第8話 契約書の確認ミスと同居生活

 借金返済の項目に加え、詳細が記載された契約書にサインをした。契約書はやたらに分厚く、そして冊子のように長ったらしくなっている。閉じられたホッチキスの針がパンパンで取れそうだ。

 

 つらつらと必要なさげに思える、どうでも良さげな項目が延々と書かれていて……目を通す気にならない。眠気も相まって、目に止まったところだけをざっと確認する。そのまま流れるようにサインして、私は家に帰ろうとした。


「よしよし、契約完了じゃな。それで――お嬢ちゃん、待て待て。どこに行くんじゃ?」

「え?もう時間も時間ですし、ひとまず家に帰ろかと。お父さんにも会いたいし……」

「父親の件は心配せんでええ。お嬢ちゃんの親御さんじゃからな、悪いようにはせん。それに、お嬢ちゃんは今日からここに住むんじゃが?」


 おじいちゃんの言葉に、意味が分からず私は困惑する。


「え?どういうことですか?」

「ほれ、ここに」


 おじいちゃんの手元の契約書の真ん中らへん――指の先には「契約が完了するか高校卒業までの間は、矢継家の屋敷に滞在することとする」と書かれていた。


 私は悲鳴をあげることもできず、呆然と現状を把握した。

 

「……やたらと契約書が長いなと、思いましたが……もしかして、それが狙いだったんですか……?」


「いやいや、契約前に契約書をよく読むということは、大事じゃぞ?勉強になったな、これは――いわば老婆心ろうばしんじゃよ」


 からからと高く笑い矢継のおじいちゃんは、部屋から去っていく。

 残された私は、半ばメイドさんにずるずると引きずられるようにして、屋敷内の一室へと案内された。


 いつの間に運び込んだのか、部屋の中には私の部屋のものが全て揃っている。


 なるほど、ここまですべて計算済みということだろうか。

 メイドさんは手慣れた様子でベッドメイキングを早々に終わらせ、部屋を退室した。


 信じられないことに、この部屋はホテルルームのようにバスルームとトイレまで完備されている。やたらに広い、と思ったけれどもこんな部屋がいくつもあるんだろうか。さすがは矢継グループ……。


「もう……どうしてこうなっちゃったんだろう。本当にこれから前途多難、だなぁ」

 

 私はため息をつきながらシャワーを終えたのち、パジャマに着替え――そうして、ようやく深い眠りについた。

 

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