第22話 樹編 隠された狙い

 

「亮兄が仮の婚約者、ってどういうこと?」

 

 僕の声に反応するかのように、おじいちゃんは振り返った。

 

 ――僕がおじいちゃんに用がある、と呼び出されたのは、他でもないあの愛理ちゃんと亮兄のことだった。

 ざっくりとした説明を聞いて、今に至る。

 

「その言葉通りじゃ。じゃから、野暮な邪魔をするでないぞ?」

「でも、なんで?」

 

大事な点はそこだ。

 どう考えても、昨日の今日であの二人が相思相愛になるシチュエーションが思い浮かばない。

 どっちかというと、速攻で破局待ったなし――な気もするし。

 

「亮がの、お嬢ちゃんのために、一肌脱いだのじゃ。つまり、ワシと楽しい賭けをしたのじゃよ」

「賭け?」

「ワシの日記を見つけワシに渡せれば、お嬢ちゃんの借金なし、そして婚約は解消。見つからなければ――そのまま、亮と結婚してもらう」


 なるほど。

 おじいちゃんの狙いが、なんとなく掴めたぞ。


「つまり、愛理ちゃんをここからか、僕たちからか――とにかく逃がさないために、亮兄が人質になった、ってこと?」


 意外に思えるが、亮兄は文句をいいながらも面倒見がいい。

 おじいちゃんと、なにか――ひと悶着あったのかもしれない。

 

「お前はなかなか賢い孫じゃ……さて、どうかのぅ」

 

「誤魔化さなくていいよ。でもそうなると、その日記ってやつは、きちんと存在するの?あと、僕が日記捜しを手伝っても構わないわけ?」

「ワシはアンフェアは嫌いじゃ。もちろん、日記は確実にこの屋敷の中に存在するし、なんならお嬢ちゃんがきちんと探せる範囲に存在する。加えて、契約では誰が探すか渡すかは問題でない。お前さんが協力して探し出しても良いが――なぜじゃ?」

 

 ――僕は、友達として、協力したいと思ってる。

 友達、というキーワードが何故か心にひっかかるような気もするけど。

 

 そういう条件なら僕が日記を探し出して……二人を別れさせても、いいわけだよね?


 友達なら、きっと……そういう協力するよね?

 もとより、二人ともそんな気はないはずだし。

 

 そうして、僕はおじいちゃんの部屋を出た。

 

 そのまま亮兄の部屋へと行き、ノックをする。

 直後にドアは開かれ――僕の顔を見るなり、入れとばかりに首を回した。

 

「亮兄、ちょっと聞いたんだけど、婚約したとか――」

「ああ」

 

「っていうか、なんで婚約者になったの? おかしくない?」

「何もおかしくない。問題ないから、俺もアイツも――しばらく放っておいてくれ」


 問題しかなさそうな、疲れた表情で亮兄は紅茶を淹れる。

 ティーカップから湯気が立ち込め、香りが部屋へと充満した。


「どうせ、しばらくしたら婚約破棄だしな」


 そういわれティーカップを目の前に置かれた。

 僕はそのカップを手に取り、ふうふうと冷ますために息を吹きかける。

 

「そこでさ、日記を探すんでしょ? 僕も探すの手伝おうかと思って」

「なんでお前まで? 別にそこまでしなくてもいい」

 

 協力者が多ければ、早々に見つかりやすいから……きっと喜ぶかと思ったら、意外な返答だ。紅茶が冷めたので、口に含みつつ亮兄を見た。


「手伝うってば」

「……別にいいから。というか今は、放っておいてほしい」


 それどころか、不機嫌さが増しに増して、微妙な空気になる。

 そのまま亮兄は無言になってしまったので、僕は紅茶を飲み終えて早々に退室することにした。

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