第45話 クラスメイト
「ホームルーム始めるぞ、席に着けー」
いつも通り覇気の無い、柊先生の言葉でお喋りしていたクラスメイトたちは自分の席に戻っていく。
女子たちは、『イケメンじゃない』『うん。格好いい』『彼女いるのかな?』『遠距離恋愛だから略奪愛よ!』と、受け入れ態勢だ。
というか略奪愛……うん。廊下側の君、頑張って……ん? この場合頑張ってもらうのもマズくないか?
うん、駄目だ、ほぼ知らない子だけど、佐藤先輩やリバティの先輩たちにむちゃくちゃされるかもしれない。
一応気にかけておいた方がいいな。
反面男子たちは舌打ちするものが何人もいるが、おおむね好意的に見ている気がする。
先生の横で俺たちの方に視線を送り、ニヤリと笑う転校生。
体格はダンジョンで見た男で間違いない。それに記憶にある歩き方や仕草も佐藤先輩だ。
……来るだろうとは確信していたけど、本当にわざわざ学年を落としてまで……。
横を見るとシオンとシオリが俺を見ている。俺は声には出さず――
『佐藤先輩で間違いない』
――と、口パクと、頷くことで知らせておく。
「あー、連絡事項の前に、もう気づいているだろうが、今日からこのクラスに新しい仲間が加わることになった」
二人もコクリと頷き前に視線を戻し、俺も前を向いたところで柊先生が佐藤先輩を簡単に紹介したあと、話を先輩にバトンタッチした。
「安藤 豪です。中途半端な時期の引っ越し、転校で友達とも離ればなれになってしまいました。なのでクラスメイトのみんなに早く溶け込み、仲良くしたいと思っています」
安藤と名乗った佐藤先輩は、黒板の前で教室全体を見回したあと――
「それと探索者もやっています。友達と共にパーティーにも入れれば嬉しいです。よろしくお願いします」
チラリと俺の方を見て来るけど絶対に仲間にはしない。するわけ無い。だけどまわりのみんなは――
「私たちのパーティーに入って!」
「友達どころか彼女になってもいいでーす」
「いや、俺たちだ! アタッカーなら大歓迎だそ!」
「彼女いますかー」
「補助系募集してます! 魔法、物理アタッカーも大丈夫です!」
「俺も彼氏募集中だ!」
「一緒に強くなれるよう頑張りましょう!」
「うちのぉ、パーティーもぉ、メンバー募集してますぅ」
一人、おかしな男子もいたけど、クラスメイトとの初コミュニケーションは成功のようだ。
「はいはい、そこまでだ。安藤君の席は長門の横に席を用意し――なんでた!」
やはり席を移動しておいたのは正解だった。だから席は俺の横にはない。
それを見て驚き声を荒げた柊先生を、俺たち方へ歩き始めていた佐藤先輩が止まり、先生を睨み付けているが、一瞬で元の笑顔に戻した。
「先生ぇー私の横が空いてまーす」
廊下側の子が笑顔で手を上げ、手招きしてる。うん。物凄く笑顔で。あの子さっき『略奪愛』と言ってた子だ。
「そ、そうか、あ、安藤君はあちらの席に」
「…………はい」
しぶしぶといった感じで方向を俺たちから離れた席に向かう。
でも今のやり取りでわかったことがある。柊先生は御三家、佐藤先輩の味方だってことだ。
席までたどり着き、教科書が椅子の上にあるのを見て、また顔をしかめる。
やっぱり教科書の貸し借りで距離を詰めようとも考えていたんだろうな。
これで略奪愛の子にも少しだけ近づく機会を奪えたわけだが……って、すでに机をくっ付けに行ってるよ!
転入時の俺たちへ近寄る道はとりあえずこれで阻止できた。が、略奪愛さん……気をつけてね。
今はそう祈ることしかできない。さすがに初日から俺たち以外に狙いを変えるとかはないはずだけどね。
午前中の休み時間は凄かった。佐藤先輩はクラスメイトに囲まれ、席から動くこともできず、時々こちらをチラチラと見るだけで終わった。
「お昼休みもこのまま教室にいる方が監視しやすくはあるが、それは向こうも同じだ」
「そう、ですわね。食事中に来られますとこちらも逃げることもできませんしってシオン?」
「むくっ? ひょへはらふぁやふぅふぁへへふぁ――」
シオン……おにぎりにかぶりついたままじゃさ、なに言ってるかわからないって……。
「シオン……飲み込んでからでいいぞ」
「もう、ほら、手がごはん粒だらけじゃない」
「むっくむっく……んくん。それなら早く食べればって言ったですよ。はくっ」
「そ、うだな。さっさと食べちゃおう」
「ですわね」
大きめのおにぎり。今日は塩昆布と梅干だ。ラップに包んであるから普通はシオンみたいにごはん粒だらけにはならない。
でも、ま、幸せそうだし良いってことにしておこう。
手についたごはん粒もチロチロと小さな舌を懸命に動かして食べきったシオン。その目は俺とシオリの残り半分になったおにぎりに釘付けだ。
そっと食べかけを差し出すと、目を見開き――
パクッ――
――だから速いって! 以前前鬼さんが被害者だったが、お菓子以外でもこのスピードが出るのは正直凄いな。
その横で、残りのおにぎりを半分に割り、食べ終わったラップに包みシオンに差し出すシオリ。
おお、手で受け取ったぞ……今度から俺もそうしよう。
だけどちょっと食べ終わるのが遅かったようだ。佐藤先輩が席を立ち、こちらに向かってくるのが見えた。
「あ、来ちゃうです……」
「そのようね。じゃあ私たちも移動しょうか」
「だな。行こう」
最後の一口を口にほうり込み席を立つ。横から来るのを避けるため、俺たちは教壇側に移動する。
「あっ、ちょっと――」
聞こえないふりしてそのまま進むが、そんな俺たちを見てくる食事中のクラスメイトたち。
「あっ、安藤君、どう、一緒にお昼ごはん食べない?」
「え? 安藤君? 本当だ! 安藤君、ここ座って! 一緒に食べよ」
「あ、いや、俺は、そう、購買に行かなきゃならないからまた今度誘ってくれるかな?」
「えー。じゃあさ、みんなで分けっこすればいいじゃん。みんなー安藤君にお昼ごはんカンパだよー!」
おお! あの子たち! ナイスガードだ! 二重、三重の完璧な包囲網で歩みが止まってる。
黒板前を過ぎる頃には完全にお弁当を片手に持ったクラスメイトたちに取り囲まれてしまった。
佐藤先輩は俺たちについてこれなくなったのをチラと見て、教室を出たんだが……。
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