第3話回復師なしで切り抜ける作戦
神殿に向かうにはいくつかの山々と森を抜け、最後に魔窟を通らねばならない。
今日一日で遭遇したモンスターは十体を超え、流石に疲労が溜まってきた。
しかし驚くことに、知り合って間もないというのに、三人とはまるでいくつもの死線を潜り抜け運命を共にしてきた戦友のように息がぴったり合った。戦闘する度に心が踊る経験は初めてだ。
僅かな音と共にディエゴが放った矢が、魔物の眼を的確に貫いた。
「よっしゃ!!おい!レント、そっち行ったぞ!」
「分かっている!うおおお!」
炎に燃える尾を、槍で地面突き刺し抑えたのはレントだ。
「ファイヤーレイ!!」
フリックが放った炎が、ドラゴンに大ダメージを与えることに成功する。
地鳴りのような叫び声が轟く。
「うりゃあああ!!!!」
私は自慢の跳躍で天高く跳び、振り下ろした剣は、頭からドラゴンを真っ二つにした。
ズウウゥゥン…
ドラゴンが倒れ込むと、地震の様に大地が揺れる。
それを見届けると、私たちもそれぞれ息を上げて、仰向けに倒れ込んだ。
「ぜえ、やるじゃねぇか、お嬢様」
「そ、そっちこそ…はあ、はあ」
ディエゴが拳を私に向けた。ニッと笑って拳を突き合わせる。
「みんな、怪我はない?」
「俺は大丈夫だ」
「俺も今のところ」
「……」
「フリック?貴方は?」
見れば、右腕から血が流れていた。
「血が出てるわ、見せて」
「いい。かすり傷だ」
「駄目よ。これから長いんだから、きちんと治さないと」
私は携帯していたポーチから、小瓶を出した。
「おい、これくらいのことでいちいちポーションなんて使ってたら、すぐに底が尽きるぞ!」
「良いから!じっとして!」
袖を捲ると、かなり深い切り傷の様だ。
「どうして言わないの?」
「ちっ…お節介だな」
「良いわよ、お節介で」
ポーションを振りかけると、傷がみるみるうちに回復していく。
「よかった、ポーションで治せる怪我で」
ほっと胸を撫で下ろすと、フリックはそっぽを向いた。
聞こえるか聞こえないかという声で、
「…おう、ありがと」
とだけ言った。
「素直でよろしいわ。ねえ、みんな。そろそろご飯にする?」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ドラゴンの肉って硬いっていうけど、めちゃめちゃうまい!メイリーちゃん、さすがだ!」
「意外でしょう?腿の部分は柔らかいの。ご馳走様」
私は再び立ち上がると、まだたくさん残っているドラゴンの肉を切り取って、塩を塗り込んだ。
レントが覗き込んでくる。
「何しているんだ?」
「あそこに洞窟があるでしょう?」
「ああ、アイテムを期待したけど、結局何もなかったな。代わりに魔物がいる形跡もなかったが」
「お肉を吊るして置いて、干し肉にしたらどうかしら。携帯食になるわ」
これにはフリックが異を呈した。
「干し肉ができるまでに、魔物に食われてしまうんじゃないのか?」
「そこはフリックさん!お願いします!」
ぺこりと頭を下げると、フリックは少し面食らった顔で私を見つめた。
「作戦はこうよ」
今持っている回復アイテムを可能な限り洞窟に詰め込み、フリックにカバードの魔法をかけてもらって、魔物から洞窟の存在を隠す。
以降、この洞窟はチェックポイント1とする。
大変だけれど、ここまでの魔物はあらかた倒したはずだから、一度王都に戻り、もう一度ポーションなどを、今度は多めに調達する。
また森に入り、チェックポイント2になり得る場所を探しながら進んでいく。
チェックポイント2が見つかったら、チェックポイント1同様可能な限りアイテムを詰め込み、カバードをかける。
今度はチェックポイント1に戻り、全てのアイテムと食料を持ち去って魔法を解除する。
次はチェックポイント3となり得る場所を探しながら進む。
町や村に辿り着いたら、また可能な限りアイテムを調達する。
以降これを繰り返す。
「どうかしら?これから森の中で手に入る貴重なアイテムもその様にすれば大事に使えるじゃない?」
レントもディエゴも面倒くさそうに「げぇーっ」と言って明らかな嫌悪を示した。
けれど、フリックだけは違った。
「僕は賛成だ。なにせ回復師がいないんだから、そうせざるを得ないだろう。積極的に死にたいのなら別だが」
抗議した二人は見合って、仕方ないと肩を落とした。
「決まりね!そうと決まったら先ずは、ドラゴンの腿の肉をたくさん切って吊るすわよ!」
「うわぁーー!こんなことしてて、本当に辿り着くのか!?」
「気が遠くなりそうだ…メイリーちゃん…」
「飢え死にしたいなら、どうぞ?この先安全に食べられるモンスターばかりじゃないわよ?それとも運良く兎さんでも出てくるのを待ってみる?」
「へーへー!ったく、分かったよ!勇者サマ!」
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