第2話 アナヤ

 昨年の卒業生は優秀だった。


 今年の卒業生も優秀だろう。


 ただ一人、ジャック・アナヤを除いては。


 アカデミーは3月20日に卒業式を終えた。


 今日は3月22日。


 まだ、アナヤは補習授業を受けている。


 今日を入れて後二日補習を受ければ卒業を認められるのだ。


 ずっと、彼に付いて指導をしてくれているのがメアリー・バレッタ先生でアナヤの事はなんだか手は焼かすけど憎めないでいた。


 アカデミーのコンテナの運動場からさらに西側には直ぐに頭上の建築物へと延びている直径1メートルはあるワイヤーが巨大な滑車に繋がれており、そのワイヤーには人を乗せる為というよりも荷物を乗せる為のダンプカーのサイズくらいあるエレベーターのように見えた。


 それがエレベーターだと言う事は上空の対面にあたるマントルの部分から中空の部分を通過し、次第に速度を落としこちら側の地上にゆっくりと着地した時明らかになった。


 エレベーターは東向きに扉がありその扉がゆっくりと開いた。


 暫くすると中からスーツ姿の紳士が一人姿を現した。


 見たところかなり年配で80は越えてそうに見える。


 そこに、アカデミーのコンテナから一人の中年男性が駆け寄って来た。


 慌てて走って来たのかハアハアと息を切らしている。


 「なんだね、そんなに慌てて。」


 老人は笑いかけた。


 その中年男性は息を整えながらやっと声が出せるようになり


 「理事長がいらっしゃるのをすぐさっき聞いたもので。」


 「フォッフォッフォッ。


ワシごときにご苦労さま。


まあ、落ち着き給え。」


 中年男性はアカデミーの教頭で、トーレス・ラスという。


 専門は理数系で年齢は55歳。


 結婚していて10歳になる娘が居る。


 老紳士は名をケレン・ウィズダムと言いアカデミーの初代理事長である。


 「今年も皆就職は決まったかな。」


 宇宙基地ダリアに産まれた子供達は特別な訓練を経て宇宙飛行士を始めありとあらゆる宇宙での仕事に付く。


 どの仕事に就くかはアカデミーの成績次第なのだがジャック・アナヤは何度も落第の危機に陥っていた。


 就職面談は優秀な成績の者から行われるのでアナヤは最後の方になる。


 当然、選択肢は限られ地味だったり危険だったりする仕事が彼を待っている。


 彼に与えられた仕事の選択肢は二つ。


 どちらも嫌なら留年である。


 しかし、留年すると翌年の仕事はさらに選択肢がなくなる。


 一つはデブリの管理者、もう一つはダリア外壁の点検修理の仕事だった。


 どちらも最も事故率が高い。

 彼はデブリの管理者を選んだ。




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