第28話 通学路。

 翌日。


 再び鏡の前で気合を入れる私。

 制服に身を包み、部屋を飛び出す。矢継家から学校までは遠くない、歩いて行ける距離だ。早々に朝食を済ませ屋敷をでていこうとすると、後ろから誰かに肩をトントンと叩かれた。


 誰かと首を回すと、亮くんだった。

 それは朝の太陽光に照らされ、ひときわ輝く髪。

 黙っていれば、整った顔立ち。

 ううむ、うらやましい、じゃなくて――

 

「おはよう、亮くん。どうしたの?」

「こんなに朝早くでるのかよ?」

「でるよ、だってこれから出ないと間に合わないじゃない?」


 私の言葉に亮くんは怪訝な表情を浮かべ、人差し指で窓から見える庭を指さす。

 そこには、とてもとても立派で艶やかな車が――。


 もしやあれに乗っていけ、と?

 

「いや、乗らないよ?歩いていくから」


 亮くんをパッと振りきり、私は玄関を出る。

 そよ風が気持ちよく、春の花の香りが私に届く。

 さわやかな朝そのものだ。今からなら、余裕で間に合うだろう。

 

 というか、もし亮くんたちと車に乗って一緒に通学して、誰かに見られたら何をいわれるか――考えただけでも、ひたすら怖い。

 

 そう考えると亮くんたちは車通学とか、当たり前だったんだな……と思う。

 確かに御曹司なら誘拐とか考えられるから、そこは仕方ないのかな?

 うん、凡人と一緒にしちゃダメだ。


 出発の前に左手を確認する。

 薬指にはまったプラチナの婚約指輪は、なんとか厚めに巻いた絆創膏でごまかした。触られたらバレるけど、これならば触られなければ気づかれない――ハズだ。


 一人納得し、私は通学路へと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る