第57話 謝罪会見①
社務所の前から一瞬で視界が変わり、見渡すと朝日が登り始めたダンジョン前の広場だった。
あ、ここってスタンピードの時、タマちゃんに飛ばされた場所だ。でも今度はタマちゃんも――ダンジョンの外にいる。
メイド服のまま、深呼吸をして、『ぷはー。うむ。久方振りの外の空気は……まあこんなもんじゃな』と、うんうん頷いている。
一応父さんの獣魔だったと知るものをあざむく変装なんだけど、結構気に入ってるよね?
ミクと楽しそうに――
『ふむ、この格好をしている時はミクのことをご主人様と呼ぶのじゃな』
『そうそう! でもご主人様よりお嬢様かな?』
『ほほう。お嬢様か……有り、じゃなお嬢様よ』
『有り、でしょ? くふっ』
『くくく』
『『はははははは!』』
――とかやってたし。
というか……一ヶ月ぶりに外の空気を吸ったけど……どちらかと言うと、タマちゃんの神社の方が澄んでいた。……あたりまえか。
見ると俺たちが乗ってきたキャンピングカーは出入口を塞いだまま動いてなかった。だけどその手前に看板が立て掛けられている。
そこには高橋さんから聞いていた通り、明日からダンジョンが解放されると書かれていた。
「じゃあ私たちは一足先に仕事に戻るよ。ミクちゃんとタマさんに槐さん、前鬼さんと後鬼さんは私と一緒に。君たちは一ヶ月ぶりの学園になるから車を出すね」
大きな声で高橋さんがこの後の予定を話す。そして俺も合わせるように大きな声で返したけど
「ありがとうございます」
そして二台のワンボックスカーに別れて乗り込む。が、これは擬装だ。
ワンボックスカーに乗り込んだあと、タマちゃんが俺たちの車に転移でやって来る。
「しかしたかぴーのヤツ、ここまで神経質にやらんでも、正面から乗り込めばいいじゃろうに」
「でも高橋さんの調べだと俺たち環視されてるんだろ? だったら誰も乗ってない車を環視してもらった方が良くない?」
「そうじゃがな。まあよい、ほれ、あちらのキャンピングカーとやらに移動するぞ。他の者はすでに行っておるからな」
「うん、お願いねタマちゃん」
「うむ。行くぞ! 転移!」
次の瞬間、俺たちは乗り込んだワンボックスカーではなく、ミクと再会したキャンピングカーに移動していた。
「お兄ちゃん来た! タマちゃん凄いよね、私にも教えてよ」
「これは人間には難しいのじゃ。もし本当にやりたければ、まだ見つかってすらおらんスキルオーブを見つけねばならんじゃろうな」
「いやー、タマさんの転移のお陰で楽ができましたよ。ほら、モニターで私たちが乗り込んだ車が出発したようですよ」
言われてみんなが大型モニターに注目すると、二つに分かれたウインドウの片方に二台のワンボックスカーが護衛の車を引き連れてダンジョン前広場を出ていくところだった。
「それと、もうひとつウインドウはどうかな?」
「あ! あそこ! どろーんなのです! どろーんが飛んでるのです!」
ダンジョン前広場から出ていく視点とは別の視点、下から見上げるように設置されているカメラに映ったのはシオンが言ったようにドローンだ。
それはダンジョン前で探索者ギルドの入場監視員が休憩したりする建物の屋根から飛び上がった。
やっぱり監視してたんだな。この一ヶ月の間も何度かダンジョンに潜り込もうとしてくる人もいたし、予想通りだ。
ドローンは高度を上げ、走り去った車列を追いかけるように消えていった。
「さて、邪魔な環視は無くなったことだし、私たちも出発しようか」
髭もじゃに変装した高橋さんが運転するキャンピングカーは邪魔するものもなく、順調に山を下り、街へ戻ってきた。
向かう先は高橋さんが所有するレンタカー会社。そこで車を乗り換える予定。
キャンピングカーだと小回りがきかないのと、目立ちすぎるからだ。
だけど高橋さんが立てた作戦は結構な大事になるよな。現職の総理大臣。自衛隊まで動かしちゃうし。
それからどうやったのかわからないけど、御三家の現当主も動かしちゃったそうだ。
ギリギリまで反抗していたそうだけど、山本先輩はやりすぎたのだ。御三家の当主さんたちも孫がやったことだけど揉み消せるレベルを超えた。
ことが大きすぎた。もう何十人と被害者が出ている。佐藤先輩も、それから過去のことも含めて被害者の死亡している、大量殺人事件だ。
いや、揉み消せていたことに驚きだけどな。
それで今回の首謀者は山本先輩だけど、実行犯は聖一だ。まあ殺された佐藤先輩も何人もの人を死に追いやっていたそうだから山本先輩と同罪だと思う。
『そろそろ始まるよ』
高橋さんの声が、スピーカーから聞こえたその時、モニターの画面が切り替わり、朝のニュースが写し出された。始まるんだな。
テロップには【日本最大財閥御三家謝罪会見】と打たれ、大型モニターの全面に三人のお爺さんが映し出されていた。
フラッシュにご注意をと、画面全体に注意テロップが映し出され、テロップが消えると、カメラのフラッシュがお爺さんたちの影を背後の壁に何重にも投影されている。そこに女性の声が聞こえてきた。
『なんなのこれは! お爺様! 来いと言われ来ましたが何事ですか!』
聞き覚えのある声だ。そしてテーブルの上に置いてある【山本】の名札を前に置くお爺さんが――
『わかっているだろう凛。お前はやり過ぎたのだよ。これ程の罪は今この日本ではそうは無い』
そこで画面が引いて、真っ赤なドレスを着た山本先輩が 映し出された。おそらくパーティーか何かに呼ばれたと思って来たんだろう。
『な、何を言ってるの! 私は何もしていません! そこ! 私は映さないで! 肖像権の侵害で訴えますよ!』
いや、細かなことは俺も知らないけど、佐藤先輩を狙撃して殺し、俺のことも殺そうとした人を雇ったんだ、罪はある。
『凛。諦めなさい。すべてわかっていることだよ』
そして謝罪会見は、黒服のガードマンらしき人に羽交い締めにされ、叫び暴れる山本先輩を置き去りにして進められていく。
『まず、私ども
そう言ったのは【佐藤】と書かれた名札のお爺さん。佐藤先輩のお爺さんだ。
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