第41話リボルバー(神官長視点)

 ラピ、癒しの加護を持つ聖女。

 我々が、彼女の出現にどれほど期待し、そしてどんなにその美しさに想い焦がれたことか。


「く、くそ…こんな…武器を…隠していたなんて…」

「これは遥か北の国からわざわざ取り寄せた物。あちらは随分と物騒でな。魔物がいなくなった今、我が国も平和ボケしていてはいつか寝首をかかれるぞい」


 ヒューヒューと鳴る呼吸は、命の灯火が残りわずかであることを知らせている。

 寄る年波で標準が定まらぬほど震える手。それでも怯えた目の瞳孔は、大きく開いた。


「もう喋らんでいい。今すぐ楽にしてやろう」

「や…助け、て…家族が…俺を待っている…家族がいるんだ…だから」

「ほれ」


 ガン!!!!!


「ふむ、やはり回転拳銃というのは小型で扱いやすいの」


 命の蝋燭が燃え尽きた騎士の、その手のひらから溢れた小さな紙片に目をくれた。

 それは絵師にでも描かせたのだろう、今まさに頭を撃ち抜いた男の家族が仲睦まじく肩を寄せ合っている絵だった。


 かちり、

 ガン!!!!


 紙片には大きく穴が開き、黒く焦げて床にこびりついた。


「恨むなら、国王と王太子、それから勇者を恨むのだな」


 これで王国の偵察部隊を制圧し、国に対して宣戦布告を取る格好となった。

 一仕事終えた神職の男達が、物騒な物を片手に跪く。


「神官長様、ご報告申し上げます」

「全て片付いたのか?ならばすぐに武器を整備して…」

「それが、件の勇者がこちらにら向かっているようです」

「ほお…一気に来ず、面倒なことだな。それにしても随分と到着が早すぎる。よもや鼠を取り逃がしたのではあるまいな…」

「お、仰る通りかと…」

「いずれにせよ返り討ちにすればよい」

「…ですが、ワカナチも勇者と行動を共にしているとのことです」


 その言葉に一気に激昂して、床に向けて一発お見舞いした。


 ガン!!!!


 ただ弾を減らすだけの無意味な行為だ。分かっている。だが突き上がるような衝動が押さえられなかった。

 控えていた神職達の息を飲む音が聞こえてくる。


「あの恩知らずが!…惜しく思わず、リーリエを殺しておけば良かった!!!」

「いかがしますか?もう間も無く到着するとのことです」


 カチャカチャン……


 弾倉に弾を一弾ずつ詰めていく。意外にも、この行為は心を冷静にさせてくれる。


「…構わん、殺せ」

「御意」


 神殿を覆う樹が騒ぎ始めた。


「もう来たか。次からもっと早く報告するよう努めるのじゃな」

「申し訳ございません」


 ワカナチ、お前と会うのは三年ぶりだろうか。


「回転式機関銃を一斉砲撃させますか?」

「…いや、中まで招き入れろ」

「ですが、神殿内には王国の偵察部隊の骸が多く転がっております」

「良い。招き入れたら、決して逃げ帰れないよう、神殿の扉を封鎖しろ。ここの扉は法力でしか開かん」


 ごくり、と生唾を飲み込んだ神官は、頭を下げると駆け出して行った。


「さて。ワカナチ、お前が引き連れて来たと言う災いは本当にあるものなのかの」


 ワカナチは異教徒だ。そもそもこの国において異端である。

 神殿は捨て子を多く受け入れてきた。その多くは神職に就く。親さえ捨てた我が身を受け入れてくれた、そういう思いなのだろう、率先して神殿を離れようという者は少ないのだ。

 けれどあれは、鬱屈とした何かを心の奥底に秘めている。それがどうやら一所に留まることを良しとしないらしい。掴みどころがない。


「お前がそのつもりなら、こちらも迎え撃つしかないの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る