第41話 盗み聞き

「止まって――」


 囁くように二人に言ったあと、通路の角から覗き込む。


 謎の男とリバティの四人が、以前何度も使ったことのある小部屋に入っていく。やっぱりここか。


 この時点でレベル上げが目的ではないことはわかっている。何度も現れたスライムのほとんどを無視して進んできたからだ。


 どうする。近くまでよれば声は聞こえるだろうが、出てきたら鉢合わせになる可能性は高い。


 いや待てよ……鉢合わせしたとして……都合が悪いことってなんだ? ……無いよな?


 あげるとすれば、シオリのことでリバティのメンバーに絡まれる可能性が高いくらいだ。


 それはそれで面倒だけどな。よし行くか。


「行くぞ」


「はいなのです」


 返事をしたシオンと、コクリと頷くシオリを先導するように足を進める。


 近づくにつれ、小部屋で話されている声が聞き取れるようになってきた。


『――島、どれくらいか――る』


『佐――そうだな約――五分ほど。集中――』


 約○五分と聞こえた。十五分だろうか。ならしばらく出てくることはないはずだ。


 足音に気を付け進み、大胆に部屋のすぐ手前で止まって聞き耳を立てることにする。


 後ろを見ると、目をキラキラさせたシオンと、スマホを出してポチポチしてるシオリ。


 うん。シオンはいつも通りだな。


 スマホを操作していたシオリが操作画面を見せてくれて意味がわかった。


 そうか、スマホで会話の録音してくれてるんだな。さすがシオリだ。


 シオリに向けて頷きながら親指を立てグッと立てると微笑み返してくれた。


 よし。会話に集中だ。


「佐藤くん。でもコレ外しても大丈夫なのか? 警察じゃなくて佐藤家からの戒めだろ?」


 ――っ! 佐藤家!? え? この部屋にいる謎の男は佐藤先輩なのか!? いや、顔は全然違ったぞ!?


「敷島。後で似た腕輪でもしておけばバレることなんて無い」


「佐藤君。似た腕輪なら持ってるよ、ほら今つけてるのそっくりでしょ?」


「土佐、ナイスだ。敷島、擬装の用意も完璧だ、早く魔道具の解除を始めろ」


「そういうことなら、始めるよ。まずはスキルを封じている部分を弱めて、後は一気にかな――」


 ……佐藤先輩で間違いなさそうだ。だけど着ていた制服はうちの制服だったよな? 転校したんじゃなかったのか?


 それもだけど、戒めのために付けられた魔道具。それもスキルを封じてるものを外そうとしてる。


 他人の家のことだからそれが良いか悪いかはわからないけど、わかったことは佐藤先輩がまた学園に戻ってくるってことだ。


 なぜ? 保護観察処分で他校に転校したと聞いたのに、そんなこと可能なのか?


「それで佐藤君。ソレ外してどうするつもり? リバティに入るの?」


「そうだな。リバティに入るのもいいかもしれない。が、今回は見送りだ。狙いはレイのパーティーにもぐり込む」


 え? 俺たちのパーティーに?


「ふ~ん。それでどうするの? 俺たちは大和姉をパーティーから脱退させるなって言われてるけど、なんだか無理そうだし、もしかしてソレ、山本さんの作戦かい?」


「凛の作戦なんか放っておけ。それからお前らはもう大和の姉にこだわらなくてもいいぞ」


「え? いいの?」


「ああ。構わねえ。それとコレは俺の計画だ。いいか土佐。詳しくは言えないが手駒としてレイの力が必要だ。それと残りカス、大和の妹の方も、姉の方もな」


「なにをするつもりって聞いちゃ駄目?」


「……ちょっとだけ教えてやる。まあコレはついでなんだが大和の姉をいただく。一番は俺がもらうが、その後はお前らで好きにすればいい」


 なんだと! シオリは俺の大切な人だ! 佐藤先輩なんかに、リバティにも絶対渡さない!


 そう叫んで小部屋へ踏み込もうとしたとき、しゃがんでたシオンが腰を、横でスマホを小部屋に向けて手を伸ばしていたシオリが俺の口をふさぎ、腕を掴み止められた。


 なんでだ! と目を向けると二人はそろって横に首をふっている。


「おお~。いいね~、俺たちも大和の身体は狙ってましたからね~。ヤる順番も決まってるんですよ?」


「だと思ってたぜ。ま、俺がぶちこんでる間は大人しく待ってろよ」


「え~、口は使ってもいいでしょ? 後ろでもいいけど」


 ヤる? ぶちこむって――銃かなにかで『殺る』ってことか! 許さない!


 っ! シオン何して――!? おい! 下ろせ! は、離せ! コイツら全員ぶっとばしてやる!


 シオンは俺を肩にかつぐ。足が完全に浮いてしまった。


「馬鹿か。女抱いてるときに男の裸とか見たくねえっての。ま、それはあくまでもついでだ。この先を聞きたかったら、俺の下につくことだな。悪いようにはしないぞ」


 抱くってなんだよ! 殺しておいてなにする気だ! シオン! 離せ!


 シオリが俺の頭を脇に抱え込み両手を使って口をふさぐ。叫ぼうと口を開けた口へ指が入ってきた。


「――っ!」


 これじゃ口を閉められないじゃないか! なんでだ!


「ん~、少し四人で相談してからかなぁ。どうせ学園に戻ってくるんでしょ?」


「ああ、返事は大和をいただくまでに聞かせてくれ」


「りょ~かい」


 その後は雑談が始まったていたシオンに抱き上げられたまま、シオリも俺の口をふさぎ、胸に抱き抱えながら小部屋を離れた。


 戻れ! アイツら許さない!

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