第1話 瓜二つ
「ーー桔梗よ。お前の才は他に類を見ぬほど優れている。伊達に無名の家系が私に陰陽師にしてくれと連れてくるわけだ」
「お師匠様のおかげで、僕は無事にこうやって元服を迎えられます。大変感謝しております、僕も父も母も」
桔梗はそう笑い、師を仰ぎ見る。
「桔梗。両親がお前を私のところに連れて来なくとも、私が迎えに行っていたさ」
「それはなぜですか?」
「星が、動いたからさ」
「何を示す星ですか?」
「帝、だよ。桔梗、お前は帝と交わる運命にある」
「帝と、交わる……?この、僕が?」
「いずれ時が来ればわかるさ。また内裏で会おう。くれぐれも秘密がバレぬように気をつけるようにしなさい」
「はい!ありがとうございます、お師匠様」
師は桔梗の元を去っていく。
桔梗の秘密。それは“女”であるということ。
強大な霊力を持ち生まれてきた桔梗は貴族の端くれだった家の期待を背負い、“男”として育てられた。有名な陰陽師、安倍晴明のもとに弟子入りし、陰陽師になるというのが桔梗の生きる道だった。
「ーー見つけましたよ、姫様!まぁ、なんて格好をして!まるで殿方ではありませんか!」
「え?」
眉をつりあげた女性が桔梗を捕まえる。
話が見えずに固まっていると背後から声が聞こえてくる。
“いいから一緒に逃げるぞ”と。
手を引かれて、走り出す。
「君、名前は?」
「僕はっ、大江桔梗っ!」
「私は、藤原定子!」
出会った彼女と桔梗はまるで瓜二つだった。
恋ひぬ涙の色ぞゆかしき 彩歌 @ayaka1016
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