◆第40.5話 暗躍する者たち(佐藤先輩視点)

「ふざけるな柊! お前が俺を使うんじゃねえ! 俺がお前を使うんだ! わかったら俺からの指示を大人しく待ってやがれ!」


『いや、しかし、私もそう上から指示を受けたのであって、その、指示に反することは』


「凛だろ? 俺から言っておくからお前は盗撮したものでマスでもかいてればいいんだよ! わかったな!」


 柊の野郎。何が『私の指示通りに動いてください』だ。………凛のヤツ舐めやがって!


 落ち着け。今はまだ動ける状態じゃない。何もかも足りなさすぎる。


 この魔道具を外したとして、現状弟に手を出すには駒が足りない。


 凛のヤツは論外だとして、今までは使えていた暗部は身内が相手となるから使えないといっていい。


 嫡子から外された時点で暗部を使う権限も外されたからな。


 それでも俺のために動いてくれるヤツもいるだろうが一人ひとり聞いてまわることもできやしない。


 なら呼び出したリバティはどうだ? ……脳筋の集まりだったな。確かに学生の中では全国レベルに強くはある。


 だが奴らはバカだ、頭を使ったり、相手の出方で言動を変えていくような臨機応変で、複雑な作戦には使えない。


 聖一と二葉、あんなのでも使えれば弟と面識もあるから多少は使えそうなんだが、意識が戻る気配もないと聞いた。


 あとは柊か。あの事なかれ主義はまだ使えるか。ロリコンの盗撮野郎だが、学園内限定の情報を集めさせれば暗部以上だ。


 凛から変な入れ知恵されてなければだが……。


 ま、手駒に関してはコイツを外してからだな。


 ん? ……待てよ。アイツらを使えるんじゃないか?


 黒くなったスマホのディスプレイに映る顔。二ヶ月前にこの顔になったんだよな。


 そうだよ、レイを上手く手駒に取り入れられれば、あの力はいい武器になるじゃねえか。


 俺が現状勝てないAランクを相手取れる強さを持ってた奴らを瞬殺できる力はぜひ欲しい。


 それにこの顔なら近づいても絶対バレることはない。それとパーティーを組んでいた残りカスの身体凶化とかふざけたスキルも、基礎レベルを上げれば使える。


 最後に残りカスの姉だ。柊の話ではレイのパーティーに今日入ったんだったな。


 学園最強のAランクパーティー、リバティに入っていたくらいだ、使えるだろ。確か結構な美人だったよな……なら身体も使わせてもらうか。


 よし、だいぶ見通しが明るくなってきたな。まだまだ険しいことにはかわりないが――


「お、お疲れ様です。お客様、い、Eランクダンジョン前に到着しました。あ、あの、料金は――」


 なんだこの運転手。いい考えがまとまりかけてたところに水を注しやがって。金?


「払う分けねえだろ。授業料だと思ってお前が払っておけ。じゃあな」


『ひぃっ! や、やっぱり! もう嫌だぁあ!』


 ドアを開け、何か言ってる運転手を睨み付けてから外に出る。


 ドアを蹴って閉めたとたん逃げるようにタイヤを鳴らしダンジョン前の広場を出ていくタクシー。


「なんだありゃ……、無茶な運転しやがって」


 ま、あんな底辺の奴らのことなど考えるだけ無駄か。おっ、バスが着いたな。敷島の野郎は……いた。


 よし、早速入ってさっさと外してしまうか。なにをするにしてもまずはそこからだ。





「佐藤くん。お待たせ」


「おう敷島。土佐も来てるな」


「ええ。佐藤君。僕と敷島をあわせて呼ぶってことは……それだね腕輪」


 左手首に嵌まる腕輪を指差す。


「ああ。無理矢理つけられてな。不便でしかたない。敷島、土佐の補助があれば外せるだろ?」


「見ていいか?」


「おう、ほらよ」


 敷島の前に腕を上げると魔力を流し始める。


 コイツ、脳筋の癖に魔力の扱いは上手いんだよな。そのお陰でAランクに登り詰めてるんだが……納得いかないんだよな。


 マジでそれ以外は脳が筋肉でできてるヤツなのに……。


「……ああこれは限定的にしかスキルを抑えられないタイプだから問題ないな」


 思った通りだ。よし。運が向いてきたな。


「ですが佐藤君。ここでやるには人の目があるじゃないですか。やるならダンジョンの中で」


「そうだな。よし、さっさと行くぞ」



 リバティを引き連れダンジョンに入る。


 さすがに入ってすぐは目立ちすぎるな。一つ横道に入るか。


「ルートから外れるぞ」


「そうだな。ちょうど帰ってくる探索者もいるしそこを曲がろう」


 敷島が言うようにまだまだ遠いが探索者が見える。


 チッ、コイツが外れたあとならスキルの勘を取り戻すために使ってやってもいいが、運のいい奴らだな。


「でしたらこの先に小部屋がありませんでしたっけ? そこなんてどうです? あれ? 違ったかな?」


 土佐が提案して、自信がなくなったのかオロオロし始める。


 本当にバカだなコイツら。敷島はわかってない顔をして首をふり、他のヤツも――


『え? そんなのあったか?』

『逆の通路じゃなかったか?』


 ――なんて言ってやがる。


 今回は土佐の記憶はかろうじて正解だ。言ってた小部屋は俺も知ってる。レイのレベル上げをしていた時に何度か使った覚えがあるからな。


「ついてこい。俺が案内してやるから遅れんなよ」


 ったく。コイツらは力業でやる時にしか使えねえ駒だな。


 二階層へのルートを外れ、記憶にある小部屋を目指し横道に入った。

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