聖女を守る勇者(女)に選ばれました。〜無事に城に送り届けたのに、王太子が選んだのは、なぜか聖女じゃなくて私でした〜

あずあず

第1話この度、勇者に選ばれまして

 公爵家の五女として産まれた私、メイリー・ミュークレイは、七人兄弟の末っ子だ。

 兄弟達とは年齢が離れており、久しぶりに子どもができた両親からはかなり溺愛されて育った。

 お父様が率いる騎士団の訓練に、毎日遊びで参加しても怒られなかったし、そのうち騎士達との手合わせで、大の男をバッタバッタと倒していっても怒られなかったので、私はメキメキ強くなっていった。

 両親は五人も女の子がいるので、ただただ自由に温かい目で、ほのぼのと私を見守っていた。


 公爵であり、騎士団長の父は、老いてもなお誰も太刀打ちできぬほどの強さで、騎士達から「鬼」と恐れられていたが、対して私には甘々の激甘だった。


「はっはっは!子どもは元気が一番、お転婆結構!そのうち父さんもメイリーに負かされてしまうかな?はっはっは!」

 という豪快なことをよく言っていた。私は強く優しい父のようになりたくて、更に稽古にのめり込んでいった。


 そんな17歳の折。騎士達が立ち話をしているのを偶然聞いてしまった。


「おい、聞いたか?聖女様を神殿までお迎えし、シオン王太子殿下の婚約者として城まで送り届ける勇者を探しているんだと」

「勇者ぁ?そもそも神殿までかなり入り組んだ魔窟を通らないといけないだろ…。そんなもん大勢で乗り込んでった方が手っ取り早いだろうに」

「まあなぁ。だが、そうすると王都の警備が手薄になるからじゃないか?それによ、勇者に選ばれれば聖女様とお供できるんだぜ?」

「確かに悪くない話だ。それに、勇者として名を上げれば世界の英雄として名を残せるし…」

「だろ!?男の浪漫だよな」

「で、その勇者ってのはどうやって探すんだ?」

「王城の地下深くに、伝説の勇者・フェンネルが突き立てた剣を抜いた者が勇者なんだってよ。我こそはという者は、来月、七の日に、王城でエントリーできるらしい」


 勇者・フェンネル!それは私が憧れてやまない伝説の英雄の名だ。

 私は震えた。男の浪漫ですって?男だけの浪漫じゃない、私だって…。そして心から思った。


(勇者の試練!?なにそれ!かっこいい!!受けてみたい!)


「大丈夫、兜を被れば女だってバレないわ!」


 それからの一ヶ月間、私はいつも以上に鍛錬に熱を上げた。





✳︎ ✳︎ ✳︎






 そして一ヶ月後の七の日、こっそり屋敷を抜け出して王城に辿り着くと、既に長い行列ができていた。そこには、見慣れた騎士達の顔がいくつもある。


(どうかバレませんように)


 エントリーシートを提出する。受け取った衛兵の一人が読みにくそうに顔を顰めた。女の字だと知られぬよう、わざと左手で書いたのだ。


「トレッティーノ・マルコリーニ。よし、この札を持って並べ」


 長男の名前と三男の名前を借用させてもらった。心の中で(ごめんね…)と手を合わせる。

 私に割り振られたのは百二十五番だった。

 暫くして、後ろに並んだ百二十六番が言った。


「よお!なんだお前、兜なんて被って。気合い入ってるけどよ、お前ちゃんと規約読んだのか?トーナメントじゃないんだぞ、ただ剣を引き抜くだけ。わざわざそんな大層な装備はかえって邪魔だぞ」

「……」


(しょうがないじゃない!外したら私が公爵家の令嬢だってバレちゃうんだから!)


 けれど喋れば女だとバレてしまうので、とにかく黙した。無視を決め込んでいるのに、お構いなしに百二十六番は喋り続けた。


「お、早速始まったみたいだぞ。あー、一番はダメだったか…」


(う、うるさい)


「五番強そうだな!あいつ早速抜いちゃうんじゃないか?……っあー、五番もダメだ」


「五十一番!」「次、五十二番!」とどんどん行列は進んで行った。

「おい、百三番、早く退きなさい!」

「嘘だ!お、俺が勇者だ!抜けないなんて…!!ふ、ふんぬ!!!!はあ、はあ…」


 いつまでも居座り続けて、大男の百四番が百三番を投げ飛ばした。

「おおーー!」と歓声が上がり、百四番への期待が高まる。


 けれど…

「次、百五番!」


 百四番はすっかり背中を丸くして、その場を後にした。そして、遂に順番は私に巡った。


「次、百二十五番!」


 すう、はあ、と息を整えた。

 後ろからせせら笑う声が聞こえてくる。


「おいおい、随分ひょろひょろのチビだなあ!」

「あんなの、やらなくたって無理だって分かるだろ!」

「おーい!さっさと終わらせろー!」

 ゲラゲラゲラと下品な笑い声は、私が柄を握った瞬間、静まり返った。

 剣の周りに黄金の光が集まっていく。

 大した力も必要なく、するりと剣が抜けた。

 それはまるで剣の方から、私に吸い付いてくるようでもあった。


 誰もが目を丸くして私を見ている。審判役でさえ、息を呑んで、言葉に詰まってしまった。

 

「…ひゃ、百二十五番!伝説の剣を引き抜きましたァァァァアアア!!」

「え、私?本当に!?」

「やったな!百二十五番!やっぱりお前はなんか違うなーって思ってたよ!」

「わ!」


 百二十六番が飛びついてきて、兜を取られてしまった。


「え?」「え?」「は?」

「あっ……」

「お、女アアァァァ!!!!??」

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