第34話 婚約者の役目と権利(亮編)
いつの間にか、寝ていたようだ。
ふと目が覚めて、頭がガンガンと痛くなる。
それもこれも、あいつ――愛理のせいで。
と、いいたいけれども、今回ばかりは自分に非がある。
いわれたとおり、さっさと着替えておけばよかったのかもしれないけれど、今となっては後の祭りだ。
サイドテーブルの上に置かれた薬は、苦くてあまり飲みたくない。
もってこられた冷たい水はすっかりぬるくなり、結露した水はコースターに染みきっていた。
愛理がいなくなった目の前の光景をぼんやり眺めていたら、ノックの音が響き、樹が入ってきた。
「なんだ、起きてたの?」
「今起きたところ」
起き上がりざま、さりげなく樹は俺に粉薬を渡してきた。
どうやら薬を飲んでいないことが、バレているらしい。
しぶしぶ受け取り、粉を口に流し込む。
ぬるい水で流し込んだのに、口の中に広がった苦みで気分がさらに悪くなる。
ぐい、と不快に唇をぬぐった後、ようやく樹は本題に入った。
「ねえ、亮兄って……愛理ちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって?」
「好きなの?」
唐突に聞かれて、俺は困惑する。
どうして、急にそんなことを聞いてくるのだろう。
「そうじゃない。ただ――仮の婚約者だから関わってるだけだ」
「それだけ?」
「ああ」
――ただ、それだけだ。
それだけ。
それ以上でも、それ以下でもなく。
……頭が痛い。
「どうしてそんなことを急に」
俺の言葉に、樹はゆっくりと悲しいとも寂しいともいえる表情で、首を振った。
「愛理ちゃんといて、亮兄はよくしゃべるようになったから」
そういえば、いなくなると途端に俺の周りが静かになる気がする。
前は静かな日常が好きだったが、愛理と関わってからは随分と騒がしくなった。
今のこの部屋の静かさに違和感すら覚える。
どうして――……
ふと愛梨の顔が思い浮かぶ。
俺に触れる手を止めた、少しだけ寂しそうな顔を。
触るな、なんて――……あんなこと、いわなければ良かっただろうか。
「婚約者、ってそう考えると――相手を縛れる、いい言葉だよね」
「……樹?」
その言葉の裏を考える。
もしかして、友達だと軽くいっていたけれど……そうじゃなくて――
そんなわけがない、と思いながらもその疑問は俺の脳裏に浮かび続ける。
けれど再びの頭痛で、それは消えていった。
次の瞬間には樹はいつもの明るい笑顔に戻り、サイドテーブルに冷えたペットボトルを置いてくれた。
さきほどの表情は、憂いは……気のせい、だろうか。
「亮兄、早く治してね」
「ああ」
それだけをいうと、樹は俺の部屋を出て行った。
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