第26話 捜索開始②

 亮くんの部屋をノックする。

 やがて、ガチャリと扉が開けられ、 「なんだよ」と、部屋の主たる亮くんが出てきた。

 

「離れに倉庫っていうか、別荘があるってきいて……早速、そこに日記を探しに行こうかと思って」

「要するに俺が持ってる鍵が欲しいわけだ」


 全てを伝えるまでもなく、亮くんは鍵をチャリン、と私の目の前にぶら下げた。


「ありがとう!」


 そういって、嬉々として鍵を取ろうとすると――ひょい、と上にあげられ、私の手は虚空を掴む。

 

「俺もいく」

「なんで? 別に、一人でも探せるよ?」

「――あそこは――いや、なんでもない。とにかく、俺も行く」


  おもむろに私は腕を掴まれ、私は引きずられるように別邸前へと連れられた。 さんざん自分に触れるなといって、自分から私に触れるのはいいのだろうか?そんなことを前から何度も思うけど、とても納得がいかない。納得できない。

 

 亮くんは別邸の鍵を回すと、そこにはーー


 通路には長く上質そうな赤い細かな柄の赤い絨毯。そして、威圧的な西洋鎧が並んでいた。光が入らないように、カーテンが閉められ、隙間から入る光と古びた別荘のこの雰囲気は、まるで――。


「なんか、怖い……」

「……だろうと思った」


 お化け屋敷ホラーハウスよろしくなその状況。

 入るのを躊躇している私を一瞥し、「ほれ、いくぞ」と無理やりに近くの一室に押し込められる。

 

 そして目に入ったのは、烏の濡れ羽色の細く長い髪。そして青白い顔がひときわ闇に浮かびあがり――切れ長の目がギロリと私を捉える。

 

「ひっ!」


 よくよくみれば、それは日本人形……、それも、人の大きさほどもある……。

 少し古びて、肌がところどころ色が変わって――……。 

 こ、この場所で一人っきりで探すのは勇気がいる。


「じゃあ、頑張って探してくれ」


 腕を組んで、亮くんは私を見下ろす。

 

 ――いつにない笑顔だった。

 怖がっている私を、完全に面白がっている。

 まさか、亮くんがはじめて見せる笑顔がそれだとは……。


「あのー、亮くん……」

「ちなみにいっておくけど、ここにある保管品を光から保護するために、カーテンは閉めたままだ。電気はつけていいけれども。つまり、このままで作業ってことで」

 

 薄暗い部屋で一人、このおどろおどろしい日本人形に囲まれながら……?

 リアルな分、遊園地のホラー施設より怖いんですけど。

  

「ねえ、亮くん、一緒に探そう……?」

「探してください、だろ?」


 ――なんだか、とても偉そうだ。

 でも、確かに探さなきゃいけないのは私で、実際、いま亮くんはそれに付き合ってもらっているだけだ。

 ええい、恥も外聞もあったものか。

 意を決して私は頭を思い切り下げる。


「亮くん、ほんと、心から、お願いします。一緒に探して……!」

「仕方ないな」


 懇願する私を見てふっと笑い、私の真横で地べた――といっても、ここも上質な赤い絨毯だけれどもーーに、座る。

 

 でも、なんだかんだで、頼めば亮くんは一緒に探してくれるんだ?

 それに、もしかしてだけれども、いいだすのを待ってくれていた?

 ちょっとこれは……想像以上に、彼は(少しだけ)優しくて、なんだか可愛らしいところがあるのかもしれない。

 

 私もつられて、気づかれないように少しだけ口角を上げる。

 亮くんの隣に座り、目の前にある段ボールへと手をかけた。

 

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