


 あっさりと放たれたその言葉に、教室中が悲鳴で響き渡る。

 当の私といえば、驚きのあまり声すら出せなかった。


 その言葉に、女の子は目を白黒させたような感じで「婚約者……!それは、だめだよね。わかった」とあっさりと去っていった。

……もしかして、さっきの涙目は泣き落としの演技だったのだろうか。

 

 なるほど、女性避けとしては確かに婚約者の存在はいいのかもしれない。

 ということは、別れた後も――それで誤魔化せばいいのかも?


 そう思ってチラリと一瞬だけ亮くんを見ると、バッチリと目が合ってしまった。

 思わずパッと顔を背け、教科書で顔を隠す。


 そう、きっと、そういうことだ。

 それ以上の考えは、ないはず。

 だって、本当にいるかどうか、って立証できないよね?

 相手が私だって学校では内密だし、傍目にはわかんないものね?

 

 そうしている一瞬の間に、クラスメイトの男の子たちが亮くんに駆け寄った。

 どんな可愛い子なんだ、どんな金持ちだとかで大騒ぎだ。


 「別に、普通。本当に普通の相手」

 

 その言葉に、意外だと思ったのか再び男子生徒たちは盛り上がる。

 

 「画像ある?」

 「どうなの?好きなの?」

 「羨ましすぎる、どこまでいったの?」

 

 その質問に、さすがの亮くんも大きく相当に動揺した。

 

 「いや、何もしてない!画像もないから!」

 

 相当に首を振り、いつもクールな表情を崩さない亮くんが、そうとうに焦る様子を見て、絡む男子生徒たちはとっても楽しそうだ。


 「……本当かよ?怪しいな」

 「せっかく婚約者がいるのに、マジでキスすらしてないの?」

 「ないない、絶対しない」

 「なんだよ、それ!ちょっと想像以上に矢継くん硬派すぎじゃない!?もったいない」

 

 男子生徒たちは楽しそうに恋バナに花を咲かせる。

 とても珍しい光景だ。

 そこで、耳まで赤くなった亮くんと一瞬だけ、再び目が合った。

 慌てて教科書で再び顔を隠したけれども。

 いやいや、なんで私まで、照れてしまってるんだろう。

 

 授業開始のチャイムが鳴り、男子生徒たちは解散となった。

 話を聞いていたクラスの女子たちは、いままで公開されてなかった婚約者の存在に、ショックを受けているようだった。

 

 授業中も騒ぎは収まらず、

 「同じ学校の子なの?」「あれは絶対美人に違いないわ!」「年上かしら?年下かしら?探さないと!」

 

 尾ひれが無尽蔵につきまくった結果、「矢継亮の婚約者はモデル兼アイドルでナイスバディのハイパー金持ち」なんて噂まで出始めている。

 

 乾いた笑いしかでない。

 

 もうすべての情報がキャパオーバーで、私は頭がいっぱいだった。

 ため息をつきながら、教科書を机にしまう。


 ――なんとも恐ろしい事態になった。

 これは絶対に、婚約者が私だとバレないようにしなければ。

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