第58話 謝罪会見②

『まず、言っておかなければならんことがあります。私の孫、佐藤 豪は一ヶ月前にこの世を去っております――』


 そう話が始まり、死んだと言ったところで記者たちのざわつきがスピーカーから聞こえ、最初の数を遥かに越えるフラッシュの嵐が画面に映し出された。


 眩しさを感じさせない表情で話は続く。


『――励ましのお言葉、ありがたいのですが、豪には殺されても仕方がないほどの罪を犯しておりました』


 そこまで言った所で励ましの声が消え、あれほど炊かれていたフラッシュも鳴りをひそめてしまった。


 淡々と明かされる罪また罪。約十分ほどにまとめられているが、中身は軽犯罪から殺人教唆、そして殺人未遂と続いて、数名の殺害についてを話終えた。


 記者からの罵詈雑言が鳴り止まない中、立ち上がった佐藤家の現当主のお爺さんは――


『この場で佐藤家の当主を引退し、佐藤グループの会長も退陣いたします。本当にお騒がせして申し訳ありませんでした』


 そういって腰を90度に曲げて頭を下げた。その後、席に戻るが記者からは怒号のように質問が飛び交う中、司会者が記者たちをなだめ、謝罪会見を進めた。


 次は成瀬、聖一のお爺さんがマイクに向かって話を始めた。


「むちゃくちゃなのです」


「そうでしたのね。暴行傷害強姦窃盗強奪……それに当然のように殺人まで犯していたなんて」


「うん。俺は先に高橋さんから聞いていたんだけど、証拠を見せられるまで、とても信じられなかったよ」


 中には聖一に強姦されて、自殺したクラスメイトもいたのには驚きしかなかった。


 そうだよな、俺は聖一と二葉以外、クラスメイトの誰とも一言すら喋ったこともなかったし、名字さえも知らない人もいる。


 そんな状態で誰が減ったとか、誰が自殺したなんて情報は入ってこなかった。それが聖一に故意に作られたと、このとき教えてもらったくらいだ。


 成瀬のお爺さんも退陣の宣言をした後、頭を下げ、残るは山本先輩のお爺さんとなった。


 そしてマイクに向かい、話そうとしたときだ――


『お爺様! お止めください! そんなことをすれば山本家が終わってしまいます!』


 その声でカメラが山本先輩に向いて映し始めた。


『離しなさい! 私は山本家の次期当主となるものですよ! このようなこと許されて良いはずありません!』


 画面にはフラッシュの光で気付かれないかもしれないけれど、俺にははっきり見えた。


「危ない! 山本先輩が身体強化を使ったぞ! あ!」


 一瞬だった。羽交い締めにしていた黒服の人を投げ飛ばし、取り押さえようと三人のガードマンもあっという間に制圧してしまった。


『凛! 止めないか! まだこれ以上罪を重ねるつもりかね!』


『凛君。君たちはもう駄目なのだよ。諦めなさい』


『本当なら豪の敵討ちとなるだろうが、豪には失望したよ。だから凛君、君も罪を受け入れなさい』


『黙れクソ爺ども! 勝手なこと言わないで! なんなのよ! これまで上手く行ってたじゃない! 後ちょっとなのよ! なんで私の邪魔ばかりするのよ!』


 顔を真っ赤に染めて、立ち上がってきたガードマンの四人をまた殴り、蹴りを入れて弾き飛ばす。


『こうなったら知らないわよ!』


 ドレスの胸元から出したスマホに向かって――


『聞いてるわよね! 私が逃げ切るまでおもいっきり暴れなさい! 褒美は好きなものを好きなだけよ!』


 ――そう叫んだ瞬間、ドゴンと大きな音が会場のマイクから、俺たちが聞くスピーカーに届けられた。


『キヒヒヒヒヒヒヒ! 聞いたぞ山本先輩。覚悟しておけよ、ひいひい言わせてやっからよ! オラオラオラオラ! 勝手に撮ってんじゃねえ! 死ねや!』


「この声って聖一! 聖一が会場に来てる!?」


 聖一は二葉と場所も分かっていない所で意識不明のままだと高橋さんの調べた情報には載っていた。


 だから来れるわけない。まさかと思いながらも画面を凝視すると、――――いた。聖一だ。


 無くなった左腕は二の腕から先がロボットみたいな腕がついている。


 自由には動かせないようだけど、鉄の塊と同じだ。そんなので打撃を受けたらひとたまりもない。


「むちゃくちゃじゃな、あやつはどうやって意識を取り戻したのじゃ? 術を施したエルフィの勘違いかの?」


「のんきなこと言ってる場合じゃないでしょ! 高橋さん見てますか! 謝罪会見の会場で聖一が暴れています! すぐ向かわないと大変なことになりますよ!」


『任せたまえ! 少々飛ばしますから揺れますよ! しっかりと座席に座って、つかまっていてくださいね! 行きますよ!』


 大きなエンジン音が響き、ガクンと後方に引かれるような衝撃を受けた後、今度はUターンをしたのか横方向へ振られてしまうが座席につかまり、衝撃に耐えた。


 タマちゃんは転がっていたけど……。


「ひどい目にあったぞ。まったく、たかぴーは、後でキツーイ仕置きじゃな」


「タマちゃん。今のはタマちゃんが悪いのです。たかぴーは捕まってって言ってたのです」


「なんじゃと……ならば仕置きは許してやらねばならんか」


『十分でつきます。皆さんは装備をしておいてください、会見場には政府から派遣されたBランクの探索者が多数と、御三家からも所属のAランクの探索者が護衛についているはずですが、エルフィさんが起きないと言った聖一君が起きたと言うことは、万が一があるかもしれないので』


「分かりました。すぐに準備しておきます」


 高橋さんが研究所に手配してくれていた新品の武器、胸当てやブーツを装備する。


 その間も会見場全体を映すカメラに切り替わったモニターを見ているが、お爺さんたちは護衛らしき人に連れられ会見場から姿を消した。


「あ! 山本も逃げちゃうのです!」


 モニターの端に会見場から出ていく赤いドレスの山本先輩が、笑いながら悠々と出ていくのが見えた。

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