第52話 Uターン
「高橋さん――」
「レイくん、言わずともわかっていますよ、私に任せなさい。だがその前に――」
座席から身をのりだし、病院へ、と言う前に返事をした高橋さんは突然――
「私です。聞いていましたか? すぐに病院を確認してください」
――前を向いて運転しながらそんなことを喋り始めた。すると、ピッとスピーカーから音が鳴り、声が聞こえてきた。
『すでに確認が取れています。長門様の妹、三久様の意識は戻っております。ですが、御三家の、それも山本凛の手の者が院内に入り込んでいるようです』
良かった。病院からの電話自体が偽の情報かもってほんの少し疑っていたけど、本当に良かった。
でも山本先輩の手の者? 海外に留学していると聞いていたけど……。
それになんのために三久の入院している病院にそんな人を……わからないけど、最悪三久が誘拐されたりするかもしれない。
今すぐにでも駆けつけてやりたいけど今は車で移動中だ。どんなに急ごうと頑張っても高橋さんの運転するこの車で駆けつける方が早い。
焦るな俺。そうだ、座席に深く座り直せ。心配そうに見てるシオンとシオリ、高橋さんの奥さんも後ろを振り返って見てる。
シオンが俺の右腕をぎゅっと抱きしめ、指を絡める手に力が入るシオリ。二人を見て頷き深呼吸をした。
止まらず通過できた交差点の信号機に感謝しながら話の続きに耳を集中させる。
「山本凛ですか、今日の案件はその山本凛の仕業かもしれませんね……だとするならば少々まずい事になるかもしれません。……三久ちゃんは移動に耐えられるでしょうか」
『大丈夫だと思われます。意識もハッキリとしているようですし、身体も筋力などは落ちているものの問題なく動かせるようです』
移動! そうだ! 怪しい人がいるなら、その人を排除するか、三久を移動させればいいんだ!
「……移動の準備をお願いします。十五分で病院前に私たちは到着しますので、それに合わせて病院を移しましょう」
『ではそのように』
「レイくん。三久ちゃんにも危険が迫っているカノウセイガ高いようですから勝手に転院を進めてしまいました」
「はい、よろしくお願いします!」
「レイ……三久ちゃん、タマちゃんちが一番安全なのです」
「確かにタマちゃんのところなら安全だ、だけど――」
「ですわね。あそこならまず入ってこれませんから……ですが」
「タマさんのところ、ですか? 私はスタンピードのとき以来、会っていないのですが、タマさんはどちらに? 場所さえわかれば移動する目的地を変更することもできますが」
「あ、タマちゃんは……いや、今はタマちゃんのところには行けないよシオン、高橋さん」
「ですわね。たった今逃げてきたところですもの」
「逃げてきた……まさかEランクダンジョンにタマさんがいる!? ……しかし三久ちゃんを匿うなら得策ではありますね。ですが、実行可能かと言われれば……」
その通りだ。一番乗り安全なのはその通りなんだけど、タイミングが悪すぎる。
俺たちがダンジョン前から離れてすぐに高橋さんは警察へ、佐藤先輩が狙撃され死亡したと連絡を入れている。
ダンジョンがある山を下りきる前に何台ものパトカーともすれ違っているから今頃はあの場所は警察によって封鎖されているだろう。
「あなた、今日のところはうちに来てもらうか、一番安全だと言うタマちゃんさんのお宅に行けるよう手配すればいいじゃない。できるでしょ?」
「……できますね。でしたらエルフィさんも巻き込みましょうか、エルフィさんが口添えしてくれれば研究所と総理も手を貸してくれるかもしれません」
「だったら行動あるのみよ」
「わかった」
エルフィさんって管理人さんだけど、総理が手を貸してくれる? 総理って総理大臣の事だよな? そんな人が管理人経由で力を貸してくれるって……。
「管理人のおばあちゃんすごいのです」
「はい、凄すぎですわ」
奥さんがスマホを操作して電話をかけ始めた。スピーカーに変えたのか、コール音が車内に響く。
五回目のコールでそれは止まり――
『たかぴーなんのよう? まさかデートのお誘い? だったら奥さんに言い付けてあげるわよ』
「エルフィさん、緊急事態です。力を貸してください」
いつもなら、『たかぴー』のところで一言入るのに、管理人さんの悪ふざけさえ無かったかのように状況の説明を始めた。
その空気を感じ取ったのか、黙って話を聞く管理人さん。
「――協力してもらえますよね」
「あたりまえよ。それなら高橋たちは三久ちゃんを連れてダンジョンへ向かいなさい。私もすぐに動くから。じゃ、また後で」
「よろしく――っていうんやなもう切れてますよ。せっかちなのは変わりませんね。では私たちも私たちがやらなきゃならない事をやっていきましょう」
「あなた、グリーンのランプが点灯したわよ」
「よし、三久ちゃんは無事確保できたようだ」
「じゃあEランクダンジョンに向かってもらいましょう」
「聞いていたな! 警戒レベル最大でEランクダンジョンへ急げ! 私たちも引き返す!」
『はい、出発します!』
通話が終わり、コンビニの駐車場へ飛び込んだ俺たちは、タイヤを鳴らしながらUターンして、今来た道を戻る。
そんなとき、切れたと思ったスマホから――
『警戒レベル最大だ! 大統領でも護れる私たちの護衛力の見せ所だ! 気合い入れろ!』
『『『『おう!』』』』
――と、頼もしい声が聞こえてきた。
「あらあらまあまあ。あなたは皆さんの護る対象になりようがないですもの。それがお嬢さんを護れるのだから、気合いが入って当然ね」
「う、うん。自分で対応しちゃうからあまり仕事がなかったからね……今度から少し自重することにするよ」
そりゃそうだ。元とはいえ高橋さんはSランクの探索者。護られる対象にはなりようが、ね。
でもこれで少し会えるまでの時間は延びたけどな。
三久。早く起きたお前と会って、話して、抱きしめたいよ。
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