異常性

ある日、その日の鎌谷氏宅の調査を終え、僕は自宅にて夜空を眺めていた

「S-1...」

そこには突如として現れ最早誰一人として疑問を持たぬ謎が今もまだぼんやりと浮かんでいた

何故か今夜は一層不気味さが感じられる

ぼんやりと夜空を見上げていると僕の電話が鳴った

「こんな夜中に...誰だ?」

賢司からだ

「もしもし、和葬です、どうしたんだいこんな深夜に」

「やあ和葬君、すぐに事務所へ来たまえ、どうやらあのアメーバ、S-1は本当に何かしているかもしれない」

短い言葉と共にプツりと電話は切れた


僕は動悸が高鳴るのを抑えつつ急いで探偵事務所へ向かった

賢司の声にはいつもと違う緊迫感があった


あのアメーバが何かを「している」

それが一体どういった事なのか、僕は理解できなかった


事務所に着いた、賢司はソファに腰掛け、葉巻を吸いながらデスク上にいくつかの書類を広げていた

彼はいつも通り落ち着いているが瞳には一抹の焦燥感が見て取れた

「一体全体どういうことなんだい?こんな深夜に呼び出したりして...」

彼に近づくと彼は書類の一部を僕に手渡してきた

「これを見てくれ、ここ数日の事件についての報告書だ」

渡された書類を覗き込んだ


そこにはいくつもの不可解な出来事が列挙されていた

秘密が暴露され破滅していった人達、理由もなく姿を消す人々、突如として己の過去に囚われたように混乱する人達、それらは全てアメーバが低空飛行だと感じられた場、その付近で起きていた

「全く馬鹿げた話が現実味を帯びてきた、鳥肌が治らないよ」

賢司は落ち着いた声音で続けた

「おそらくだが、あのアメーバはただの自然現象ではないようだ」

僕は無言で頷く、そして彼は一つの結論を見ていた

「アメーバ、S-1がなんらかのの方法で人々の情報に関与している」

「それは何故か、どうやってなのかが僕らには掴めないんだね?」

「そうだ」

「それで?どうするんですか?賢司探偵」

「久々に心踊る事件に直面できたようだ」

賢司はニタニタしている、それを見て僕は少し安堵をした

「次はもっと直接的に確かめる。というのはアメーバが人々に何をしているのかを...だ」

僕は目を見張る

「直接...?どうやってさ」

賢司は窓の外を眺める、僕も視線を窓の外に向けた

夜空の背景にアメーバがぼんやりと浮かんでいた

その巨大な姿は威厳を感じさせるような、まるで街全体を覆うようでとても不気味だ

「アメーバが低空を漂っている場所がある、それも特定の人間の生活圏の上空でだ。僕らでそこに行く、何かがわかるかもしれない」

僕は息を呑んだ、アメーバに接近してその実態が掴めると言うのだろうか?

それに実態がわからないからこそ危険だ

だけどそれしか無い、それ以外に手がかりを掴む方法は無さそうだ


僕らは準備を整え、アメーバが低空飛行を繰り返していたらしい場所......

鎌谷氏のマンションの屋上へと向かった

深夜という事もあり空気は冷たい


僕の胸には妙な緊張感が漂っていた


マンションの屋上へと辿り着き、僕らはじっと上空を見上げた


龍の形を模したアメーバの集合体、正確にはアメーバでは無いのだろうが


それは光を放ちながら、僕らの頭上をゆらゆら揺れていた

その距離はあまりにも近く、触れられるほどだった


「近いな」

僕は息を呑む

賢司も無言でアメーバを凝視している


突然、アメーバの姿が微かに変形し、まるで脈打つかのように揺らめいた

それは一瞬の出来事だったが僕の目には明確に捉えられた

「今動かなかった?」

賢司は何も答えない、ただ黙って観察を続けていた


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