第6話 借金返済と1年契約①

「ああ、とても……よく似ておるな。そういうわけで、せめて君がわしの孫と結婚――いや、まずは婚約してくれないだろうか」

 

「……え?」

 

 と、いうわけで、とは?

私は唐突にいわれた、その言葉に絶句した。

 

 私は、春代おばあちゃんの話は少ししか聞いたことがない。

なにせ、お母さんも生まれてすぐに死んでいるから、お父さんから少し聞いただけだ。


 その時代ではなかなかの評判な美人であったとか、おばあちゃんも若いうちに亡くなってしまったこと。

 イケメン御曹司にいいよられていたが、キッパリと断り大恋愛のすえに祖父と結婚したとか。もちろん、何かしら盛った話だろうと思っていた。今の、今までは。


 でも、先ほどのおじいちゃんのこの言葉から、事実だったのかもしれない。


「街で偶然、お嬢ちゃんを見つけてな。あまりにそっくりで、ワシの記憶が鮮明に蘇ったのじゃ。そして、ワシは考えた。それならば――あの時の叶わなかったワシの願い――自慢の孫と結婚してもらおうと」

「あの」

「……これでやっとワシの夢が叶うのう……」

「あの」

「お嬢ちゃん、ワシの孫は、なかなかの美男子揃いじゃぞ? 昔のワシに似て」

「あの!」

「おお、やはり春代さんに似ておる。怒った姿も別嬪べっぴんさんじゃ」

「ええ、なんなの……?」


見られている視線を感じて、振り返るとそこには二人の男の子たちが呆れた表情で立っていた。真横の矢継くんは私に視線を投げながら、少しため息を漏らす。

 

「ほら。転校させられたのは、お前のせいだ、っていっただろ。札束で学校をまるごと買収して――結婚させるために、お前の隣の席までご丁寧に用意させやがって」

 

そんなことをぶっきらぼうに転校生の矢継くんは私に言い放つ。 


もしかして、突然ひとりだけ席を移動していたあの山中くんは……そういうこと?

 

――まさか、そんな偶然がありえるわけがない。


 いや、わざわざ、おじいちゃんの孫たちとを私を会わせるために――このために転校してきたのなら、それは偶然ではなく必然なのだろうけども。

 あり得ないほどの、信じられない、そして、とんでもない話に、私は首を振った。

 

「えっと、そんな……!だって、その、無理です!お断り……できますかね?」

「もちろん、君にも選ぶ権利がある。じゃが孫たちはとてもいい子たちじゃぞ?せめて、数年ほど考えてもらえんじゃろうか」


 いや、私はそういう意味でいったわけではない。

 こんなイケメンくんたちの相手役に、私が抜擢されるのはどう考えても違うのではないだろうか――。

 ただ、私が祖母に似ているらしいというだけの話で?

 

「検討してもらうまでの数年が長いのであれば、高校卒業まで、せめて考えてほしいのう。3人のうちだれかでも結婚すれば、お嬢ちゃんは文字通り矢継の姓じゃ。無論、お嬢さんの父親の借金もチャラにしてやろう。まーちと形は違えど……政略結婚みたいに思ってもらってもいいじゃろうて」


それは、でも――。

  

「借金をチャラに――」


 甘い言葉に私は文字通り、心が揺れた。

 一夜にして借金を抱えてしまったお父さんが脳裏をよぎる。

 それも、金額は5000万。おいそれと返せる金額ではない。


「要するに、借金のカタに俺らの嫁にってことだよ。じいさんも人が悪いよね」

 

 後ろにいた色気のある男の子が口を挟む。

 

――そう、明け透けにいえばそういうことだ。

 結婚すれば、借金帳消しで……お父さんが、助かるかも――?

 

 そこは有り難いお話だ、けれども。

 

 でも、そんな、そんなのは……いいのだろうか。

 

 だって、こういうのって、そもそも私というより――むしろこの男の子たちの気持ちがあってこそなんじゃあーー。

 でも、政略結婚ってことでご両親も本人も納得済みなのだろうか……?

 と、私は思い出した。

 

「ところで、お父さんは……」

 

こんな大事な借金と婚約話を、お父さん抜きで話してはダメだろうな。

 

「脅して悪かった。お嬢さんの父親には、ひとまずワシの会社で働いてもらうことにした。それなりの金額での。そこで借金は少しずつ返済してもらう形になるじゃろうな。父親からの許可はもらっておるし、嬢さんの意向を考慮する、といわれておる。信じないなら電話してもよいぞ?」

 

 私は少し悩んだ末に、口を開いた。


「でも……考えた末にお互いに無理だと思ったら……? なんとか頑張って返します、ということもできますか……?」

 

「もちろん、その通りじゃ。婚約には、お互いの意思が大事だからのう? 全く要望無視というわけにはいかん。そのあたりの条件は契約書に記載しようかのぅ。それに、いいこともあるぞ。検討してもらう期間中は、生活費も学費も、ワシの家が負担じゃ。他に必要な費用があれば、全て負担しよう」

 

「が、学費も、生活費もですか!? でも、そんなの申し訳なさすぎて……」

「お嬢ちゃん、ワシは矢継グループの会長じゃぞ? 金なら唸るほどあるでの? ワシのワガママじゃで、この程度は出して当たり前じゃ。お嬢ちゃん、お父さんの借金を少しでも楽にさせるためにも――どうじゃ?」

「う……」

 

 甘い言葉に心が揺れる。

 ただの、検討で、いますぐでなくともいいのであれば。

 お父さんが借金に加え必要な生活費の捻出は大変だろう。

 なにより学費までタダはありがたい。

 もしこの話がダメだったら、将来的に働いて、きちんと返させてもらおうか……。

 

「申し訳ないですが、今は、そのご好意に甘えさせていただきたいです。お、お願いします……」

 

 私は今度こそ思い切り頭を下げた。

 この約束は、お父さんのために、少しは役立てるだろうか。

 

「では、契約完了じゃな。あとで書面を用意しよう。それぞれ長男のなぎ、お嬢さんと同じクラスで次男の亮、三男のいつきだ」

 

やはり、今朝見たあの3人の転校生たちだった。

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