第12話 別の目的が?
凪くんは、とにもかくにも私のことが大嫌いらしい。
よくわからないまま嫌われたのは残念だと思うが、お互いに意見が合わないのならば、それは仕方がないとも思う。
部屋に戻って、しばらくするとコンコンとノックが響いた。
ぐいと涙をぬぐい、扉を開けると亮くんだった。
「……どうかした?」
私の充血した目を見て、一瞬だけ怪訝な表情をした。
部屋に招き入れ、一人掛けのソファーに座ってもらう。私がベッドに座ってから、亮くんは口を開いた。
「……ジイさんから、借金について詳しく聞いた。もともとは父親の友人の借金だって」
「うん、お父さんには親友がいて……その友達が困っていたから、って。借金はそれが原因だって、私も聞いた」
「でも、それならお前は関係ないじゃん」
「それでも……お父さんが保証人になったからには、そんなこともいえないよね」
「……そうだろうけど。よくわからないんだよな」
「わからない、って何が?」
「ジイさんらしくない。やり方が回りくどいんだ。俺たち3人のうちの誰かと結婚してほしいなら、こんなことをする必要はないと思う。――目的は別にある気がして」
亮くんはそれをいうと、黙りこくったままだ。
「まあ、ただの勘だけど」
私がそこで、ようやく亮くんの方を見ると、亮くんも私の方を見返した。
「……じゃあ、もう行くから」
立ち上がり、部屋から静かに出ていった。そのままひらひらと手を振ると、廊下の奥へと消えていく。
――目的が別にあるかもしれない?
どういうことだろう。
私はしばらく部屋で考えたが、理由など思い当たらない。
亮くんを追いかけるべく、廊下へ飛び出したがしん、と静まり返っていた。
それならば気分を落ち着かせるために……少しだけ、気分転換を兼ねて散歩をしようか――、そんな気持ちになり、部屋を飛び出る。
矢継くんの家はとても広く、教室が何個も……いや、学校がまるごとおさまってしまいそうだ。庭園まで含めると、何個おさまってしまうんだろう。
湧き出る噴水の心地よい音。
流れ出る自然を模した川と木々。
ところどころに点在する、大きな岩まで……。
あるいたところで、誰かが庭にいることに気が付いた。向こうも私の気配に気づいたようで、振り返る。
――樹くんだ。
少しだけ緊張した空気が辺りを包む。
「こんばんは……」
私が声をかけると、目を逸らしながら樹くんは小さく「こんばんは」といった。
踵を返そうとしたら、
「待って」
「そこは立ち入らないで」
声をかけられ、見ると確かに小さく「立ち入り禁止」の札がかけられていた。
「あ、ごめん……」
「いや、その……立ち入り禁止なのは、その辺りの植物は触れるとマズイんだ。かぶれたり、腫れたりしちゃうから。だから、そういう意味での禁止」
私の近くによってくると、樹くんは解説をしだす。
「えっと、これウルシなんだ。ウルシならまだ、かぶれるだけで済むけど……絶対に触ったらダメなものもある。こっちが観察するためにはやしているカエンダケってキノコだけれど、それが特に危険で――……」
黙りこくったままだったら、樹くんはひたすら解説していた。
どうやら、自分の好きなことには語りたくなるらしい。
「あ……」
私の視線に気づいたのか、樹くんは再び目を逸らしながら「ごめん」といった。
「ごめんって? なんで?」
「変な解説しちゃって」
「ううん、知識すごいんだな、って思って……」
これだけあった、花も植物の名前も、個性も、特性も作業しながら丁寧に教えてもらった。なにより、すべて覚えているなんて、相当に賢いのだろう。
部屋には図鑑がたくさんあるといった。
もちろん、それは好きだからだろうし、自分でしっかり勉強しながら育ててるからなんだろうけども。
「解説、面白かったよ。今度から、もし何か手伝えることがあったら、いってね」
本音で声をかけた。
するとしばらく樹くんは考え込んだ後、ふっと私の瞳をしっかりと見た。
「うん、ありがとう……もしかしたら、何かあるかも」
「じゃあ、これからは友達、としていってくれれば、樹くんを手伝うから」
「友達か……そう、だね。そのくらいなら、まだ……」
少しだけ、樹くんはほほ笑む。
私たちはそして互いに軽く笑うと、樹くんの植物園をできる日は手伝うことを約束した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます