第7話 借金返済と1年契約②
「ふつつかものですが……よろしく、お願いします。ええと、それぞれクラスメイトの矢継くんと矢継長男くんと矢継三男くんとよべばいいのかな……」
「あのな…‥」
私の言葉に、矢継亮くん(次男)はツッコむ。
「どうしたの? クラスメイトの矢継くん」
「……はぁ。確かにややこしいな。それなら俺のことは亮と呼んでくれ」
「いくらなんでも、呼び捨てなんてできないよ……せめて亮くんで」
私たちがそう言葉を交わすと、線が細く、大きな瞳のやたら女の子のような顔立ちの男の子は、ちらりと私を見やった。
「よろしく……」
そういうと、目をさっと逸らされる。三男……樹くんだ。
「でも、人とあまり話すのは好きじゃないんだ……年頃の女の子は特に。君のことも、きっと好きにならないと思う……ごめん」
樹くんはいつの間にか凪くんの後ろに回り込み、私の様子を伺うようにしている。
かえって、こういった話で彼の気に病ませてしまったようで申し訳なく感じる。
「ううん、こちらこそ、その……よろしくね……」
「で、俺が長男の凪。俺もこの件に関しては、じいさんや君のいう通り、お互いの気持ちが大事だと思うし、だからさ」
「凪兄……、好みなのか?」
そういいながら、亮くんは凪くんを見やる。
すると、凪くんは私を一瞥したのち、鼻で笑った。
「いや――全く興味ない。むしろ、逆だね、びっくりするほど好みじゃないんだ。貧相だし、そもそも付き合う女性を一人に絞るのもね……だから亮でいいじゃん。同い年だし、クラスメイトなんだろ? ほらみろ、並んで立ってる姿もお似合いだ」
うわあ、貧相って……。
前言撤回。すごく失礼な人だ。
そして何より――
「なるほど。凪くんは、女性の敵なんだ……」
「それは、お褒めの言葉かな?」
私の言葉に、爽やかな笑顔で返す凪くん。
「つまり、全員が乗り気じゃないワケだ」
そして、亮くんはおじいちゃんに向きなおり、口を開いた。
「じいちゃん、悪ふざけも大概にしろよ。全員この通りだし。俺らやコイツが望んでるとでも思ってんのか」
――やっぱり、さっきは政略結婚といいつつ、誰もが納得してなかったのか……。
「亮くん、ごめんね。学校でいっていたのは、なんのことだか全然わからなかったけど、このことだったのね。昼間の屋上でのあの言葉で、うわぁ、すごい変な男の子なんだな……って思ってた」
「変な、ってお前な……」
「……亮ともう何かあった?」
凪くんが興味深そうに目を細める。
「ええ、まあ。事前に絶対好きにならない!とのありがたいお言葉を――学校でいわれたので。あ、私も亮くんを好きになりませんけど……」
「ああ、お互い絶対ありえない――って、なんだって?」
「え?亮くん、どうかした?」
私の言葉に、亮くんは口をパクパクさせて、指を指してきた。なにか、言いたげだが言葉が出てこない様子だ。
「ってか亮兄、この子にそんなヒドイことをいったんだ……?」
そして、樹くんは気の毒そうに私を見つめる。
「……うーん……、まあ、あまり気にしてないから、大丈夫」
その言葉でようやく我に返った亮くんは私に向き合った。
「愛理、俺も――あんまりお前と仲良くする気はないから」
「え、亮兄……もう呼び捨てなの? 興味ない割には、ちょっと早すぎじゃない?」
「なにがだよ?」
樹くんの返しに亮くんは首をかしげる。
気まずい雰囲気な私たちを眺めていたおじいさんは、再び号泣していた。
「――おお、最高じゃ。青春じゃ。とても仲睦まじいと思わんか? 凪」
「……この茶番のどこがだよ?このもうろくジジイが……」
そうして、この奇妙な初日の顔合わせは終わっていった――。
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