第46話 動き出す日常
「あ、りばていが来るですよ」
シオンが先導する廊下の先にリバティの四人の姿が見えた。
フラッシュバックするようにダンジョンでの話を思い出し、怒りが込み上げてくる。
爪が手のひらに食い込み痛みが冷静さを少し取り戻す手助けをして、シオリの――
「来てもどうということはありませんわ。佐藤先輩とやらが言ってたでしょ?」
――その言葉で熱せられた空気を肺から吐き出し落ち着きを取り戻せた。
「そう、だな。ふぅ。なら気にせず……どこに行く?」
「購買行くですよ! 今日はチョココロネが入荷する曜日なのです! 明日は特選メロンパンの日ですよ!」
なにやらメモ帳を出してきて、俺たちに向けて開いて見せてくれる。
月曜日から毎日、狙いの菓子パンなのか――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
👍️小倉トースト、🍩ドーナツ各種
✴️チョココロネ、🐚カスタードクリームコロネ
♥️特選メロンパン🍈
💮十勝産小豆と生クリームサンド🥪
💯フルーツサンド🍓
☀️土曜日限定ダブルクリームシュークリーム、🍫エクレア
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
と、なんともキレイに彩られた販売される菓子パンの詳細が書かれていた。
「チョココロネ……」
うん。シオリも食べたそうだし、購買のパンとか初めてだけど行ってみるか。
チョココロネか、カスタードクリームも気になるし、どんな味なんだろ。コッペパンにチョコクリームが挟んであるヤツより美味いのかな。……楽しみだ。
「あと、定番のカレーパンもおすすめなのです。だけどハバネロカレーパンは要注意です。アレは強敵なのですよ」
「シオン、また凄いものに挑戦していますわね。前に一口いただきましたが火を噴きそうでしたわ」
「火を噴く? もしかして辛いカレーパンか? でもカレーは辛いものだろ?」
「ぬふふふ。その考えは井の中のカエルさんなのです」
「もう、それを言うなら『井の中の蛙』でしょ? レイ、そのカレーパンはですね、ハバネロというとても辛い唐辛子の仲間が調味料として入っているのですわ」
苦笑いのシオリ……、そうとう辛いんだと想像できる。が、余計に食べたくなってきたぞ。
「へ、へえ。少し興味があるな。それは売ってるんだよな? チョココロネにカスタードクリーム、そこにハバネロカレーパンは買いすぎか」
「買えば良いのです。お残しはわたしが食べてあげるですよ」
「そうだな、そのつもりで行こうか――っ!」
しまった! シオンのメモ帳に集中してリバティのことを見過ごしてた!
「れっつごーなのです」
前を向かず、両手の握りこぶしを勢い良く振り上げるシオン。
間に合え!
シオンの腕を抱え込むように抱きしめた。
間に合った。あのまま振り上げていたら横を通りすぎようとしていたリバティの敷島先輩を殴り飛ばすところだ。
敵対しているのだから殴り飛ばすのは、どちらかと言えば有りなんだけど、通りすがりに意図せず殴るのは駄目だ。
「シオン。まわりを見てくれよな。シオンの力はヤバいんだか……ら?」
「もー、レイはこんなところで大胆なのです。んきゃ!」
シオリもどこからか出した本でシオンの頭を叩く。
「馬鹿。見ず知らずでは無いですが、いきなり人を殴り飛ばすところでしたのよ?」
「はへ? ……あ、りばていのムキムキ先輩です」
「けっ、見せつけやがって、って誰がムキムキマッチョ先輩だ! ……ところでお前たちは三人だけか?」
顔をしかめながらだが敷島先輩が話しかけてくる。
だけど後ろにいる三人はシオリとシオンを舐めるように視線を向けてきている。
「マッチョは言ってないのです。ムキムキ先輩は目が悪いのです? 見ればわかるのですよ。わたしたちは五人! 悪の組織と戦う正義の使者! 『レイと愉快な仲間たち』なのです! それともムキムキは数が数えられないです? あ、お助けキャラも三人いましたのです」
いや、三人だし、悪の組織と、は戦っているのかもしれないけど、『レイと愉快な仲間たち』って何! あと二人もだけどお助けキャラも気になるじゃん!
あ……サラっと先輩を抜いてムキムキになってるし……。シオン、煽り過ぎだぞ……。
まあ、おそらくここ、学園の中なら先輩にも負ける気はしない。俺とシオンは常時身体強化しているようなものだしな。
相手がスキルを使ってくればわからないが……。
あれ? シオリは油断無くいつでも動けるように身構えてるが、口を手でふさぎ笑いをこらえるように見える。
「くっ! 言わせておけば好き勝手言いやがって!」
「ムキム……敷島君。ここで問題を起こすのは得策ではありませんね。それから大和妹、あまり俺たちを怒らせない方がいいよ?」
「ムキムキ、このイケメンもムキムキのことムキムキ言ってるです」
「土佐お前! てか大和妹てめえの方がもっと言ってるだろ!」
「んきゃー! ムキムキが怒ったのです! 怪人ムキオコマッチョに変身したのですよ!」
「なんだよそれは! もう我慢ならねえ!」
さらに煽るシオンへ詰め寄る敷島先輩。だがここまでだな。
「シオン落ち着け、敷島先輩も落ち着いてください」
シャドーボクシングを始めたシオンを羽交い締めで止める。
「うるさい! 煽って来たのはそっちだ! 覚悟しやがれ!」
シオンに向けて殴りかかってくる敷島先輩。今回はシオンの自業自得だけど、大人しく殴らせる気はない。
パシッ!
「無駄ですよ敷島先輩。これくらいの攻撃だと俺やシオン。それにシオリにも届きませんし、全部俺が防ぎます」
「チッ! は、離せ!」
掴んだ拳に力を込めて離さない。敷島先輩がいくら引っ張ったりしてもビクともしない。
学園一位の実力で、Aランクパーティーだけど、攻撃速度も、魔法特化ならムキムキな体でも遅いし力も弱いんだな。
たぶんシオリも昨日の修行で動けるようになったから、これくらいの攻撃なら避けることなんて問題ないと思う
「敷島先輩。今回はシオンが煽ったことは正直申し訳なかったです。でも殴りかかるのは違いますよね」
「や、やかましい! おい、土佐! やっちまえ!」
「い、いや、今はマズイと言うか……」
土佐先輩が加勢することに躊躇する。それもそのはず、俺たちが向かおうとしていた廊下の角に、見知った顔が見たからだ。
それと、その横には校長先生もいた。
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