第37話 姫野凜々花
一夜明けたその日、寮に来訪してきた女性はとんでもない美人だった。
高いピンヒールに明るい栗色の艶やかな髪がウェーブをかけ、緩やかに伸びている。着用しているドレープドレスは眩しいほどの白さで、大きなサテンのリボンが添えられていた。
その来訪者は霧崎とマネージャーとリビングで話をして、仲良く談笑しているようだ。
「……うわー、めちゃくちゃスタイル良い……誰ですか、あれ」
楓は、ちらちらと来訪者を遠くから眺めていた。輝かんばかりの美貌は目を離せない。
「知らないのか!? あの人、アイドルから女優になった有名人なのに。いっておくけど、彼女――姫野
なんと名前まで華やかなのか、と楓が思う横で淳史はつぶやく。
「……そういう目でみてるんじゃないです」
「んん?でも、すごく羨ましそうな視線だったけど?」
「それは間違いありませんが……って霧崎さんのファンだから無駄ってどういう――」
――もしや、もう淳史は彼女を口説いたのだろうか、そんなことを考え楓は言葉を呑みこんだ。じっとみつめる視線に気づき、淳史は首を振った。
「いや、違う。大体の女性は確かに好みだけど……、うちのマネージャーと姫野凜々花だけはちょっとその性格もあって、マジで俺の好みじゃない。むしろどっちもピンヒールで蹴り殺されそうで……怖い」
「でもあのスタイルと美貌で完璧ですよ?いいなあ……」
胸は豊満で、細く長い脚。なびく髪は艶やかで立ち姿も美しい。女優、という職業を備えてるだけありその質の良さがある。サラシを巻く必要あるかなあ、というくらい控えめな胸に手を当てた。率直にいえば、オーバーサイズのTシャツを着ていれば、要らないくらいだ。
「それは……純粋に胸がある方がいいってことか?」
「いえ、なんというか。ないよりかは、あった方がいいなー? という願望がちょっと……。そう思いません?」
「人によらない? っていうか、問題はそこじゃないよね」
楓にそう返したのは蒼汰だ。いつの間にか楓たちの真後ろにきていたようで楓は振り返る。
「どういう意味ですか?」
「霧崎さん、そもそもあの人苦手だし。断っていたのに共演すると人気が出るから、ってマネージャーに無理やり仕事をあてられたっぽいね」
「苦手、ってなんで?」
「……まあ、そのうちにわかるかも」
そして、いつの間にか会談は終わったらしい。
横目でそっと見ると、女優さんに鼻で笑われてしまった。
「……なにか、しましたっけ……?」
「……気にするな。あの人、霧崎さん以外には、基本ああだから」
淳史に返され、楓は頷いた。
「それもまた、振り切ってますね。素晴らしいほどに」
好き嫌いが明確のようで、サバサバとしている性格なのだろうか。振り切っていればかえって、そこも彼女の魅力のひとつであろう。そう思っていると、 「――あいつか」と真横から声が聞こえた。声の方を向くと、霧崎がいつのまにやら隣に立っていた。淳史がちらりと視線を投げながら口を開く。
「ご愁傷さまです」
「あの女は苦手だ。が、仕事じゃ仕方ないがな」
目を瞑りそうぼやき、楓も霧崎のことを考える。確かに、姫野も霧崎も謎が多い人だ。淳史だけでなく、好意を向けられている霧崎まで苦手とは意外に思える。じっと顔をみている楓の視線を感じ取ったのか、霧崎は楓を見やった。
「それはともかく東野、ちょっと俺の部屋に来い。お前に頼みたいことがある」
「頼みたいこと?なんです?」
「次回のコンサートの件でな、あとで話す。あの女――……姫野も関係している件だ」
そう声をかけられ、楓は「わかりました」と小さく頷いた。
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