第2話断髪式
翌日、改めて王城に呼ばれた私は、勇者としての激戦に備えて、特別に断髪式を行うこととなった。
ポニーテールを解いて、ただそうせねばならぬから伸ばしていたに過ぎない髪を、短髪に切り揃える。
勇者のテストの時の様な冷やかしなど一切ない、咳払いさえ許されない様な厳かな雰囲気だ。
ただ、しゃきしゃきと軽快な鋏の音だけが場を支配している。
私は膝をついて目を閉じ、胸の前で拳を握った。国王への忠誠と国の平和を背負う覚悟をしっかり刻み込む。
「勇者・メイリー、目を開けなさい」
「はい」
「うむ、良い目をしているな。…こちらへ」
これから始まる冒険に、加護を与えるため国王は私の肩に剣を置いた。
「メイリー・ミュークレイに神の加護があらんことを」
パーティメンバーに選ばれたその他の三人も同様、順番に肩に剣が置かれていく。
大きな槍を携えている大男の、レント・ステファン、ちょっとチャラそうな弓使いのディエゴ・リーリオと続く。
そして最後は
「フリック・ドヴァンニに神の加護が…あらんことを」
線は細い。けれど、戦うための筋肉が服の上からでも明瞭にわかる。それなのに、彼はどうやら魔法使いの様だ。
(って、あれ?)
ディエゴという男がキョロキョロしているので、きっと私と同じことを思ったのだろう。恐る恐る挙手した。
「恐れながら国王陛下」
「なにかね?」
「回復師はいらっしゃらないのでしょうか?」
国王は「ふむ」と言ってため息をついた。
「数が少ない上にな、ほとんど出払っておる」
ディエゴとレントは堪らないといった風に抗議した。
「そ、それはあまりにも…」
「帰りは癒しの加護を得た聖女がおる。安心しなさい」
(神殿に辿り着くまで、死なずに切り抜けないといけないということ!?)
思わず苦笑すると、フリックという男と目が合った。
ぺこりと頭を下げたが、無言で前を向かれてしまった。
(ああ、これは…思った以上に前途多難だわ!)
✳︎ ✳︎ ✳︎
いざ王城を出て、ショップで旅に必要なものを品定めしていると、大男がいきなり肩を組んできた。
太い腕がのしかかって、重たい。
「おい、メイリーだっけ?お前公爵令嬢なんだってな。なんだってフェンネルは、お前なんかを選んだのかわからないが、ただのお荷物だ。逃げて帰るなら今のうちだぞ」
「人を見た目で判断しないで。レント、だっけ?手合わせでもしていく?」
「なんだと?表出ろ!」
私の腕を掴んだレントを制したのはフリックという男だった。
「仲間内で争ってどうする。森に入れば、すぐに魔物と戦うことになるんだ、嫌でもメンバーの実力を知ることになる」
「くそ…わかったよ」
レントは意外にもあっさりと私の腕を離した。
「そうね。ありがとう、フリック。私がしっかりしなければならないのに…」
「別に。だが、僕はお前が誰だろうと忖度などしない。自分の身は自分で守れるんだろう?」
「当たり前だわ。でも私が守るべきものは自分自身ではなく聖女様よ。自分の身を挺してでも」
「へえ、それはご立派だな」
嫌な感じの笑みが返ってくる。
フリックと睨み合っていると、ディエゴが何やら悪絡みしてきた。
「なんだなんだ、二人とも。喧嘩か?…ふぅん」
それからなぜか、私を上から下までじろじろ見ると、
「うーん、メイリーちゃん、短い髪もよく似合うね!」
と言った。
「ああ、そう?ありがとう…」
なんだか拍子抜けしてしまう。
大丈夫なのか、このメンバーは。
(でもきっとみんな私に対して同じことを思っているんだろうな。足手纏いだって)
不安を抑え込む様に、勇者・フェンネルの剣をしっかり握りしめた。
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