接近
その時、僕に背後で微かな物音がした振り返ると、屋上の影に誰かが立っている
いや
それは「誰か」ではない
影は人の形を模しているが、その輪郭はぼやけ、アメーバのように曖昧だった
賢司はゆっくりと振り返り、その存在に目を向けた、彼もまた言葉を失っているらしい
影は音もなくこちらを見つめていた、まるで、二人の同行を観察しているようだった
僕は恐怖を殺して呼びかけた
「賢司、あれは...何だ?」
その瞬間僕は感じた、あのアメーバは「何か」を見ている
そして、その「何か」は僕ら自身の中にある秘密を暴き出そうとしているのではないのだろうか?
賢司は冷静を装いながらも緊張の色を隠しきれない声で言った
「和葬君、追うよ」
僕はその言葉が無ければ我に帰るのに相当な時間を要したであろう
そして僕は咄嗟に足を動かした...だが
影は既に消えている、まるで霧が晴れたこのように、一瞬にしてそこに居たはずの存在がかき消えてしまった
「消えている...影は既に消えているよ賢司」
賢司は眉をひそめ「あれは人間ではないようだ、それであのアメーバと関係を持っているに違いないようだ」と言い切った
彼が冷静でいる事は僕にとって唯一の救いだ
もし賢司まで動揺していたなら、僕は僕を保てていなかったかもしれない
僕らはマンションの屋上を離れ、調査を続ける事にした
影が消えた場所には何の手がかりも残されてはいなかったが、アメーバがただの無害な存在でない事は明白だった
僕は、アメーバが低空を漂う場所と、そこで起きている異常な出来事の関連性に警戒心を感じる
事件の被害者は皆、アメーバが上空にいるときに何かしらの異常を感じ、そして自分の秘密が暴かれているのだ
「一つの可能性がある」賢司が言った
「アメーバは情報を集めている。人々の心の中にある隠された記憶や感情を、何らかの方法で引き出しているのかもしれない」
僕はその考えに背筋が凍った。自分の心の中の秘密までが、アメーバに覗かれているのだろうか?その思考が芽生えた瞬間、胸の奥底に重苦しい恐怖が押し寄せてきた
数日後、僕は夜遅くまで事務所で資料を整理していた。賢司は一人で調査に出かけており、僕は事務所に残って報告書をまとめていた。外は風が強く、窓越しにアメーバがぼんやりと見える
その姿は相変わらず無気味で、僕の事を圧迫するかのようだった
突然、事務所の電話が鳴り響いた
驚いた僕は受話器を手に取る
「もしもし?」
しかし、返事はなかった。代わりに聞こえてきたのは、かすかなノイズと、遠くで囁くような声
「お前も…見られている……」
その声は微かだったが、確かに聞こえた。僕は恐怖に凍りついた
「誰だ!?」叫んだが、応答はない
電話は途切れ、和葬は震える手で受話器を置いた
その瞬間、事務所の窓がガタガタと音を立て、何かが外を通り過ぎる影が見えた
僕は恐る恐る窓に近づき、外を覗いた
そこには、アメーバがこれまでにないほど低空を漂い、まるで事務所を監視しているかのように見えていた
僕の心臓は早鐘のように打ち鳴らされる
今まで以上にアメーバが自分を「見ている」感覚が強まっていた。僕はその場から離れたい衝動に駆られ、足早に事務所を後にした。外に出ると、夜の風が冷たく肌に刺さるようだった。
「賢司、どこにいるんだ……」賢司に連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらない。不安と恐怖が募る中、僕は賢司を探し始めた。
街に出ると、アメーバは再び空高く舞い上がっていたが、僕の心は依然として重苦しい感覚に支配されていた。街の人々はいつもと変わらず歩いていたが、僕にはそのすべてがどこか異質に見えたんだ。まるで、全員が何かに監視され、操られているような――そんな錯覚に襲われた。
そして、ふと僕は気づいた。街中に、影が増えている。
あの不明瞭な人影が、いたるところに現れ始めていた。それらはただ立っているだけでなく、まるで僕の事を見ているようだった。
「これは……何だ……?」
僕の中に強烈な不安が広がる。あの影たち、アメーバ、そして僕の感じる圧迫感は、全て繋がっているのか?そして、賢司はどこに消えたんだ?
街灯の下でふと立ち止まった、再び影の群れが僕に向かって迫ってくるのを感じた。
その瞬間、
僕はある恐ろしい考えに至る――もしかしたら、自分も既に「見られている」側なのではないか?
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