第56話 修行の終わり
地獄の一ヶ月だった。地獄、その名に恥じない過酷な修行を乗り越えた俺たち。
高橋さんだけは何度も外での仕事があるため抜けることもあったけど、高橋さん曰く――
『現役復帰しようかな……その方が次の修行じゃ、とか言われた時多少は楽でしょ?』
――と、半分死んだ目で呟いていたし……。俺も日々努力しておこうと心に決めたほどだ。
だってモンスターハウス攻略が休憩と感じるほどだったし。
それも三階層のいつものモンスターハウスと、四階層にあった隠し部屋のモンスターハウスが休憩所だ。
四階層のモンスターハウスに出てくるゴブリンは、ここのボスモンスターのホブゴブリンとメイジ、ヒーラー、アーチャーのレアゴブリンのオンパレード。
まあそのお陰でシオリの上級回復薬代も完済できた。本当なら自分たちも覚えたかったけど、タマちゃんが――
『何を言っておる。そんなものは今ある物を完全に物にしてからじゃ』
――と、完済後に出たスキルオーブは没収された。まあシオンは文字通り『ぶーぶー』言ってたけど……。
そのシオンは身体凶化のトリプルまで使えるようになった他、炎属性魔法もボールだけではなく防御系のウォール、省エネ攻撃系ニードル、範囲攻撃系バーストまで使えるようになった。
シオリは元々持っていた、身体強化 四属性魔法(火・水・風・土) 回復魔法 杖術 棒術 槍術 体術の七つを満遍なく鍛え上げられ、近接上等魔法使いになっている。
そして驚いたことに、ミクも覚醒して黒髪金目になった。そしてスキルだ。それは父さんが持っていたとタマちゃんに教えてもらった百鬼夜行。
本当なら俺がその役目をするはずだったんだけど……。タマちゃんはミクと契約を交わし、エンちゃんと、前鬼さん後鬼さんとも契約を交わした。
その時、『ミクはあやつより才能があるのう。それも桁違いじゃ』と大笑いしていた。
父さんはタマちゃんだけで精一杯だったらしいから、他に三人も契約できたから笑うしかないよね。
でもミク……ちょっと悔しがっていいよね? それからたまにはタマちゃんの尻尾もふもふもやらせてね。
それから高橋さん。修行前は、少し弛んでいた身体が引き締まり、スーツを仕立て直さなきゃ駄目なくらいだったと言う。
『生地だけでもすごく高いけど、凄く良いからレイくんも外に出たら一緒に何着か仕立てよう』
と、始めて聞くブランド名を色々と覚えさせられ、エルメネジルド・ゼニアとかロロ・ピアーナにスキャバル、ロンドナーの四ブランドの物を買うことになった。
学生だからスーツとか着る機会もないから無駄になるかも知れないけどね。
……学園の制服作ってもらおうかな……。制服は防具のひとつだから戦闘用にできるかどうかだけど。
そして俺。身体強化Lv5からLv8に。身体回復Lv 1もLv3にまで上がった。上がったということは、それだけ怪我して治したってことだ。
何度も前鬼さんには腕や足が飛ぶのは当たり前、何度上半身と下半身を離れさせられたか、思い出したくない。
一番死にそうだったのは、首を飛ばされた時だ…………これこそ思い出したくない修行シーンのナンバーワンだろう。
慌てた前鬼さんが俺を拾いに来て、俺の身体へ走っていくんだぞ? わけわからなかったよ。
まあそんなこともあって、今のところ身体強化はシオンと同じトリプルまで使える。
ダブルも三十秒から二分。トリプルも三十秒は続けられるようになった。
それ以上は今のところ発動すらする気配がないからトリプルが終わりなんだと思う。
「お兄ちゃん荷物はまとまった?」
「ん? ああ、まとまったぞ、ミクは終わったのか?」
「うん! エンちゃんと二人でやったからあっという間だよ! ほら、お兄ちゃんが最後なんだからね!」
「そうなんだ、ちょっとぼーっとしてたからか、な」
荷物をまとめたバックパックを背負い、ボストンバッグを手にとって、空いた手を引っ張るミクに続いて一ヶ月お世話になった部屋を出た。
高橋さんが持ってきたもので魔改造された社務所の一室にはみんなが揃っている。
シオンは見慣れたグレーのフルジップパーカにブラックカーゴパンツ。
シオリは色違いでグリーンのフルジップパーカにブラックカーゴパンツ。
横のミクはレッドフルジップパーカにブラックカーゴパンツ。
高橋は、いつもここにやってくる時のスーツ姿。
タマちゃんはなぜかメイド服……コスプレ?
エンちゃんは赤い着物から赤が主体の子供服……。いつの間にか設置されてたテレビで見たのか、プリ○ュアのTシャツだった。
高橋さんに頼んだのかな……本当にすいません。
そして一番まともなのが前鬼さんと後鬼さん。見た目がまるっきり人間になっているところも驚きだけど、普通なのだ。
前鬼さんは黒のポロシャツにジーンズ。
後鬼さんは白いブラウスにチェック柄のスカート。
うん。二人の間にエンちゃんを入れて手を繋がせれば仲の良い家族にしか見えないよな。
え、タマちゃんは高橋さんのメイド役? そうなんだ……。
「遅いぞレイ。わらわたちはとっくの昔に準備できていると言うに、何をしておったのじゃ」
「遅れてごめんなさい。ここに来てからのこととか考えてたらね」
「そうじゃな。短いようで長い一ヶ月であった」
「うん。じゃあ行こうか」
「ならば行くぞ! 転移!」
俺たちは過去の清算のためにダンジョンを出た。
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