第6話 出迎え

 さて、深い森からやっとこさ抜け出し、村への道に出たフォルスは、村を囲んでいる木の板で作られた壁にある、村に続く門の前にある篝火を遠目に見ながらあることについて悩んでいた。


「このまま帰って、ニュイのことどうやって説明するかなあ」


「どうしたマスター」


「いや、ニュイの姿を見て村の人たちがどう思うかって思ってな。村には色んな種族がいるし、仲良くできそうなら他所者も受け入れてくれるけど。ニュイは見た目が魔物とも言えないから、どう説明したもんかなあって」


 などと悩んでいると、ニュイはぶら下げていたフォレストベアを地面に置いて足を止めた。


 その行動に、ニュイを怒らせてしまったかと焦って「いや、ニュイの見た目が怖いとかそんな事を言ってるんじゃないぞ?」と、身振り手振りを交えて言い訳をする。


 しかし、そんなフォルスの言葉を一笑に伏すと、ニュイは身体中から白く光る粒子を放出。

 自分の身を包んだ。


 光に目が眩み、ギュッと目を閉じるフォルス。

 その光がおさまり、目を開いたフォルスだったが、その視線の先には機竜であるニュイの姿はなく、村でも数頭飼われている黒い体毛のただの青鹿毛馬が佇んでいた。


「え? ニュイ?」


「私以外に誰がいるというのだ。さあどうだマスター、これで魔物と間違えられる事もあるまい」


「変身、出来るのか? 出来ないって言ってなかったか?」


 突然現れたニュイの声で話す馬を触るが、その触り心地は村で世話をしたことがある馬たちの触り心地となんら遜色が無かった。

 肉感や、毛並みなどはむしろ村の馬より上質なように感じられる。


「これは厳密には変身ではなくてな、異相空間内にナノマシンで作り上げた質量を持った仮想の身体マテリアルボディ。それに私の核を移植して顕現している。そうだな、どちらかと言えば"乗り換え"が正しい」

 

「それが出来るってことは! 俺の好みの女の子になることも出来るって、ことか⁉︎」


「おやおや? 私のマスターは人形に欲情するような変態なのかな?」


「……まあ、好きな見た目で、触り心地も人間で、声も好みなら、欲情するだろ」


「クハ! 馬鹿正直なマスターめ。まあ今はこのままで我慢するんだな」


 フォルスの答えを馬の姿のまま笑い飛ばすと、ニュイは自分の体の後ろにわざと粗末に見える荷車を作り出す。


 そして馬の体から竜形態の時の翼を生やしてフォレストベアを突き刺すと、その荷台に乗せて自分の体と荷車を新たに生成したハーネスで繋いだ。


「まあこんなところかな? どうだマスター。完璧な偽装だろう?」


「あ、ああまあ。でも馬の数ってみんな把握してるし、急に一頭増えたらそれはそれでおかしいっていうかなんていうか」


「言いわけ作りは人間のお得意な仕事だ。私は現状でやれるだけはやってやった。あとはせいぜい頑張るんだなマスター」


「頑張れ頑張れって言ってくんね?」


「激励とは何度も繰り返すものではないよ」


「へいへい。そんじゃあまあ、ちょっと言い訳を考えますかねえ」


 ニュイの素っ気ない答えにため息をつくと、フォルスは村の方に向かって再び歩き始めた。

 その後ろを馬の姿をしたニュイがパッカパッカと蹄鉄を踏み鳴らしながらついていく。


(確かマスターの好みは、黒髪長髪で身長は同じくらい、体型の好みは胸は普通で、細身の少女だったな。普通の胸、平均値ということか? 統計値が出せんから分からんな。まあ、大き過ぎず、小さ過ぎずということだろう。作っておいてやるか。人に紛れて暮らすなら使うタイミングはあるだろうし、使い勝手もありそうだ)


 そんなことを思考しながら、ニュイは異相、別次元でフォルスが求める少女の体を作り始めた。

 そこからしばらく歩いていると、フォルスとニュイは村に到着する。


「フォルス⁉︎ お前どこ行ってたんだ! みんな探してたんだぞ!」


 村に入るための門の前で番をしていたのは、フォルスが朝村を出る際にも挨拶をした源流に狼の血を持つ獣人の男性だった。


 人間寄りの獣人ではなく、獣がそのまま立ち上がったような獣よりの獣人族の男はフォルスの姿を見て叫んだ。


 その声に、夜景にあたっていた数人の中年男性や青年男性がその場に集まってくる。


「それにお前、それ」


「あ〜。この馬は——」


「フォレストベアじゃないか! おいおいお手柄だなフォルス! どうやってこんな化け物倒したんだよ。それに綺麗に血抜きまで、おい誰か! 村長呼んできてくれ! とんでもない大物をフォルスが獲ってきたってな!」

 

 門番の獣人族の男性の言葉で、夜景にあたっていた青年が駆けていった。


 みんな荷台のフォレストベアの死骸に夢中で、そのフォレストベアを乗せた荷台を引っ張ってきた馬の姿をしたニュイの事など気にも止めていない。


 これを好機と見たか、フォルスは村の中に入ると「ちょっと馬に水をやってきます」と、荷台からハーネスを外して、出来るだけ怪しまれないようにゆっくりと歩いて、ニュイとその場を離れていくのだった。

 

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