第49話 対峙

 佐藤先輩とリバティはダンジョンに入っていきました。めでたしめでたし。


 ……と、そんなに都合良く行くわけもなく。


 着地して、シャトルバス乗り場に向かおうとする動きに合わせてついてくる。


 だよな……。シャトルバスはすでに来てる。さっさと乗って帰りたいが、それを簡単にさせてくれないだろうな。


「どうしようか……このままシャトルバスに乗るのが一番なんだけど、佐藤先輩には町中で襲ってきた前科があるからなぁ」


「駄菓子屋岡間室長さん怪我したです」


 シオン。駄菓子屋と岡間室長さんの間に『で』とか入れようね。それじゃ岡間室長さんが駄菓子屋してるみたいだ……似たもんか?


「ああ、私が退院した日のことですわね。でしたらこのままシャトルバスに乗るのはおすすめできませんわね」


 そうなんだよな。夕方のこの時間だと帰る探索者も多い。疲れて帰ろうというときにトラブルになんて巻き込まれたくない。


「話だけでも聞いてみるか」


 二人はコクリと頷き賛同してくれた。


「ありがとう。それじゃあ――」


 すぐ後ろまで来ていた佐藤先輩たちに振り返り――


「なにか用ですか? 


 そう話しかけた。


「ああ、昼間学園で話そうとしたけど、こんなところで合えるとは思いませんでしたよ」


 ん? まったく気づいてない? リバティもつっこまないし。


「今日はこの学園ナンバー1のリバティさんたちにダンジョンに無理言って連れてきてもらったんです」


 話を続ける佐藤先輩。横を見るとシオンもシオリも首を小さく横にふり、頭の上に『?』が浮かんで見えそうだ。


「そこで教えてもらった君たちのパーティーは三人。パーティーの推奨人数が四人か五人。ですから俺をパーティーにいれてもらえないかなって。どうかな?」


 気持ち悪い……わかってるからかもしれないけど、こんなに気持ち悪い張り付けたような笑顔は見たこと無い。


「あ、俺は見ての通り剣術持ちの前衛アタッカーで、そこそこ強いと思うんだ。見たところ二人が前衛で一人が後衛の魔法使いだよね?」


 続けて話しかけてくる佐藤先輩。後ろでニコニコ見てくるリバティ。


「そうだとして、をパーティーには入れませんよ。俺たちは三人で上手くまわっているので、他を当たってください」


「そんなこと言わないでさ、お試しで一ヶ月くらい時間をくれないかな? 損はさせない自信があるよ?」


「レイ、の顔、気持ち悪いのです」


 シオンがまた呼び捨て……まあこの場合はいいか。佐藤先輩も目が点になってるし。


「は?」


「そうですわね。あまり言いたくはありませんが、今回はシオンの意見に賛同しますわ」


「いや、ちょ――」


「と、言うことです。仲間になること自体が損にしかなりません――」


 ふうと肺にたまった空気を吐き出し、新鮮な空気を吸い込む。


 はは……緊張して呼吸を忘れるほどだったのか。そうだ。俺はもう本当の仲間がいる。寝取られ、裏切られたあの頃の俺じゃない。


「――それに、    ……いい加減気がつきませんか?」


「ん? 何に気づいてないって?」


 これだけためて、強調して言っても本当にわかってないようだ。耳に入った言葉が頭の中で都合よく変換されてるのかもしれない。


 それなら……もうこんな茶番劇に付き合ってられない。


 あ、リバティの名前なんだったっけ、ムキムキじゃなくて……あ、敷島先輩は気がついたようだ。今頃かと言いたいけど、その言葉を飲み込む。


「もういいですよね? パーティーには入れません。何度説得しに来てもをパーティーには絶対しないので」


「帰るです。バイバイ、バイバイりばてい」


「それでは失礼いたしますね。とリバティの皆さん」


 そう言ってシャトルバスへ向きを変えた。背後の動きには意識を残したまま。


「ちょっ、ちょっと待って! クラスメイトだよね? この扱いは酷くない?」


「ちょ、ちょっと待って! アイツらって言ってますよ! って!」


「ん? 何言ってんだ? 敷島……先輩、そんなこと当たり前だろ?」


「だからじゃなくてって言ってるんですよ! 思い出したら最初からっていってましたよ!」


 足は止めず、チラリと後ろを見ると焦った敷島先輩以外がやっと気がついたみたいで口をポカンと開けていた。


「今頃気づくとかコントかと思ってたです」


「ですわね。さあ、固まってくれている内に帰れると良いのですが」


「ははは……、無理だろうな。でも、それならそれで、決別するためにと、岡間室長のお返しもまだだったし、ちょうどいいかもしれない」


「ええ。それに佐藤先輩は保護観察処分中ですのに、この街に戻ってきているのも駄目ではなくて? この街に居住を移していれば良いのでしょうけど、整形して顔が別人になっていますものね」


 そうなのだ。お昼に高橋さんにも聞いた。保護観察担当の方にも連絡はしているはずだ。


「佐藤先輩。ここはおとなしく保護観察員を呼んで連れ帰ってもらうか……それとも今度はリバティを使って襲ってきますか?」


「土佐、強化補助三倍を全員にかけろ。ここまでバレてちゃどうにもなら無い。ならレイの悔しがる顔ぐらいは見て帰らないとな」


「佐藤君、全員にかけたら俺、魔力切れで動けなくなるんだけど」


「構わねえだろ? 二人いるんだ、片方はお前が最初でいいぞ、ま、俺は姉をヤるから妹になるけどな」


「それならいいか」


「二人に何をするって!」


 心臓がどんどん血を身体に送り込み、すぐにでも目の前のに飛び込めと急かしてくる。


「ふぅー。シオン、シオリ。下がってて。俺だけで十分だから」


 上手く笑えたと思う。だって――


「ん。任せたレイ」


「レイ。よろしくお願いしますわ」


 ――そう笑顔で返してくれたから。


「なめやがって! 土佐! 強化補助早くかけろ! 手足は潰しても構わねえからやっちまえ!」


「いくよ! 補助魔法! 三倍強化!」


 土佐先輩から魔力の光が立ち上り、他の四人へ降り注ぐように一人ひとりを包んでいく。


 三倍かなにか知らないけど、悠長に待ってやる気は最初から無い!


「身体強化! ダブル!」


 ドンとアスファルトの地面を蹴り、次の瞬間には佐藤先輩の目の前。


 俺は――

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