第53話 おはよう

「なるほど、タマさんはダンジョンに囚われていたのか」


 なぜタマちゃんのところが安全なのかを、今はほとんど使われていない第二駐車場に止まり、説明している中で、タマちゃんがダンジョンから出れない話をした。


「なるほどな、あのスタンピードの後、いくら探してもらっても見つからないわけです」


「以前は父さんとの契約がある間は自由に出れていたそうです。だから今度は俺が契約できるように頑張っているところでした」


「前鬼さんと後鬼さんは私の師匠でもあるので……中々ツラい修行でしょう。思い出すだけで……あは、はは、はは」


 高橋さんも前鬼さんと後鬼さんに修行をつけてもらいSランクになったのか。


 Sランク。日本では最高ランクで、世界でも百人足らず、総理大臣や大統領とも国籍を越えて対等に意見できるそうだ。


 さらにその上のSSや、SSSは王様とも対等なんだけど、今はSSとSSSランクは各一人ずつ。


 SSの人は探索者ギルドのグランドマスターに最近なった方で、引退するかもしれないって噂がある。


 SSSランクの人はSSの人もだけど五十歳を越えているにも関わらず、役職には着かずにまだまだ現役だ。


 元気すぎだよ。


 そして規格外とされ、現在は不在のEXランク。


 このランクだと王様にでも命令したり、無理を通したりも出きるそうだ。


 それを聞くと無茶を言えば世界統一もできる。だけど長続きはしないだろうな。同じ国の中でも意見が合わず喧嘩、ひどいと戦争になったりするし。


 でもそうか、まったく敵わないと思っていた高橋さんも、前鬼さんと後鬼さんに……。


 それなら俺も強くなれる。高橋さんのようになんでもできて、シオンにシオリ、そして三久を守れる男にならないとな。


「はい。まだ基礎体力を上げたり、少し組手をするくらいですけど、厳しい修行ですね」


「だろうな。ならレイ君たちはSランク探索者になるだろうね」


 その時、大型トラックが俺たちが待つ駐車場に入ってきた。


 逐一、現在位置などが報告されていたので、そろそろ来るとわかっていたけど、やっとだ。


「予定通りの時間だね。尾行されている様子も無さそうだ。シオリくんの提案は正解だよ。ダンジョン前より、先に合流した方が、向こうでの話が楽だからね」


 大型トラックに追従してきた一台の車が、第二駐車場には入らず山を登っていく。


 先行させてダンジョン前の様子を探るのと、スムーズにダンジョンへ入れるよう手配してくれるそうだ。


「はい! 何から何までありがとうございます。シオリもありがとう」


「いえ。目覚めたばかりの三久ちゃんにいきなりあの現場に連れていくのはどうかと思っただけですから」


「いや、シオリが三久のことを考えてくれたことが嬉しいんだ」


 まだ手を繋いだままのシオリの手の甲を親指で撫でる。


 車窓からトラックが止まり、追従してきた車から黒服を着た男の人たちがあたりを警戒するようにトラックと、俺たちが乗る車を取り囲んだ。


「はは、ずっとソワソワしていたものな。じゃあ準備が終わったようだ、予定通り向こうに移ろう」


「はい!」


 高橋さんの車をなんとか降りる。シオンとシオリがくっついたままだから、少し苦労したけどね。


 シオリはだいぶマシになったけど、シオンは俺たちの腕を離そうとしないし、ここまで数回しか話してない。


 いや、シオリもシオンのお姉さんだから気を張っているだけか……、握り合った手を離そうとはしないし。


 トラックまでの数メートル、黒スーツの人たちに両サイドを守られながら進み、トラックの荷台のところまでやって来た。


「開けてくれますか」


「はい。周囲に変化はございません。皆様、どうぞ」


 荷台の下からウィーンと何かが出っぱってくる。キャンピングカーって言ってたけど、どこから入るのかと思っていたら階段が出てきた。


 動きが止まると高橋さんと奥さんが階段を上り、壁にしか見えなかったところが、ちょうどドアのサイズに凹み、スライドして入り口が現れた。


 二人に続いて階段を上り、中に入るとそこは部屋だった。


「スゴい……」


「高級なホテルの部屋みたいですわ……」


「はは。ほらほら三久ちゃんが待ってますから、奥へ行きましょう」


 呆ける俺たちは、高橋さんの言葉に足を動かすことを思い出し、奥に進む。後ろで扉が閉まる音が聞こえる。


 振り向くと乗り込んだのは俺たち五人だけのようだ。


 こんなに広くて、壁際の高級そうなソファーに、大型のテレビ、キッチンも高橋さんが進んだ逆側にあった。


「ここだよ」


 そういって前を開けてくれる。ドアの前に進み、震える左手でドアをノックした。


 コン――コンコン。


『はい』


 声が聞こえた。


 何年も聞けなかった声がドア越しに。


 それでも覚えていた声だ。


「三久!」


 思わず叫んでいた。震えて定まらない手をドアノブに添えて――


 ――引き開けた。


 そこにはベッドで起き上がり、こちらを見ている三久。


「三久……」


「お兄……ちゃん?」


「うん。うん。お兄ちゃんだよ三久」


 横に黒スーツの女性が一人ついていてくれたみたいだ。その方は俺たちが部屋に入るとスッと離れ、部屋を出ていく。


 そこでシオンとシオリも手を離してくれた。


 一歩、また一歩ベッドに近づき――


「おはよう三久。ずいぶん寝坊したけど起きてくれてありがとう」


「うん。いっぱい寝ちゃった。お兄ちゃんずっと毎日会いに来てくれてたって教えてもらったよ」


 駄目だ……あふれでる涙で三久の顔がにじみ始めた。


 脛がベッドの端に当たっても前に、三久の近くにと進み続けようとして――


「きゃ」


「ミクぅうううう!」


 ベッドに膝をつき、抱きしめた。


「泣き虫お兄ちゃんだ」


「うん! うん!」


 背中に腕がまわされ、ポンポンと優しく叩いたあと――抱きしめ返してくれた。そして――





「おはようお兄ちゃん」






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